◆弱点を克服したトヨタ。最後に残ったのは、人気者ゆえの悩みでした
妄想ですが、トヨタと言えば日本の自動車業界の長男。今も昔もクルマを必要とする日本人の期待を裏切ってはいけない宿命を背負っています。「トヨタにできないことがあってはいけない!」「できないことは改善してできるようになる!」そんな思いでクルマ作りをしているはず。だからデザインもがんばりました! しかし人気者ゆえ悩みも深いのです
NEW SIENTA
永福ランプ(清水草一)=文 Text by Shimizu Souichi
池之平昌信(流し撮り職人)=写真 Photographs by Ikenohira Masanobu
◆「どうせトヨタ」は今は昔
このところ、トヨタのブランドイメージが破壊的に向上している。どの調査結果を見ても、信頼性・品質・憧れ、全項目でブッチギリのトップだ。10年くらい前まで、クルマ好きの間には「どうせトヨタだろ」というシニカルな見方があったが、現在はそれも雲散霧消し、全国民がトヨタを絶賛。絶対的な信頼を置いている。
ところが現在は、デザインでも一番大胆に攻めているのがトヨタで、それで大成功を収めているんだから恐るべし。
◆極限のパッケージングを実現
顔は犬っぽくてとってもカワイイ。思わず抱きつきたくなる。色もナチュラルなアース系が揃っていてオシャレ。試乗したのはアーバンカーキ。価格は195万~305万円。ちなみに2列シートのハイブリッドG(5人乗り/FF)は265万円です
かつてトヨタのファミリーカーといえば、毒にも薬にもならない万人受けのデザインが定番だったが、この新型シエンタは、フィアットとルノーとシトロエンを足して3で割ったようなオシャレさんなデザイン&インテリアで、極限のパッケージング(居住性)を実現している。
このサイズに3列シートを押し込んで、これだけ広々してるんだからスゲエ! 見た目はイタフラ車っぽくても、作りはトヨタそのもの。スキはない!
◆災害時には避難所代わりに
エンジンは1.5リッターのガソリンと1.5リッターのハイブリッド。ハイブリッドは、ヤリスと同じ3気筒の新型になり、ヘタすりゃリッター30㎞近く走りつつ、日常走行には十分以上な加速力も持っている。
◆最後に大きな弱点が…
というわけで新型シエンタには非の打ちどころがナイ! この世にはトヨタ車だけあればヨシ!と思えてくるが、最後に大きな弱点が待っていた。トヨタの人気車種は、納車待ちが限りなく長くなっていて、なかなか手に入らないのだ!
見て、乗って、使って、シエンタには弱点なし! おかげですでに受注4万台とか。でも、ハイブリッドは納車待ち約1年だよ!
昨年から半導体など自動車部品の不足が深刻だが、国産メーカーではトヨタが断然深刻で、多くのモデルで納車の見通しが立たず受注停止に。ランクルのような特殊なクルマはともかくとして、超売れ筋ミニバンのアルファードや、超売れ筋SUVのハリアーも受注停止中。注文可能なモデルでも納車待ち1年はアタリマエだ。新型シエンタも、ガソリン車なら半年以内に納車可能だけど、ハイブリッドは早くも約1年待ちになっている。ガーン!
「なんでトヨタ車ばっかり、納車待ちが長いんだ! けしからん!」
そうお怒りの方もいるでしょう。原因はいろいろあるけれど、「トヨタ車は人気が爆発しすぎる」というのが一番デカいようだ。他社と比べると受注台数の規模が違いすぎる。マツダやスバルとは1ケタも違う。
逆に言うと、マツダやスバルなら、どのモデルでも3か月くらいで納車されるのでオススメです! ただし、マツダやスバルにミニバンはないけどネ!
トヨタの新車が欲しけりゃ待つしかない。今や「待てば買えるだけありがたい」という状況だ。待てない人は旧型の中古車を! 中古車も値上がりしてるけど、すぐに買える。中古車最高!
試乗したのは、ハイブリッドの3列シート仕様。2列目・3列目シートを畳んでも、ラゲージ部の前後長は1.5mで、快適な車中泊はちょっとムリ。2列シート仕様なら前後長は2m強を確保できるので、車中泊したい人は2列シートにしましょう
【清水草一】
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。『そのフェラーリください!!』をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高速の謎』『高速道路の謎』などの著作で道路交通ジャーナリストとしても活動中。清水草一.com