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テスラからアバルトまで最新EV5台を一気乗り! 多彩な顔ぶれと個性的なモデルが増えた

 日本の輸入車インポーターの団体である「JAIA」(日本自動車輸入組合)が毎年恒例の合同試乗会を開催しました。そこで数ある輸入車の中からBEV(バッテリーEV)を5モデル試乗してきました。テスラ「モデルY」、ヒョンデ「コナ」、BMW「iX1」、ASF「ASF2.0」、アバルト「500e」の5モデルです。どんな個性があるのかをレポートします。

◆新しいアイデアに満ち溢れた大ヒットモデル

◆テスラ「モデルY ロングレンジ」

 最初に試乗したのがテスラのミッドサイズSUVである「モデルY ロングレンジ」です。2023年にテスラは年間販売台数180万台を達成して、過去最高を更新しました。2022年が約130万台でしたから、約1.4倍の伸びです。そして驚くのは、その180万台のうち、2/3を占める120万台が「モデルY」だったというのです。単一モデルで、この数を売ることは難しく、テスラは「モデルY」を「2023年世界で最も売れた自動車」と喧伝しています。

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 「モデルY」は、兄弟車のセダンである「モデル3」を膨らませたような印象です。顔つきは、ほとんど「モデル3」と変わりません。また、写真では小さく見えますが、寸法は全長4760×全幅1925×全高1625mmもあって、それなりのボリューム感があります。モデル3は全長4694×全幅1849×全高1443mmなのでその大きさがわかります。

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 室内のデザインは非常にプレーンかつシンプルで、まるでミニマリストのリビングのよう。ルーフが大きな1枚ガラスのため明るく、広々としています。これほどシンプルなインテリアは、ほかのメーカーでは見たことがありません。とにかく操作系が、これでもか! というほどに簡略化されているのです。まず、パーキングブレーキとスタートスイッチが存在しません。キーを持って乗り込めば、自動でいつでも発進できる状態にスタンバイされるのです。

 「モデルY」には、ギヤセレクトのレバーとウインカーレバーが残っていますが、最新の兄弟車である「モデル3」は、その2つさえなくなりました。ギヤセレクトはディスプレイで、ウインカーはステアリングスイッチで操作します。この新しさに挑戦する姿勢こそが、テスラらしさでしょう。

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 走りはスムーズで落ち着きがあります。ハンドル操作に対するクルマの動きは、鷹揚でゆったり。ただし、前後の車軸に配置された2つのモーターは、前が158kW(約215馬力)で後ろが220kW(約300馬力)もありますから、アクセルを目いっぱい踏み込めば、スポーツカー顔負けの鋭い加速を見せてくれます。高速道路の合流や追い越し加速で苦労することはまったくないでしょう。

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 モデル3との違いはSUVになったことのボディーサイズと車内空間の広さ、トランク容量の大きさ、モデル3でなくなったスイッチ類がある、最高速度が250km/h(モデル3は217km/h)など。ですが、価格は今回試乗したロングレンジが652万6000円、モデル3 ロングレンジが651万9000円とほとんど変わりませんので、スタイリングの好みで選ぶといいでしょう。

 モダンで明るく広々としたインテリアと、十分な動力性能、そしてゆったりとした乗り心地。普段使いできるSUVとして人気になるのも納得の総合力の高さを実感することができました。

◆コンパクトで軽快、そしてサービス精神旺盛でコスパよし!

◆ヒョンデ「コナ Lounge」

 ヒョンデの「コナ」は、2022年に導入された「IONIQ 5」に続く、日本導入BEVの第2弾モデルです。ミッドサイズSUVであった「IONIQ 5」よりも小さい、コンパクトSUVというのが「コナ」の立ち位置です。ちなみに「コナ」は、日本にはEVだけですが、世界市場にはエンジン車も発売されています。つまり、ひとつのモデルでエンジン車とBEVの両方が用意されているのです。そして、日本導入の「コナ」はFFのみとなっています。

