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「シビック」初代~9代目に今乗ってわかったこと ホンダのクルマ造りと走りの根本がここにあった

「シビック」初代~9代目に今乗ってわかったこと ホンダのクルマ造りと走りの根本がここにあった

歴代シビックのうち4代目(右上)、5代目(左上)、6代目(左下)は、今の40代後半以上のクルマ好き世代は強烈に記憶に残っているだろう。右下は初代シビック(筆者撮影)

1972年7月11日に誕生したホンダの初代「シビック」。当初は「2ドア」モデルとして誕生した。同年8月31日にリヤガラスが組み込まれたパネル部分に開閉機構を組み込んだ「3ドアシリーズ」が発売される。

【写真】歴代シビックが勢ぞろい!中高年以上には青春のモデルも

1973年には2ドアからホイールベースを80㎜延長し、後席左右にドアを配した「4ドア」モデルを追加。1974年11月にはルーフを伸ばした「バン」モデルが、1977年9月には4ドアモデルの後部パネルをテールゲート仕様にして開閉機構を組み込んだ「5ドア」モデルがそれぞれ登場している。

シビックの名を世界に知らしめたのは1967年発売の軽自動車「N360」を原点とする「M・M思想」と、「CVCCエンジン」(追加モデルとして1973年12月13日発売)だ。

人の居住スペースを最大に、メカの占有スペースを最小に

M・M思想は、「マンマキシマム・メカミニマム」の略語で、人の居住スペースを最大に、メカの占有スペースを最小に、という根本思想をもったクルマ造りの手法だ。人を尊重する考え方のもと、まずは車内空間を大きくとって、それからエンジンや駆動系、サスペンションなどの機械部分を可能な限り小さいスペースにギュッと詰め込む、これをポリシーとした。

初代シビックではM・M思想を大きくうたわなかったものの、設計はまさにM・M思想そのもの。その後、シビックでは1981年から開発が始まった3代目で大々的にM・M思想をアピールする。

CVCCエンジンは、「複合渦流調速燃焼」という副燃焼室付エンジンのこと。正式名称をCompound Vortex Controlled CombustionとするCVCCエンジンは、当時、アメリカの上院議員であったエドモンド・S・マスキー氏が提出した「1970年大気浄化法/通称:マスキー法」の厳しい排出ガス規制をクリアし世界を驚かせる。ホンダがCVCCエンジンで出願した特許の数は230件を数えた。

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歴代シビックが勢ぞろいした(筆者撮影)

M・M思想は1981年の初代「シティ」や、現在の4代目「フィット」に至るまで数多くのモデルに受け継がれ、CVCCは機構こそ整理されたものの目指したAP(Air Pollution)設計は、たとえばシビックe:HEVが搭載する直列4気筒直噴2.0Lエンジン(欧州排出ガス規制であるユーロ7相当をクリア)へと昇華された。

初代シビック誕生と同じ1972年生まれの筆者にとって、個人的に歴代シビックのなかで、思い入れがあるのは、1987年の4代目「EF型/グランドシビック」、1991年の5代目「EG型/スポーツシビック」、1995年の6代目「ミラクルシビック」の3世代だ。そして幸運にも、シビック生誕50周年の一環として、初代から9代目までの歴代シビックをクローズドコースで走らせる取材機会を得た。

4代目シビックは4輪ダブルウイッシュボーンサスペンションを新規開発し、低く横方向へとのびたロー&ワイドなシルエットを実現する。また、当時最先端のCAE解析技術をシャーシやボディに用いることで走行性能を格段に高めた。

3ドアハッチバック、4ドアセダンのほか、5ドアモデルは「シャトル」と命名され人気を博す。さらに、シャトルをベースにした「シビックプロ」を名乗る商用モデルもラインアップした。

1989年9月、初のVTECエンジンが搭載される。F1舞台からのフィードバックである高効率な燃焼技術がそれを実現した。従来のスポーツモデル「Si」から、30馬力/0.8kgf・m上乗せされたVTECエンジン(160馬力/15.5kgf・m)が「SiR」と「SiRII」(装備違い)に搭載されたのだ。

35年前の車両に乗ってみた

今回、試乗した4代目シビックはVTECエンジンのSiRではなく、3ドアのSiで5速MTモデル。1.6LのDOHC16バルブPGM-FI仕様で130馬力/14.7kgf・m(ネット値)を発揮する。この頃からエンジン出力表示はエンジン単体のグロス値から、車両搭載状態に近いネット値に変わりだした。

35年前の車両だが、栃木県の「モビリティリゾートもてぎ」内にある「Honda Collection Hall」に動態保存されていることから、とてもきれいで樹脂パーツ1つとってもほぼ当時のまま。とはいえ、貴重な車両なので丁寧な運転操作でモビリティリゾートもてぎにある北ショートコース(982m/周)を2周した。

