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マツダ「MX-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきBEV時代のマルチソリューション

マツダ「mx-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきbev時代のマルチソリューション

9月14日に発表されたMX-30 Rotary-EV(筆者撮影)

ついに、マツダのロータリーエンジンが復活した。ロータリーエンジンを搭載したのは、クロスオーバーSUVの「MX-30」だ。

【写真を見る】ロータリーエンジンの「ローター部分」の機械加工工程

2020年から日本国内で約4万3000台が生産され、ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカ等に向けて輸出されてきた。

これまでBEV(電気自動車)とMHEV(マイルドハイブリッド車)がラインナップされており、3万台弱がBEVで、そのほとんどがヨーロッパ向け。残り1万台強となるMHEVは、日本での販売が中心となっている。

ここに今回、新規開発したロータリーエンジン「8C」を発電機として使うシリーズハイブリッド、かつ外部充電および外部への給電が可能なPHEV(プラグインハイブリッド車)が登場した。

モデル名称は、日本では「MX-30 Rotary-EV」、ヨーロッパ向け等では「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」となる。日本では、ロータリー復活への期待が高まっていることもあり、営業戦略上「Rotary」の名称を使う。

では、このタイミングでMX-30 Rotary-EVを導入する意義は何であろうか。マツダの本拠地である広島で、マツダ本社工場取材を含めて、各部門のマツダ関係者から詳しく話を聞いた。

キーワードは「マルチソリューション」

マツダの技術開発を統括する専務執行役員・チーフテクニカルオフィサー(CTO)の廣瀬一郎氏は、「ロータリーエンジンは、マツダの歴史そのもの」としたうえで、「2020年代から2030年代にかけての自動車市場変動期における、マツダのマルチソリューションの象徴的な存在」と表現した。

マツダ「mx-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきbev時代のマルチソリューション

MX-30 Rotary-EV 取材会場で見た8Cロータリーエンジンの展示(筆者撮影)

マツダは2022年11月22日、「中期経営計画のアップデートおよび2030年の経営方針」を公表している。その中で、電動化戦略については、2030年までを3つのフェーズにわけた。

フェーズ1(2022~2024年)は、電動化に向けた開発強化。すでに投資した、FF(前輪駆動車)によるスモール商品群と、FR(後輪駆動車)のラージ商品群を指す。ここに、MX-30や発電機として使うロータリーエンジンである8Cが含まれる。

続くフェーズ2(2025~2027年)が、「電動化へのトランジッション(過渡期)」。そしてフェーズ3(2028~2030年)を「バッテリーEV(BEV)本格導入」と位置づけた。2030年時点でのマツダ総生産台数のうち、BEV率を「25~40%」と幅を持たせている。

こうした表現をマツダが使わざるをえない背景には、国や地域によって電動化に対する社会状況が今後、どのように変化していくのかを正確に推測することが難しいことがある。

マツダ「mx-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきbev時代のマルチソリューション

今回、取材に対応してくれたマツダの生産部門幹部3名(筆者撮影)

カーボンニュートラルに向けた電動車普及比率を規定する欧米や中国での規制もさることながら、アメリカのIRA(インフレ削減法)に代表される国家間の投資戦略に対する政治的な駆け引きが、予測不能であることが大きい。

そうした「先読みできない電動化シフト期」において、マツダの方針は自社が持つ技術、またはトヨタなどパートナー企業と連携し得る技術を、国や地域によって使いわける。

多様な電動化ユニット(マルチソルーション)を、状況に応じてフレキシブルに生産するのだ。そのために、マツダ生産体制の真骨頂である混流生産を、さらに極める。

工場で見た「マツダらしい」クルマづくり

現在、マツダの国内工場は、広島の本社工場(宇品東地区)のU1 No5(ロードスター、ロードスターRF、MX-30、CX-30)、U1 No6(CX-9、CX-8、CX-5、CX-30)、そしてU2(CX-5)の3ラインがある。

また、本社工場からクルマで2時間ほどの距離にある山口県防府工場では、H1(マツダ3 セダン、マツダ3 ファストバック、CX-30)と、H2(マツダ6 セダン、マツダ6 ワゴン、CX-60、CX-90)の2ラインという構成だ。

今回、U1 No5で特にMX-30 Rotary-EV向けのサブ組立ラインで電池+ガソリンタンクユニットの組み付けや、メイン組立ラインでそのユニットを車体に装着する様子を詳しく見た。

マツダ「mx-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきbev時代のマルチソリューション

ロータリーエンジンのローター部分の機械加工工程(筆者撮影)

サブラインで行われる電池+ガソリンタンクユニットの電池モジュールは、BEVの場合は16個、PHEVであるRotary-EVはその半分の8個(電池容量:17.8kWh)。そこに容量50リットルのガソリンタンクが、パッケージ化されていた。

ラインの工程としては、メイン組立ラインで流れるクルマの順序と構造を「固定」と見なし、サブ組立ラインでの「変動」とを連携される形をとる。その様子を1モデルで多様な電動仕様を持つMX-30を軸として見ると、マツダらしいクルマづくりの狙いがよく理解できた。

では、2030年に向けた電動化フェーズ1~3、さらにその先に向けてマツダの工場はどのように変化していくのだろうか。

この点について、執行役員(生産技術・物流・カーボンニュートラル・コスト革新担当)の弘中武都氏に聞いた。

弘中氏は「2030年にBEV比率を25~40%と幅を持たせたが、いずれはBEV比率がさらに上がるだろう。だが、いきなり100%になるわけでないため、マツダとしては(当面)混流生産を選ばなければならない」と、BEV専用工場化を一気に導入するという考えは示さなかった。

