EQシリーズ拡張の勢いには驚かされるばかりだが、その仕上がり具合にも隙きがない。単に駆動源を変更するだけではなく、価値観そのものの転換とその哲学が、クルマの隅々にまで表現されているのだ。ミドルサイズSUVカテゴリーのニューBEVに乗った。(Motor Magazine2023年6月号より)
廃棄漁網からのリサイクルで作られたフロアカーペットを採用
メルセデス・ベンツのBEVサブブランド、EQシリーズのラインナップが続々拡大中だ。2022年夏に発表されたEQS SUVの日本上陸もまだだというのに、今回は次なるニューカマー、EQE SUVの試乗のため、ポルトガルはリスボンへと赴いた。
外装の一部やインテリアなどには、リサイクル素材も積極的に採用されている。ダッシュボードの造形も新鮮。
全長4863×全幅1940×全高1686mmというボディサイズは、同じEVA2プラットフォームを用いるEQS SUVよりひと回りコンパクトなだけでなく、フォルムもスリークで引き締まった印象だ。その果実がCd値0.25という驚異的な空気抵抗の小ささ。現行Aクラスハッチバックに肩を並べる数値だと言えば、その凄さが伝わるだろうか。
3列シートは用意されず、2列5人乗りレイアウトとされるインテリアは、ダッシュボード中央に縦型タッチパネルを配置するなど最近のメルセデスベンツに共通のテイストで仕立てられている。
特筆すべきはそのマテリアルで、サステイナビリティに配慮した素材がふんだんに使われているのだ。たとえばダッシュボードやドアトリムなどにはシンセティックレザーを採用。フロアカーペットは廃棄漁網からのリサイクルで作られているといった具合だ。
実は他にも、アウタードアノブは廃タイヤを原料にしているなどその哲学は車両全体に貫かれている。BEVユーザーの高い意識に応えるプロダクトとして仕立てられていると言えるだろう。
巧みな駆動力の制御と心地良いドライバビリティ
今回、主に試乗したのはEQESUV350 4マティック。電気モーターは前後に1基ずつ搭載され、最高出力が合計215kW(292ps)、最大トルク765Nmとなる。バッテリー容量は90.9kWh、航続距離は最長551kmとされる。
この電費を最大化するべく、ハードウエアにも改良が加えられている。まずひとつは、4マティックのフロントアクスルへのDCU(ディスコネクトユニット)採用。不要な時に前輪を電気モーターから完全に切り離すことで、約6%の電費向上に繋げている。もうひとつがヒートポンプユニット。電気モーター、インバーター、バッテリーから発生する熱を暖房に利用することで、こちらは約10%の電費改善を可能にするという。
走りの印象は、まず軽やかさが光る。転がり出しの良い発進は2.5トンにもなる車重を意識させないものだし、その後の加速も伸びやか。蹴飛ばすようなダッシュで圧倒するのではなく、心地良いドライバビリティで魅了する。そんな走りを実現している。
エアサスペンションを標準装備とすることで、乗り心地は非常にソフト。それでいてフットワークが軽快なのは、低い重心、最大10度まで操舵を行うリアホイールステアなどの効果だろう。
さらに見逃せないのが、4マティックの制御だ。ドライビングモニターを見てると、コンフォートモードでは積極的に前輪の駆動力を活用している様子。DCUは断続にドグクラッチを使っているが、走っていて存在を意識させることは皆無だ。スポーツでは常時4WDに。いずれにせよ駆動力の制御は巧みで、ドライブが楽しい。
オフロードモードも用意される。試乗ルートに設定されていたフラットダートでその実力を見ようと思ったのだが、電動4WDはそもそも制御が緻密で走破性に優れ、専用モードでなくても余裕で走破できてしまった。
メルセデスEQ EQE SUV350 4マティック主要諸元
●全長×全幅×全高:4863×1940×1686mm
●ホイールベース:3030mm
●車両重量:未発表
●モーター:交流同期電動機✖️2
●モーター最高出力:215kW(292ps)
●モーター最大トルク:765Nm
●バッテリー総電力量:90.6kWh
●WLTPモード航続距離:460-551km
●駆動方式:4WD
●タイヤサイズ:265/40R21(試乗車装着)