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アルファ・ロメオの名車、4Cはどのようにして生まれたのか? 誕生前夜の4Cを解剖、解読する!【『エンジン』蔵出しシリーズ アルファ・ロメオ篇#1】

アルファ・ロメオの名車、4cはどのようにして生まれたのか? 誕生前夜の4cを解剖、解読する!【『エンジン』蔵出しシリーズ アルファ・ロメオ篇#1】

アルファ・ロメオの名車、4Cはどのようにして生まれたのか? 誕生前夜の4Cを解剖、解読する!【『エンジン』蔵出しシリーズ アルファ・ロメオ篇#1】

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ジュネーヴ・ショウに突如現れたアルファ・ロメオのコンセプト・カー“4C”。アルファが手がけた麗しくも力強いスタイリングは問答無用でクルマ好きを虜にした。しかも、それはカーボン・センター・モノコックを使って、わずか850kgしかなく、何より驚いたのは、500万円という激安価格で、翌年夏には市販されるとアナウンスされたことだった。どのようにしてそれほど安く、しかもそんなに早くまったく新しいモデルを登場させることができたのか。4C誕生前夜の様子をリポートした蔵出し記事を、2011年6月号に掲載された巻頭特集「あたらしい時代のトップ・ランナーたち!」からお届けする。

2011年6月号「あたらしい時代のトップ・ランナーたち!」4Cを解剖、解読する!

フェラーリFFの試乗会へ向かう機上で、珍しく英字新聞を読んだ。日本の原発事故関連の記事がないかなと思ったからだったのだけれど、それとは関係のない記事に目がとまった。インターナショナル・ヘラルド・トリビューンが“ダラーラ”を大きく取り上げていたのだ。

アルファ・ロメオの名車、4cはどのようにして生まれたのか? 誕生前夜の4cを解剖、解読する!【『エンジン』蔵出しシリーズ アルファ・ロメオ篇#1】

トリノに統合されたフィアット・グループのデザイン・スタジオのアルファ担当チーフであるマルコ・テンコーネ率いるティームがスタイリング開発を行った。とても全長4mとは思えないほど流麗で、しかも強い。

ダラーラはモーター・レーシングの世界に興味のある人間にとっては馴染みのある名前だ。けれども、そうでないひとには、「なにそれ?」かもしれない。遠く1960年代にフェラーリやランボルギーニで航空力学を修めたエンジニアとして活躍したジャン・パオロ・ダラーラが、1972年に独立して、郷里パルマの近くに設けたレーシングカー用シャシー開発製造会社が、ダラーラ・アウトモビリである。

そのダラーラがインディ500レースで有名なインディアナ州スピードウェイ町の目抜き通りに今年、新しい技術センターを開設するというので組まれた記事だった。ダラーラがインディ・カーの2012シーズン用のシャシーを一手に引き受けることになったのを受けての北米拠点進出らしい。ダラーラはそのインディ・シリーズだけでなく、GP2でも、ワールド・シリーズ・バイ・ルノーでも、北米のグランダム・シリーズでも、シャシーの単独独占供給を行っている。来年始まるGP3もそうだ。ワンメイク規定ではないF3においてさえも事実上の独占状況にある。それぐらい彼らの設計開発技術と、それを適価(=低価格)で安定的に供給できる能力が業界では高く評価されているのだ。レース界では超一流の大企業なのである。その記事を書いたリポーターは、レース専門誌から「レース界で最も成功し、それでいて最も過小評価されているコンストラクター」という1文を引用してダラーラを表現していた。

ダラーラはレースの世界だけでなく、市販車(主にスーパー・スポーツカー)の開発においても有力なエンジニアリング・シンクタンクとして信頼を得ていて、フェラーリやマゼラーティ、アウディ、ブガッティなどが協力を仰いでいる。

アルファ・ロメオの名車、4cはどのようにして生まれたのか? 誕生前夜の4cを解剖、解読する!【『エンジン』蔵出しシリーズ アルファ・ロメオ篇#1】

市販型にきわめて近いというエクステリアと違って、インテリアはショウ・カー然としている。メーター周りはモーターサイクルがヒントになっているという。機構的な無理はなそうだから表層素材の変更のみで生産型に採用されれば嬉しいが、500万円ほどという市販予定価格を考えると難しいか。写真=佐藤靖彦

500万円以下!!