マツダとしては、「国内5つのラインが、あたかも1つの工場」のように運用していくというこれまでの考え方を今後も継続するという。

マツダ「mx-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきbev時代のマルチソリューション

生産ラインを流れるMX-30 Rotary-EV (写真:マツダ)

そのうえで、「2030年代以降よりも、その途中(での工場の体制づくり)が大事」だとして、2021年にリニューアルした防府工場H2ラインにおけるCX-60での電動化対応が、今後の工場運営における布石になっていると指摘した。

そうしたラインのフレキシビリティ(柔軟性)を上げることで、特定の車種での電動化率やBEV化率が上がってくれば、現在のMX-30で対応しているような混流生産を行うことを想定している。

「BEV混流率が高くなり、結果的にBEV率が100%になっているはず」だとして、あくまでもマツダの国内工場は今後も、混流生産をベースとすることを強調した。

「8C」ロータリーの技術的な挑戦

最後に8Cの設計や生産技術について、触れておく。まずは、「13B RENESIS(レネシス)」との比較。これは、2003年から2012年まで約19万台が生産された「RX-8」に搭載したロータリーエンジンだ。

排気量は、13B RENESISの654cc×2ローターに対して、8Cは830㏄の1ローター。ローターの幅は80mmに対して76mm。そして、ローターが動く「創成半径」は、105mmから120mmへと拡大した。

マツダ「mx-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきbev時代のマルチソリューション

8Cロータリーエンジンの展示モデル(筆者撮影)

ロータリーエンジンは、おむすび型のローターがローターハウジングの中を回転する中で、ガソリンと空気の混合気を吸気・圧縮・爆発・排気する基本構造を持つ。利点としては、直列やV型のレシプロエンジンと比べて、小型で高出力化することが可能となることだ。

一般的に、ロータリーエンジンは排気量を増やすとトルク変動が大きくなるため、小さい排気量のローターを連装する方式をとっている。

8Cであえて排気量を上げて1ローターとした理由は、レイアウト面が最も大きい。MX-30としてMHEVやBEVと同じ車体に搭載するため、車体前部にモーター、ジェネレーター、そして8Cを横に並べる必要があった。そのうえで、発電機としての十分な出力を得るために排気量を上げたのだ。

こうした仕様を実現するため、技術的なハードルが多々あったという。第1は、「高精度につくる」こと。ローター自体の製造と加工における精度、また燃焼圧力が上がることでのローターとローターハウジングとの間のシール精度が課題となった。

これら課題の解決方法としては、鋳造で使う中子(なかこ)を3Dスキャンなどで対応したり、加工ラインでの工程を汎用性のある高速1軸のNC(数値制御方式)旋盤によって加工工程を6分の1以下に削減したりした。

マツダ「mx-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきbev時代のマルチソリューション

サイドハウジングのセラミック溶射の工程(筆者撮影)

第2は「軽く・強くつくる」ことだ。ローターは、ハウジングを前後から挟むサイドハウジングをアルミ化した。13B RENESISとの比較では、フロントサイドハウジングが12.3kgから5.2kgへ、またリアサイドハウジングが12.1kgから5.2kgへとそれぞれ半分以下となっている。

さらに、サイドハウジングの表面に高速フレーム法による「セラミック溶射」という技術を用いて、ローターのサイドシールと接触する面の強度を高めた。

8Cの最終組立ラインも見たが、そこは13B RENESISを製造していたラインに最新技術を付加して改良したものだった。エンジニアの中には「ロータリーエンジンの匠」が現在3人いて、ロータリーエンジンならではの組立の注意点などを若手エンジニアに伝承している。

マツダ「mx-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきbev時代のマルチソリューション

MAZDA MX-30 Rotary-EVのエンジン組み付けの様子(写真:マツダ)

MX-30 Rotary-EV:485万1000円~

今回の2日間の広島取材でロータリーエンジンに深く触れ、改めて「マツダがなぜ、ロータリーにこだわり続けるのか」が肌感覚で理解できた。

なお、MX-30 Rotary-EVは、2023年9月14日から予約販売を開始する。価格は「ナチュラルモノトーン」グレードでは、ジルコンサンドメタリック(2トーン)が税込み485万1000円、ソウルレッドプレミアムメタリック(2トーン)が489万5000円。

マツダ「mx-30」でロータリーを復活させた必然性 きたるべきbev時代のマルチソリューション

広島の海を背景にした2台のMX-30 Rotary-EV(筆者撮影)

また、マローンルージュメタリック(2トーン)の限定モデル「エディションR」が、491万7000円で販売される。

近いうちにMX-30 Rotary-EVの走り味についてもレポートしたいと思う。

<MX-30 Rotary-EV>

全長×全幅×全高:4395mm×1795mm×1595mm

ホイールベース:2655mm

車両重量:1780kg

エンジン型式:8C-PH型

エンジン最高出力:53kW/4500rpm

エンジン最大トルク:112Nm/4500rpm

モーター最高出力:125kW/9000rpm

モーター最大トルク:260Nm/0-4481rpm

ハイブリッド燃費(国土交通省審査値):15.4km/L

EVモード換算距離:107km

普通充電:6kWで約1時間50分(SOC 20→80%)

急速充電:40kW以上で約25分

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