「シビック」初代~9代目に今乗ってわかったこと ホンダのクルマ造りと走りの根本がここにあった

4代目シビックを後ろから。比較的切り立ったリアウインドーが特徴の1つ(筆者撮影)

実は初代~3代目までの試乗をこなした後に、この4代目を試乗したのだが、過去3代のシビックとは乗り味がはっきり異なっていた。高剛性ボディはゆっくり走らせただけでもネジリ剛性が高められたことがわかるし、切り込んだ際のステアリングフィールはグッと現代的だ。車体のロール量も抑えられている。

アクセルを踏み込んでエンジンをじんわり4000回転あたりまで回してみたが、台形トルクカーブを描くロングストロークタイプの「ZC型」エンジンは、900kg台の軽量ボディを1段高いギヤでも力強く加速させる。1.6Lとは思えない図太いエンジンサウンドも健在だった。

5・6代目シビックを今乗ってみたら?

5代目はVTECエンジンの3ドア/SiRに試乗した。吸・排気バルブのタイミングとリフト量をエンジン回転に応じて切り替えるVTECをさらに進化させ、170馬力/7800回転、16.0kgf・m/7300回転を発揮する。

本来であれば、バルブタイミングとリフト量が高回転側へと切り替わる6000回転以上までエンジンを回したかったものの(身震いするほどの咆哮!)、こちらも動態保存の貴重な1台なので、じんわり4000回転程度にとどめた。ただ、それでも往年の切れ味は十分に感じられた。

続く6代目シビックでは、「ホンダマルチマチック」(いわゆるCVT)を久しぶりに味わった。ベルト式無段変速機をべースに、湿式多板発進クラッチをドリブン軸に配置したことで、当時のCVTが苦手としていた停止直後のスムースな発進加速が実現し、同時に滑らかなクリープ走行も可能にした。

1990年代に入り、ホンダ各モデルでは衝突安全性能の向上をボディ設計要件に掲げていたことから、必然的に小型車であるシビックの乗り味もガチッと引き締められていく。具体的には現代のハイグリップタイヤをしっかり履きこなせるまで、シャーシ/ボディ/サスペンションともに進化した。

「シビック」初代~9代目に今乗ってわかったこと ホンダのクルマ造りと走りの根本がここにあった

この6代目シビックをベースに「初代シビックタイプR」が生まれた(筆者撮影)

6代目の真骨頂は、1997年8月に追加されたシビック史上初となる「TYPE R」の追加だろう。1.6Lから185馬力/8200回転(116馬力/L)を絞り出すTYPE R専用エンジンと、軽量&高剛性ボディの組み合わせなどにより、格上のスポーツモデルをサーキットで追い回すことができた。

貴重な歴代シビックの試乗経験だったが、最も感銘を受けたのは初代シビックの追加モデルとして1974年に加わった「1200RS」(RSはロードセーリングの略)だった。

実は試乗直前までエンジンの調子が悪く、試乗は断念かと諦めかけていたところ、専属メカニックの方々による懸命な整備により復活。見事、走らせることができた(大汗かきながらの整備、ありがとうございました!)。

搭載エンジンの直列4気筒1.2Lはツインキャブレーター仕様で、76馬力/10.3kgf・m(初期の通常モデルは60馬力/9.5kgf・m)を発揮する。エンジンが温まる前のツインキャブレーター仕様とあって、アイドリング回転から丁寧にクラッチミートさせて、回転上昇に合わせてゆっくりアクセルペダルを踏み込む。

48年前のクルマが見せた軽快な走り

すると、フォーンとどこまでも伸びる軽快なサウンドとともに、細めのウッドステアリングには細かな振動を伝えながら1200RSは軽やかな加速を見せた。軽量ボディに加え、通常モデルから引き締められたスプリング&ダンパーを備えるだけあって、身のこなしは、ちゃんとスポーツモデルだ。この軽快感は48年が経過した今、コンパクトモデルの「フィットRS」(e:HEV/1.5Lガソリン)にしっかりと継承された。

1972年に華々しくデビューした初代シビックは、厳しい排出ガス規制に打ち勝ち、M・M思想で高効率なクルマ造りを確立。VTECでは若者を魅了し、TYPE Rでは世界を震撼させた。

そして現行の11代目シビックでは1.5Lターボ/2.0L e:HEV/2.0LターボTYPE Rで、今もわれわれにワクワクを届けてくれる。3ペダルのマニュアルトランスミッションが選べることも、クルマ文化の継承といった側面から、個人的には大いに評価している。

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