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日産セレナe-POWERルキシオン(FF)/セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)【試乗記】

日産セレナe-powerルキシオン(ff)/セレナe-powerハイウェイスターv(ff)【試乗記】

日産セレナe-POWERルキシオン(FF)/セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)【試乗記】

日産セレナe-POWERルキシオン(FF)/セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)

これぞ日本のミニバン

フルモデルチェンジした日産のミドルクラスミニバン「セレナe-POWER」に試乗。すでに5万台に迫ろうとする好調な受注台数のうち、購入者の半数以上が選んでいるというe-POWERの魅力と人気の秘密を探った。

8人乗りハイブリッドのニーズに対応

新型セレナは2022年12月に先行して納車開始となった2リッター純エンジンモデルに続いて、この2023年4月には“本命”ともいえるハイブリッドモデル=e-POWERも納車開始となった。同車はこの5月22日時点で累計4.7万台強を受注しているそうだが、そのうちの54%をe-POWERが占めるという。

ただ、新型セレナe-POWERの受注スタートは2リッター車のそれより遅いこともあって、最終的なe-POWERのシェアは、セレナ全体の6割くらいに達すると日産は見込む。これは先代の比率より少し高い数字だ。新型セレナe-POWERの人気が先代より高まると想定するのは、セレナe-POWERの主力モデルが待望の8人乗りとなったことが大きい。

セレナのシートレイアウトといえば、左右分割式セカンドシートに前後席間をスライドする「センターマルチシート」を組み合わせて、2列目が必要に応じてキャプテンにもベンチにもなる“1粒で2度おいしい”のが美点である。セレナはそれを2005年発売の3代目から連綿と受け継いでいる。

しかし、先代途中から追加されたセレナ初のe-POWERはセンターマルチシートを省略した7人乗りのみだった。その主な理由はハイブリッド化で増加した車重と8人乗りの両立が簡単ではなかったことに加えて、フロント床下にリチウム電池を置いたことで、前席間が少し盛り上がっ(てしまうので、かわりにそこにコンソールトレイを配置し)たことだった。もっとも、ライバル勢も事情は似たようなもので、トヨタの「ノア/ヴォクシー」やホンダの「ステップワゴン」も当時のハイブリッドは7人乗りのみだった。

ただ、販売現場からの要請を受けて、今回のフルモデルチェンジを機にe-POWERの8人乗りを実現した。……と思ったら、ほぼ同時期に世代交代したトヨタやホンダも示し合わせたかのように8人乗りハイブリッドを用意していた。この市場で8人乗りハイブリッドのニーズがいかに強かったかがうかがえる。

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ハイブリッド化によるシワ寄せは皆無

というわけで新型セレナは、e-POWERの主力モデルは、2リッターの純ガソリンエンジン車と同様にセンターマルチシート付きの8人乗りとなった。もっとも、プラットフォームや基本レイアウトは先代と変わりなく、新型でも前後席間の盛り上がりは残っているのだが、それを避けるように底部を削ったアリゲーター型センターマルチシートを用意することで8人乗りを実現した。ただし、そのスライド量は2リッター車より少ないのがタマにキズだ。

こうして待望の8人乗りを用意したうえで、同時に「ルキシオン」という7人乗り最上級グレードが追加されたのも新型セレナe-POWERのトピックである。そのルキシオンにはご覧のように固定式の大型センターコンソールが備わるのだが、それはルキシオン専用装備となる高速ハンズフリードライブ(と追い越しや設定ルートに合わせた車線変更アシスト)が可能な「プロパイロット2.0」のためでもある。センターコンソールにはプロパイロット2.0の自動操舵のために必要な専用バッテリーが詰まっているそうで、結果としてアームレスト下の収納スペースも意外なほど浅い。

いずれにしても、この前席まわり以外、基本となるキャビンスペースは2リッター車もe-POWERもまったく同じ。内寄せスライド付きのセカンドシートや、前後スライド付きのサードシート、クラストップ級の見晴らし、これまで以上に薄型化され(て閉めたままフロアボードにアクセスできるようになっ)たデュアルバックドア……などなど、2〜3列目や荷室の使い勝手や空間に、ハイブリッド化によるシワ寄せが皆無なのはセレナの美点である。

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驚くほど静かに走る

e-POWERの源流となる内燃機関の排気量が、1.2リッターから今回初出の1.4リッターに拡大されたのも新型の特徴だ。当時の「ノートe-POWER」のパワトレを(電池だけを拡大して)ほぼそのまま使っていた先代でも、市場から“モアパワー”の声はほとんどなかったというが、新たに8人乗りが用意されたことによる総重量増への対応が、1.4リッター化の第一義という。

