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ランボルギーニ ウルス SEは、なぜBEVではなくPHEVを選択したのか?

大谷 達也:自動車ライター

ランボルギーニ ウルス seは、なぜbevではなくphevを選択したのか?

ランボルギーニ ウルス SEは、なぜBEVではなくPHEVを選択したのか?

電動ランボルギーニ戦略第2弾はウルス

 パワートレインをプラグイン・ハイブリッドに改めたランボルギーニ・ウルスのニューモデル“ウルスSE”が北京モーターショーでお披露目された。

 ランボルギーニが全3モデルのプラグイン・ハイブリッド化を進めていることは、1ヵ月ほど前に掲載したステファン・ヴィンケルマン会長兼CEOのインタビュー記事でご紹介したとおり。これで、昨年リリースされたレヴエルトとあわせて2モデルのプラグイン・ハイブリッド化が完了。続いてウラカンの後継モデルがPHEV(プラグイン・ハイブリッド・ヴィークルの頭文字)として年末に発表されれば、電動化戦略“ディレッツィオーネ・コル・タウリ”の第2段階は終わることになる。

ランボルギーニ ウルス seは、なぜbevではなくphevを選択したのか?

ランボルギーニ レヴエルト

 ちなみに、その第1段階は「エンジン車の最後を飾る記念モデルの発売」で、これはすでに終了。続く第3段階は2020年代後半に初の電気自動車(BEV)、ランザドールを発売することが目標として掲げられている。したがって、ランボルギーニの電動化計画は順調に進んでいるといって間違いなかろう。

なぜBEVではなくプラグインハイブリッドなのか?

 それにしても、なぜランボルギーニは一足飛びにBEV化せず、PHEVというワンクッションを置いてからBEVを目指そうとしているのか? 北京モーターショーに先立ち、ランボルギーニ本社があるイタリアのサンタガータ・ボロネーゼで行われたウルスSEの説明会で、ヴィンケルマンは私にこう語った。

ランボルギーニ ウルス seは、なぜbevではなくphevを選択したのか?

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「電動化の道筋を考えたとき、プラグイン・ハイブリッドはとても手堅い選択といえます。ランボルギーニはよりパワフルで速いスーパースポーツカーを今後も作っていきますが、それと同時にCO2削減も実現したいと願っています。私たちはラインナップのPHEV化によって、これを実現していきます。地球環境を考えたとき、ハイブリッドは許容できる範囲内でもっとも現実的な選択肢です。そして、それはランボルギーニにとっても同じことなのです」

 このコメントを聞いて、日本車ファンのなかには「やっぱりBEVは現実的じゃない。最後に勝つのはハイブリッド」なんてしたり顔で言い出す向きがあるかもしれないが、ヴィンケルマンが語っているのは「BEVとハイブリッドのどちらが優れているか?」ではなく、あくまでも現時点での現実的な選択肢がPHEVであることを説明していると理解すべきだろう。

ランボルギーニ ウルス seは、なぜbevではなくphevを選択したのか?

 その最大の理由は、現状のBEVの重さにある。なにしろ、スポーツカーにとっては軽快なハンドリングが命。しかし、大量のバッテリーが必要となるBEVでは重量増が避けられず、これがスポーツカーに求められる軽快感をスポイルするというのが各メーカーに共通する意見。だから、当面はPHEVでCO2削減を達成し、バッテリー技術が進歩して現行の車重に近い製品が作れるようになったらBEVに移行しようというのが、世界中のスーパースポーツカー・ブランドに共通した見解なのだ。

 ちなみに、自動車メーカーごとにCO2排出量の平均値を定め、これを上回った企業には多額の罰金を科すヨーロッパのCAFE規制は、スーパースポーツカー・ブランドのような少量生産メーカーに対しては特例が適用されており、一般的な自動車メーカーに比べれば大幅に緩和された規制値となっているのが現状である。

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ウルスSEで何が変わったのか?

 話がだいぶ逸れてしまったが、ランボルギーニは自分たちの価値を守り続けるために、PHEV化の道を歩んでいるといって間違いない。以前、ヴィンケルマンは私に「ランボルギーニのすべてを守り通すために、ランボルギーニのすべてを変えていきます」と語ったが、エンジン車からPHEVへの移行は、まさにこの難しいタスクを実現するために採用された手法だったのである。そして時代にあわせて変容するブランド・ビジネスを考えるとき、ヴィンケルマンが語った「ランボルギーニのすべてを守り通すために、ランボルギーニのすべてを変えていきます」という言葉は、きわめて重要な意味を持っているように思う。

ランボルギーニ ウルス seは、なぜbevではなくphevを選択したのか?

 では、この考え方にしたがってウルスがどのように生まれ変わったかといえば、基本的なボディ構造やエンジンは従来型の流用といって構わない。ここに、192ps/483Nmのモーターと容量25.7kWhのバッテリーを追加することで、800psのシステム出力と950Nmのシステムトルクを実現。従来型のウルスSを上回る0-100㎞/h加速(3.5秒→3.3秒)や最高速度(305km/h→312km/h)を達成している。

ランボルギーニ ウルス seは、なぜbevではなくphevを選択したのか?

車重2.5トンオーバーに対して

 それでも、プラグインハイブリッド・システムの追加に伴う重量増はいかんともしがたく、車重は従来型より300kgほど重い2.5トン・オーバーに達している見込み。これでは、ランボルギーニらしいハンドリングは到底、実現できないように思える。

 そこで彼らがウルスSEに投入したのが、まったく新しい4WDシステムだった。

ランボルギーニ ウルス seは、なぜbevではなくphevを選択したのか?

 4WDというと悪路を走るための技術と思われがちだが、前後のトルク配分を変化させればハンドリング特性を調整できることが知られている。そこでランボルギーニは、従来のメカニカル式4WDから電子制御式4WDへと一変。これと、彼らがこれまで培ってきた4WDの予測制御技術を組み合わせることで、従来のウルスを上回る軽快なハンドリングを実現したというのである。

 ここでいう予測技術とは、ステアリング、アクセルペダル、ブレーキペダルなどの操作により、ドライバーが次にどんな挙動を生み出そうとしているかをクルマ側が判断。これにあわせて前後のトルク配分やエアサスペンションの設定、トルクベクタリングなどの制御技術を駆使し、ときには豪快なドリフト走行を、そしてときには安定したハンドリングを維持し、思いのまま操れるハンドリング特性を生み出す技術のこと。なるほど、これはメカニカルな制御システムでは達成できないはずである。

ランボルギーニ ウルス seは、なぜbevではなくphevを選択したのか?

 自動車の電動化は各ブランドの個性をスポイルしかねない難しい課題だ。しかし、そんな難しい課題に直面しているからこそ、ブランドの原点に立ち返り、自分たちに必要な変革を断行していかなければいけないともいえる。ヴィンケルマンは「ランボルギーニのすべてを守り通すために、ランボルギーニのすべてを変えていきます」と語ったが、私には、ブランドの真価を見失わないいっぽうで、変革のリスクを恐れないヴィンケルマンらの勇気ある経営判断こそが、ランボルギーニの成功を支えているように思えて仕方ない。

ランボルギーニ ウルスSEのプレビューは「ランボルギーニ・アリーナ」というイベントの一環として行われた。ウルスSE以外にも、クラシック ランボルギーニの試乗など盛りだくさんのイベントについては、大谷 達也氏のYouTubeチャンネル「The Luxe Car TV」で詳しく紹介されている

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