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 そんな「コナ」はヘッドライトが非常に小さく、まるで仮面をかぶったようなユニークな顔つきです。インテリアも非常にユニーク。端的に言えば、スイッチが多いのです。ステアリングの左右にずらりとスイッチが並び、その裏にはパドルシフトがあり、コラムにはウインカー用、ワイパー用、シフト用という3つのレバーが生えています。メーターとセンターディスプレイを統合した巨大なモニターの下にも、エアコンやオーディオなどのこまごまとしたスイッチが並びます。

 そのスイッチの多さに比例するかのように、機能の数もたっぷり。ドライブモードにエッドアップディスプレイ、ワイヤレス給電、AR表示のカーナビ、ヒート&ベンチレーション機能付きのシートといった具合です。機能の充実ぶりも「コナ」の特徴です。

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 走りは非常に軽快なものでした。モーター出力は150kW(204馬力)しかありませんが、車両重量は1790kgしかありません。BEVとしては軽量です。きびきびとスポーティな走りを楽しむことができました。

 そんな「コナ」の価格は489.5万円。今回試乗したLoungeは64.8kWhで541km走れるバッテリーを搭載しますが、バッテリー容量の小さい(48.6kWh、456km)グレードの「Casual」を選べば、その価格は、なんと399.3万円です。日本や欧米のBEVと比べると、確実に1ランク下に価格が抑えられているのです。そして自治体の補助金を含めればさらに安くなります。

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 価格が手ごろなのに、機能はたっぷり。そして軽快な走り。コスパの良い軽快なコンパクトSUV。それが「コナ」と言えるでしょう。

◆BEVであろうともなかろうともBMWらしさ満点

◆BMW「iX1 xDrive30 M Sport」

 BMWの「iX1」は、BMWの電動ブランド「i」のSUVである「X」の、最も小さな「1」というモデルです。2023年2月に日本に導入されました。BEV専用モデルではなく、エンジン車の「X1」のバリエーションという存在です。

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 見た目もエンジン車と変わらないように、インテリアもエンジン車と同様。特段にBEVであることをアピールしていません。

 また、それなりにたくさんあるスイッチは、高級感と先進感がバランスしています。シートにマッサージ機能があるなど、プレミアム感が得られるのもBMWならではでしょう。

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 走りはスポーティーそのもの。俊敏というだけでなく、4輪への荷重もわかりやすく、とても運転が楽しめます。また、パドルシフトは左にひとつだけで、それがブーストになっています。そのパドルを引くと、明確にパワフルになります。とても、メリハリがあって、システム・トータル出力200kW(272馬力)・494Nmというスペックを超える印象です。キレのいいスポーティーな走りこそ、BMWならではの魅力でしょう。

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 結局のところ「iX1」はBEVというよりも、BMWらしさが濃厚に感じられるクルマでした。BEVが増えたときに、BMWらしいスポーティーさが、大きな武器になるのではないでしょうか。

◆割り切りを感じられる日本企業発で中国生産の商用EV

◆ASF「ASF2.0」

 ASFの「ASF2.0」は、中国で生産された商用の軽自動車規格のBEVです。ただし、ASFは2020年6月に設立された日本の企業。社長も日本人です。元ヤマダ電機の飯塚裕恭氏が独立して、BEVの会社であるASFを興しました。ASFは工場を持たない自動車メーカーで、いわゆるアップル社などと同じ、ファブレス企業となります。

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 「ASF2.0」は、そんなASFが最初に世に送り出したBEV。2023年5月にリース発売が開始され、すでに佐川急便やマツキヨココカラ&カンパニーなどに納車を始めています。

 現車を見て驚いたのは、その背の高さです。「ASF2.0」は、全高が1950mmもあります。通常の商用軽自動車バンは全高が1800mm台です。幅は軽自動車で同じですから「ASF2.0」は、妙に背の高いクルマに見えます。

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 そしてドアを開けると、室内は真っ平。ただし、床の厚みがたっぷりあります。床下に、30kWhのバッテリーが搭載されているのです。つまり、このバッテリー分だけ、背が高くなってしまったということでしょう。

 ちなみにバッテリーは安全性が高いと言われている、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーです。一充電あたり243km(WLTCモード)の航続距離があるので、宅配などの集配業務に使う分には十分な性能と言えます。

