インプレッサとして6代目となる新型モデルにサーキットで試乗した(写真:SUBARU)
6代目となったスバル「インプレッサ」のプロトタイプに2023年4月下旬、乗るチャンスがあった。おとなしめの外観だけれど、走りは洗練されているのが印象的だ。
インプレッサといえば、3代目(2007年発売)までは「WRX」に代表されるスポーツセダンのイメージが強かった。
そのあと、コンセプトが変更されていき、今回、2023年4月20日に価格が発表された新型は、おとなっぽさを感じるハッチバックになった。
そっち(高性能セダン)がほしいひとには、202kWの2.4リッター「WRX S4」が用意されている。ただし、高性能エンジン車は今後、燃費規制の影響を受け、姿を消していくんじゃないか。
ここはそれを憂える場所ではないので、インプレッサに話題を集中させよう。
思惑あれどデキはよし
新しいインプレッサは、ベーシックなところで乗る人を楽しませてくれる内容になっている。カミソリのような切れ味はないけれど、乗ればいい気分になれると思う。
今回の6代目インプレッサが5ドアハッチバックのみとなったのは、独立したトランクを持つセダン人気がふるわないことも、大きい。
ハッチバックだけになったのには、もう1つ理由がありそうだ。ひと足先に登場した「クロストレック」と共用パーツをできるだけ増やすため、だろう。
今回のモデルよりセダンの「G4」は廃止されている(写真:SUBARU)
SUV流行りの昨今、大きな市場が見込めないのに、無駄にコストをかけたくないというメーカーの思惑が、最新のインプレッサを生んだといえるかもしれない。
先代から「スバルグローバルプラットフォーム(SGP)を引き継いで、それをさらに改良したのが今回の6代目。
まだプロトタイプと呼ばれ、ナンバープレートを持っていないクルマだったので、一般道でなく小さめのサーキットで、2.0リッターのマイルドハイブリッドに乗った。サーキットを走るのは、逆にめったにできない体験で、インプレッサのポテンシャルの高さがわかった気がする。
「プロトタイプとはいえ、内容は市販車と同等です」。スバルの広報担当者はそう教えてくれた。
今回、ドライブしたのはAWDとFWD(前輪駆動)、それと比較のために用意された5代目AWD(全輪駆動)の3モデル。英語だと、“バック・トゥ・バック”という、次々に乗り換えての試乗である。
新型インプレッサのパワーユニットは、2.0リッター水平対向4気筒。いわゆるボクサーエンジンだ。これをベースに、発進時のトルク増強や加速のための小型電気モーターを加えた「e-BOXER」エンジンとの2本立て。
制御により有段化されたリニアトロニックCVT(写真:SUBARU)
ドライブトレインは、前記のようにFWDとAWDが選べる。変速機はリニアトロニックとスバルが名づけた無段変速機。ただし、電子制御で有段化されている。
“おとなっぽさ”にはワケがある
新型インプレッサのどこが良くなったかというと、まず印象深かったのはブレーキ。剛性感が上がっているのと効きが向上していることに加えて、踏み込んだときのコントロール性も高くなった印象だ。
加えて先代に乗ってみると、たとえば加速の”つき”は今も不満は感じない。ただし、ステアリングホイールやシートを通じて感じられる車体のしっかり感は、新型が明らかに上。
「(車体に剛性としなやかさを同時にもたらす)構造用接着剤の使用面積を大きく増やしたことや、2ピニオン式の電動パワーステアリングなどのおかげもあるでしょう」。試乗した会場で、スバルの開発エンジニアはそう指摘してくれた。
クロストレックと基本的に共通のインテリア(写真:SUBARU)
スバルがやったのは、エンジンの回転制御の見直し、エンジンとトランスアクスル結合部の曲げ剛性の向上、ルーフの共振を止めるための素材の採用……と、範囲が広い。静粛性もうんと上がった。
「クルマが全体的に静かになってきているので、音が目立つ部分として、パワートレインまわりが気になりました。そこでパーツの剛性を上げたり形状変更をしたり、マウントを改良したりしました」
そう教えてくれたのは、音振(ノイズやバイブレーション対策なども含まれる)担当のエンジニアだ。
アクセルペダルをいきなり踏み込んでも直進性を維持するし、ブレーキング時も同様。安定しているので、自信をもって強く踏める。これが体験できたのは、サーキット走行だから。
「直進性や操舵時の応答性を上げるため前後の重量配分を見直し、(2ピニオン式の)ステアリングシステムも、時代の進化に合わせてより緻密に制御できるものを選んでいます」
シャシー担当者は、ドライブしたあとの私の感想に対して、「わが意を得たり」とばかりにうなずくのだった。
走りの質感が高まったことを感じた(写真:SUBARU)
リニアトロニックと呼ばれる無段変速機の制御の良さにも、感心した。マニュアルモードは使わず、Dレンジに入れっぱなしで、急加速にも気持よく対応してくれる。
「CVTのプライマリー(プーリー)とセカンダリーとのつながりを調整して、加速への反応時間など、ドライバーの感覚によりよく合うようにしました」
こちらは、パワートレイン担当者の“証言”だ。
高周波といわれる、路面の小さな(細い)突起を越えるときのショックの吸収もおみごと、という感じ。乗ったのがサーキットだったこともあるけれど、足まわりには終始感心させられた。
自分で買うならST-HのFWDで
「先代よりスポーツ性を強調した」と説明されたが、たとえばスポーツシューズの良さがランナーとの一体感にあるとしたら、新型インプレッサも十分にスポーティ。こういうクルマを作れてしまうとは、スバルの技術力と、200万円台~という価格帯にあっても手を抜かない見識の高さに、クルマ好きとして頭が下がる思いだ。

試乗が行われたのは袖ヶ浦フォレストレースウェイ(写真:SUBARU)
価格は、もっともベーシックなガソリンモデル「ST」は、FWDが229万9000円、AWDが251万9000円。e-BOXERモデルは、装備によって2グレードあって、「ST-G」が278万3000円(FWD)と300万3000円(AWD)、「ST-H」が299万2000円(FWD)と321万2000円(AWD)だ。
FWDとAWDを乗り較べてみた印象では、AWDは「良くできている」クルマで、FWDは「期待以上に良くできている」クルマ。FWDは車重も40キロほど少なく、軽やかな操縦性が魅力的だった。
自分で買うなら、インフォテイメントが充実したST-HのFWDなる選択は大いにアリだと思った。
<スバル インプレッサ ST-H AWD>
全長×全幅×全高:4475mmx1780mmx1515mm
ホイールベース:2670mm
車重:1540kg
パワートレイン:1995cc 水平対向4気筒ガソリンエンジン+電気モーター(マイルドハイブリッド)
最高出力:107kW/6000rpm
最大トルク:188Nm/4000rpm(+65Nmモーター)
変速機 無段変速(マニュアルモード付き)
燃費 16.6km/L(WLTC)
価格 321万2000万円