「これなら、本当にありうるな」と思った。なんの前触れもなくジュネーヴ・ショウに現れ、アルフィスティを熱狂させるにとどまらず、広くクルマ好きの心をわしづかみにしたアルファ4Cコンセプト。その市販型のシャシー開発をダラーラ社が請け負うというのは、理に適っている。

アルファ・ロメオは誰が製造することになるかについて堅く口を閉ざしているが、昨年6月にアバルトの関係者がアバルト・オリジナルの2座本格スポーツカーを作る計画を漏らしたさいに、KTM社(オーストリアの2輪メーカー)のX‐Bowとの関連を仄めかしていた。その話とうまく繋がるのである。

X‐Bowは2007年に市販が開始された、全長3.74mのオープン2座スポーツカーである。そして、そのX‐Bowの開発を請け負ったのがダラーラなのだ。アルファ4Cの全長は4mである。4Cのホイールベースは2.4m未満と発表されているが、X‐Bowの軸距は2.43mとそれにごく近い。

それになにより、4CにCFRP(炭素繊維強化樹脂)製バスタブ型センター・モノコックを使うと、アルファ・ロメオは公言している。それによって市販型4Cの車両重量を、なんと850kg以下に収めるという。X‐Bowこそはまさにその手法によって、790kgという超軽量を実現していたのである。ジュネーヴに出展されたコンセプト・カーはボディ外皮もフルカーボンだったけれど、量産市販型では射出成型によるGFRP(ガラス繊維強化樹脂)が使われる可能性があることを、英国のスポーツカー専門誌evoが訊き出している。それでも重量はほぼ変わらず、目標値内に収まるらしい。アルファ・ロメオは市販型4Cの車両価格を約4万5000ユーロと口にしている。CFRPタブを使うクルマとしてはすぐには信じがたい安さだ。だが、思い出す必要がある。当初、年500台の予定で生産が立ち上がったX‐Bowの車両価格は約4万ユーロ。後に追加された公道も走れる“ストリート”バージョンでも5万ユーロだった。アルファ・ロメオは4Cを年間1500台規模で生産すると言っている。バスタブ剥き出しのX‐Bowにはなかった外皮の製造コストを、GFRP化によって低く抑えることができるならば、十分に可能な価格だろう。

アルファ・ロメオの名車、4cはどのようにして生まれたのか? 誕生前夜の4cを解剖、解読する!【『エンジン』蔵出しシリーズ アルファ・ロメオ篇#1】

リア・フェンダーの肩が力強い。大型コンビ・ランプが8Cを想起させる。中身は既に市販型に近い由。タイヤは前18/後19in。

X‐Bowの見込みをはるかに超える需要に対応するためにKTM社はグラーツの工場を年産1000台規模に拡張したが、リーマン・ショック後の世界同時不況で売れ行きは急降下。グラーツ工場はアイドリング状況に陥っている。空いている。

ダラーラにはCFRPタブの設計開発ノウハウが豊富にある。そして、KTMの余剰生産設備がある。

ダラーラにはサスペンション開発技術もある。世界最速の市販ロードカー、ヴェイロン16.4のシャシーやサスペンションにも、ダラーラは協力していたぐらいだ。4Cはフロントにアッパーアーム・ハイマウント式のダブルウィッシュボーン、リアにマクファーソン・ストラットを使うらしいが、ダラーラならその開発を易々とやってのけるだろう。

4Cプロジェクトは昨年末に実車開発へのゴー・サインが下っている。偶然にもその頃、ダラーラ社は1000万ユーロもするラップ・タイム・シミュレイターを導入している。F1のトップ・チームぐらいしか持っていない超ハイテク装置だ。CAD支援開発技術の進化によってわずか9カ月ほどにまで短縮されている新車開発期間を、さらに短縮することを可能にする新兵器である。

アルファ4Cの欧州での発売予定は2012年夏。信じて待つべし。

文=齋藤浩之

(ENGINE2011年6月号)

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