 しかし、これだけ背が高いと走りが不安になるもの。ところが、走らせてみれば意外や意外! 頭が重くてフラフラすることはありません。重いバッテリーが床下にあることで、重心が低いのでしょう。後輪を駆動するモーターの最高出力は30kW(40馬力)しかありませんが、トルクは普通の軽自動車の2倍近い120Nmもあります。ですから、街中を配達で走りまわるには十分すぎるほどの動力性能があります。走る、曲がる、止まるはまったくもって不足はありません。

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 ただし、商用車としての割り切りは徹底していました。驚くのは、走り出すとモーターやインバーターの音が室内中に響き渡ること。遮音性はバッサリ切り落とされています。また、サイドミラーの調整は手動で、サンバイザーのミラーにはフタがありません。相当に質素な印象です。

 とはいえ、必要なものはしっかりと揃っています。ナビもありましたし、サイドミラーの自動収納機能、6段階のエアコン、ABSやAEB(衝突被害軽減自動ブレーキ)も装備されていました。USB電源ソケットに100V用コンセント、床下の台車置きスペースまであります。

 走行性能は十分で、必要な装備も揃っています。質感は質素で遮音性はいまひとつですが、業務用に使うのであれば、その点はあまり重視されないはず。詳細な価格は明らかにされていませんが、採用企業が複数社あるところを見ると、それほど高額ではないようです。そのため、これから街中を走る「ASF2.0」の姿を目にすることは、増えていくのは間違いないでしょう。

◆BEVでも走る楽しみを追求する1台

◆アバルト「500e Turismo Cabriolet」

 最後の試乗となったのがアバルト「500e Turismo Cabriolet」。キュートな2ドア・コンパクトカーである「500」のBEV版の、さらにアバルト・バージョン。しかもカブリオレ(オープン)です。

 ド派手なイエローのボディーに、これでもか! と、お楽しみ要素を詰め込んだBEVでした。

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 お楽しみ要素の1つ目は、そのルックスです。エクステリアは、ベースとなった「500e」のキュートさを活かしつつも、アバルトらしい上質かつスポーティーなエッセンスがまぶされ、ほかにない魅力を生み出しています。

 そして、驚くのはEVサウンド。設定で「電気機能」から「外部音」をONにすると、クルマの後ろの方から「ボロボロボロ~」と、まるで排気音のような音が聞こえてきます。不思議に思ってクルマの下を覗けば、エンジン車であればマフラーのある場所に、スピーカーのようなボックスがあり、そこから音が出ているではありませんか! まさに衝撃的な演出です。

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 この「外部音」をONにしたまま走り出せば、もはやエンジン車と変わりません。カブリオレとして屋根を開ければ、さらに音が大きく聞こえます。「BEVは音がないから面白くない」という常識をぶっ飛ばすアイデアです。

 ちなみに、BEVは重いバッテリーを積むため、足回りは硬めです。そしてバッテリーのおかげで重心は低くなります。そして、このアバルト「500e」はBEVとしては車両重量1380kgと存外に軽量です。つまり、とても軽いのに、低重心で足が硬いのです。ですから、ハンドリングはまさに俊敏。

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 この小さなボディーに対するモーターのパワーは114kW(155馬力)・235Nm。1クラス上の大きなクルマに搭載されるようなパワーがありますから、加速力も十分以上! 

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 終始、ニコニコと顔が緩みっぱなしの試乗となりました。BEVでこれほど楽しんだことはありません。過去一番に楽しいBEVと言えるでしょう。

【まとめ】多彩な顔ぶれになってきた電気自動車

 今回、先進のEVメーカーから、ドイツのプレミアム・ブランド、韓国メーカー、日本のベンチャー、そしてイタリアのスポーツ・ブランドまで、その顔触れはまさに多彩なものでした。そして驚いたのは、その乗り味や個性も、まったく異なっていたということ。

 BEVは、どれもモーターを動力源とするため、動力源による違いを生み出しにくいクルマです。それであっても、今回の5台は驚くほどの違いを見せてくれました。BEVという差の出にくい食材であっても、腕の良い料理人の手にかかれば、個性的な料理に仕上がるということでしょう。BEVのポテンシャルの高さを垣間見ることのできる試乗となりました。

■関連サイト

筆者紹介:鈴木ケンイチ

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 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。

 

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