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クボタが切り拓く無人かつ自動運転のコンバイン、実現までの4年に求められた事柄とは?

今回のひとこと

「クボタの技術者たちは、『農業は無くならないが、トラクタは無くなるかもしれない』と言っている。まさにその通りで、大切なのはトラクタそのものではなく、必要な作業が、必要な時に、高精度にできることである。いまの常識に捉われてばかりでは、良いモノづくりはできない」

クボタが切り拓く無人かつ自動運転のコンバイン、実現までの4年に求められた事柄とは?

(クボタの北尾裕一社長)

農業の自動化が次のステージへ

 クボタが、コンバインとしては世界初となる無人自動運転を実現した「DRH1200A」を2024年1月から発売する。

クボタが切り拓く無人かつ自動運転のコンバイン、実現までの4年に求められた事柄とは?

アグリロボコンバインDRH1200A

 2018年のTBS系で放映された人気ドラマ「下町ロケット」では、クボタが全面協力した自動運転トラクタが登場して話題を集めたが、その後も、クボタは農機の自動化を推進。すでにトラクタと田植機の自動運転化を実現している。

クボタが切り拓く無人かつ自動運転のコンバイン、実現までの4年に求められた事柄とは?

2020年1月に発表した完全自動運転トラクタのコンセプトモデル

クボタが切り拓く無人かつ自動運転のコンバイン、実現までの4年に求められた事柄とは?

無人自動運転を行うクボタアグリロボトラクタMR1000AH

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自動運転を行うアグリロボ田植機「NW8SA」

 そして、コンバインの自動運転は今回が世界初となる。これにより、トラクタ、田植機、コンバインの主要3機種のすべてで、無人自動運転仕様をラインアップすることになる。

人と作物の違いを見分けられないと事故につながる

 実はコンバインの無人自動運転に時間がかかったのには理由がある。

 それは、コンバインは、作物のなかを進んで作業を行うため、人と作物との見分けが難しいという課題があったからだ。

 たとえば、コンバインが作業する際に、前方に人のような形をした雑草があったり、鳥が多く集まってきて人のような形状となったりした場合と、本当に人がいる状況とを、しっかりと区別することが不可避だが、センサーだけでは、その判別が難しかったという。

 そこで、クボタでは、AIカメラを活用して、人を正しく検知する技術を開発することに取り組んできた。しかし、ここでも、圃場で人を検知することは困難を極めた。

 すでに、自動運転車などでは、一般的な道路で人を検知することが可能となっており、テスラなどでは、人を認識している様子をリアルタイムで車内のモニターに表示することが可能になっている。

 これを実現できた背景には、大量の画像データの存在がある。道路にいる人の画像データをAIが学習することで、人を正しく認識しているのだ。

 しかし、容易に想像がつくように、圃場のなかに人がいるという画像データは極めて少ない。そのため、AIで学習するためのデータが十分ではないという状況にあったのだ。

 そこで、クボタでは、約4年間をかけて、米や大麦、小麦、大豆の圃場に、様々な色の服を着た人がいる画像を撮り続け、これを蓄積し、AIに学習させたという。同社によると、数100万件単位のデータを蓄積し、これを丁寧に学習させていったというから、まさにクボタの地道な努力が裏にある。これが、圃場のなかで人を見分けることができるAIの完成につながり、世界初の自動運転コンバインの実現につながった。

 DRH1200Aでは、レーザーセンサーによって、作物の高さなどを検知するとともに、人検知用カメラを前後左右4カ所に搭載して、人を正しく検知。コンバインの近くに人がいて、危険だと判断すると、すぐに自動停止する。また、前後2カ所にミリ波レーダーを搭載したことにより、周りにある別の車両なども検知することができるという。

 また、人の検知状況ととともに、機械の状態を総合的に判断し、リスク判定する技術も開発することで、障害物検知の精度を向上させているという。

 コンバインの無人自動運転は、最新テクノロジーの活用と、それを生かすための開発チームの地道な努力が組み合わさって完成したといえる。

あぜの状況、倒伏作物への対応、つまりの自動解除……

 クボタでは、今回のDRH1200Aの製品化を、「完全自動化を着実に進化させているクボタにとって、大きな一歩を踏み出す製品であり、新時代の幕開けになる製品」と位置づける。