もっとも、基本的に従来型エンジンを流用していた1.2リッターに対して、e-POWER専用エンジンとして新開発されたのもこの1.4リッターの大きな売りだ。排気量拡大によって最高出力が16%アップの98PSとなっただけでなく、e-POWERで使用頻度の高い2000rpm付近の燃焼効率を高め、また高剛性ブロックやバランサーシャフト追加、フレキシブルフライホイールなど、振動騒音対策も徹底されているそうだ。

実際、新型セレナe-POWERで走りだして、驚くのは静かなことである。開発陣によると「車体の見えない穴という穴を吸音材・遮音材でふさいで、GPS情報も使った“先読み充放電制御”で、できるだけエンジンをかけないでバッテリーを使い切る制御とした」のが、この静粛性を実現したキーポイントという。

しかし、アクセルを深く踏みこんでフル稼働させても、エンジンから耳障りなノイズや無粋な振動が伝わってこないのが印象的だ。もちろん動力性能も確実に向上しているが、全行程を1〜2人乗り……いわば空車状態で走った今回の試乗では、そもそも不足があろうはずもない。それを差し引いても、新開発エンジンの効能はやはり静粛性でこそ顕著だと思った。

ちなみに今回メインで試乗したルキシオンはフロントサイドガラスも遮音タイプとすることで、ほかのe-POWERモデルよりさらに静粛性を上げている。それぞれ単独で乗るだけだと「どっちも静かだなあ」という感想の域を出ない。しかし、今回のように同じ場所で乗り比べると、なるほどルキシオンのほうがさらに静か。そのちがいは、おそらく誰でも気づくことができるくらいのレベルにある。

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すっきりと滑らかなステアリングフィール

今回は静岡県御殿場市街を拠点としたメディア試乗会での短時間試乗となったが、それでも新東名高速や箱根の山坂道をめぐることができた。そんな場所でのプロパイロット2.0は、さすが日本で開発されたシステムだけに、新東名上でピピっとセットするだけで、シレッとハンズフリー運転ができてしまう。

速度の遅い前走車に追いつけばクルマ側から追い越しを提案して、運転手はそれに応じてステアリングに手を添えてボタンを押すだけで、クルマが安全確認と自動でウインカーを点滅させながら、車線変更する。特別区間の120km/hでもハンズフリーのままビターッと安定して走れるのは、しっかりとした高剛性の車体構造と、2リッター車の試乗時にも感心を覚えた高い直進性のおかげだろう。

新型セレナは従来型プラットフォームに、最新の「CMF-C/D」由来のデュアルピニオン式パワーステアリングやフロントサブフレームのダイレクトマウントを移植した構造になっている。そして、その凝った構造が中立付近から大舵角まで手応えが一定の、すっきりと滑らかなステアリングフィールにつながっているのは間違いない。しかし、高価なデュアルピニオンをわざわざ採用した最大の理由は、それが自動操舵するプロパイロット2.0に必要不可欠なコンポーネントだからだ。

新型セレナのe-POWERは2リッター車に対して車重が120〜160kg重いが、その重量増が前後どちらかにかたよっていないこともあってか、ミニバンとしての安定性や剛性感、あるいはドライバーズカーとしての乗り味への悪影響は、今回のように御殿場周辺の箱根を走り回ってみてもあまり感じさせなかった。もっとも、急な下り坂でのブレーキ性能だけは軽い2リッター車に少しゆずるのは仕方ない。そこだけは意識する必要はあるだろう。

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カタログ燃費よりもポイントは実燃費

いずれにしても、印象的なほど高い静粛性に加えて、先述の優秀なステアリングフィールや、リアタイヤから根が生えたように安定した操縦安定性など、以前試乗した2リッター車で感心した新型セレナの美点は、e-POWERでもほとんど受け継がれている。

重いe-POWERでも205幅の16インチというビジュアル的には少しさみしいタイヤサイズが変わらないのは、一部グレードで死守された5ナンバーサイズや旧来のプラットフォーム設計、そして最近改正された「タイヤ負荷率」との兼ね合いから、どうしようもないらしい。タイヤ銘柄も基本的には2リッター車とe-POWERで共通なのだが、今回のルキシオンが履いていた「ブリヂストン・トランザ」だけは同グレード専用タイヤという。