 自動運転を行う際に、作物と人を見分ける技術を開発したのに加えて、あぜの状況を把握する技術、倒伏作物に対応する技術、詰まりを自動で解除する技術を新たに生み出し、農機の自動運転を大きく進化させたことが、その言葉の背景にある。

 つまり、今回のコンバインに搭載された新たな技術は、農機の完全自動化を目指しているクボタにとっては重要な意味を持つものばかりだといっていい。

 DRH1200Aでは、「新時代は乗らずに刈る」を、マーケティングメッセージとして打ち出し、稲や麦の収穫の際に、作業者は、手動で圃場の最外周を1周刈り取り、自動運転開始位置にコンバインを移動。あとは、リモコン操作で自動運転を開始し、圃場の外から監視するだけでいい。モミが一杯になったら、排出位置まで自動で移動して排出。刈り取りが終わったところに戻って、作業を継続する。

 今後、クボタでは、自動運転のレベルを進化させるとともに、人手による作業となっている苗や肥料の補給に関しても完全自動化を目指しているほか、現行のエンジン機と同等の作業を行うためには、多くのバッテリーを搭載する必要があるため、大型トラクタでは燃料電池化の採用を検討していることも明らかにしている。

CES 2024にも出展、運転席がないトラクター

 その一方で、2024年1月に、米ラスベガスで行われたCES 2024に、クボタが初出展。同社ブースでは、完全電動化した多目的車両のコンセプトモデルである「New Agri Concept」を初めて展示してみせた。

クボタが切り拓く無人かつ自動運転のコンバイン、実現までの4年に求められた事柄とは?

CES 2024のクボタブースに展示されたNew Agri Concept

 New Agri Conceptでは、運転席がないデザインを採用。自律運転テクノロジーとAIを融合するとともに、6つの独立した駆動モーターと、3種類の標準的なヒッチを搭載することで、完全自動で、草刈りや耕うんなどの一般的な作業が行えるという。

 6分以内に10%から80%までの急速充電を可能としているため、車両のダウンタイムが短縮でき、充電時間に制限されずに、車両を迅速に作業に戻すことができるという特徴も持つ。また、電気で動くため、騒音がなく、住宅地や夜間の作業も行いやすい。

クボタが切り拓く無人かつ自動運転のコンバイン、実現までの4年に求められた事柄とは?

 2020年1月に、完全自動運転トラクタのコンセプトモデルを公開して、話題を集めたクボタが、新たな完全自動運転のコンセプトを発表し、その実現に向けた挑戦に、継続して取り組んでいることを示した格好だ。

農業の無人化、精密化、そして脱炭素

 クボタは、2024年1月11日に、今年で4回目となる農業経営者向け新春オンラインイベント「GROUNDBREAKERS 2024」を開催した。

クボタが切り拓く無人かつ自動運転のコンバイン、実現までの4年に求められた事柄とは?

 そのなかで、クボタの北尾裕一社長は、「クボタは、今日の延長として明日を描くだけでなく、10年後、20年後、100年後の未来のビジョンを描き、心豊かな暮らしと持続可能な社会の実現に向けてイノベーションを生み出していく」と切り出し、「たとえば、農業機械の姿も大きく変わるだろう。クボタの技術者は、『農業は無くならないが、トラクタは無くなるかもしれない』と言っている。その言葉の通り、大切なのはトラクタそのものではなく、必要な作業が、必要な時に、高精度にできることである。いまの常識に捉われてばかりでは、良いモノづくりはできない」と述べた。

 クボタではスマート農業に実現に向けて、「農機の自動化、無人化(オートノマス)」、「データを活用した精密農業(データコネクテッド)」、「カーボンニュートラル」の3点を掲げている。そこに向けて、様々な技術開発を進めている。

 しかし、クボタでは、「技術を生み出すことが最終目標ではなく、技術を融合させ、それを農家が使うことで、人と食の明日をより豊かにしていくことに取り組んでいる。また、お客様が気づいていないことに着目して、クボタから提案することが大切である」とする。

 クボタが目指すスマート農業は、地球にやさしい未来と、誰もが食に困らず、心豊かな生活が送れる未来を実現するためのものであり、そのために、農家に寄り添った研究開発を進めていくことを基本姿勢に掲げている。

 クボタが進める自動運転技術の進化は、クボタが目指す「人と食の明日をより豊かにしていく」ためのツールのひとつにすぎない。

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