このタイヤもまたプロパイロット2.0のためだそうで、操縦安定性や操舵反応をハンズフリー走行に合わせ込んだ仕立てになっているとか。ただ、その効能は手動ドライブでも感じられなくはない。実際にルキシオンと「ハイウェイスターV」という2台のe-POWERモデルを乗り比べると、ルキシオンは身のこなしが少し重厚(実際の車重も40kg重い)であるいっぽう、ステアリング反応はそこはかとなく、パリッと感が強い気がしないでもないと思う瞬間があった……くらいの差はうかがえた(笑)。

新型セレナe-POWERのカタログ燃費(WTLCモード)は18.4〜20.6km/リッターと、トヨタやホンダの競合車にゆずる数値となっている。ただ、2リッター車の試乗で筆者も実感した「実燃費とのズレの小ささ」はe-POWERも同様と、開発陣は主張する。なんでも、新型セレナの燃費認証試験で使われた日産のテストベンチが、国内にいくつかある施設のなかでも「いい燃費が出にくいことで社内的に知られた」場所だったことが最大の理由なんだとか。

というわけで、次の機会では、その自慢の実燃費や、プロパイロット2.0ミニバンがいちばん輝く(?)お盆や大型連休の大渋滞で、新型セレナe-POWERを試してみたいものだ。

(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

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テスト車のデータ

日産セレナe-POWERルキシオン

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4765×1715×1885mm

ホイールベース:2870mm

車重:1850kg

駆動方式:FF

エンジン:1.4リッター直3 DOHC 12バルブ

モーター:交流同期電動機

エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600rpm

エンジン最大トルク:123N・m(12.5kgf・m)/5600rpm

モーター最高出力:163PS(120kW)/–rpm

モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/–rpm

タイヤ:(前)205/65R16 95H/(後)205/65R16 95H(ブリヂストン・トランザER33N)

燃費:18.4km/リッター(WLTCモード)

価格:479万8200円/テスト車=527万0763円

オプション装備:ボディーカラー<ターコイズブルー/スーパーブラック>(8万8000円)/ホットプラスパッケージ<ヒーター付きドアミラー、ステアリングヒーター、ヒーター付きシート[前席、セカンド左右]>+クリアビューパッケージ<ワイパーデアイサー、リアLEDフォグランプ>+高濃度不凍液+PTC素子ヒーター(9万9000円)/100V AC電源1500W<室内1個、ラゲッジスペース1個>(5万5000円) ※以下、販売店オプション 後席用モニターHDMI NissanConnectナビ付き車用(12万2760円)/ウィンドウはっ水 12カ月 フロントウィンドウ+フロントドアガラスはっ水処理(1万2903円)/フロアカーペットパッケージ<エクセレント>(9万4900円)

テスト車の年式:2023年型

テスト開始時の走行距離:2043km

テスト形態:ロードインプレッション

走行状態:市街地(–)/高速道路(–)/山岳路(–)

テスト距離:–km

使用燃料:–リッター(レギュラーガソリン)

参考燃費:–km/リッター

日産セレナe-POWERハイウェイスターV

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4765×1715×1870mm

車重:1810kg

タイヤ:(前)205/65R16 95H/(後)205/65R16 95H(ダンロップ・エナセーブEC350+)

燃費:19.3km/リッター(WLTCモード)

価格:368万6100円/テスト車=469万8763円

オプション装備:ボディーカラー<プリズムホワイト/スーパーブラック>(7万7000円)/ヘッドランプオートレベライザー+アダプティブLEDヘッドライトシステム+インテリジェントアラウンドビューモニター<移動物検知機能付き>+インテリジェントルームミラー+アドバンスドドライブアシストディスプレイ<12.3インチ>+ワイヤレス充電器+6スピーカー+NissanConnectナビゲーションシステム<地デジ内蔵>+車載通信ユニット+ETC2.0ユニット<ビルトインタイプ>+ドライブレコーダー<前後>+プロパイロット<ナビリンク機能付き>+プロパイロット緊急停止支援システム<SOSコール機能付き>+SOSコール+プロパイロットパーキング(55万1100円)/ホットプラスパッケージ<ヒーター付きドアミラー、ステアリングヒーター、ヒーター付きシート[前席、セカンド左右]>+クリアビューパッケージ<ワイパーデアイサー、リアLEDフォグランプ>+高濃度不凍液+PTC素子ヒーター(9万9000円)/100V AC電源1500W<室内1個、ラゲッジスペース1個>(5万5000円) ※以下、販売店オプション 後席用モニターHDMI NissanConnectナビ付き車用(12万2760円)/ウィンドウはっ水 12カ月 フロントウィンドウ+フロントドアガラスはっ水処理(1万2903円)/フロアカーペットパッケージ<エクセレント>(9万4900円)

テスト開始時の走行距離:1794km

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