アルファ・ロメオ156とボルボ940ポラール・エステートのちょっと古いクルマ2台持ち! オーナーが欧州車に目覚めたのはあの自動車美術館がきっかけだった
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『エンジン』の人気企画、「2台持つとクルマはもっと楽しい」。国産のスポーツカーにはじまり、イタリア車、フランス車を乗り継いだ能條則宏さんがたどり着いたのは、自分自身のための心躍るアルファ・ロメオと、家族のためのボルボだった。
きっかけはギャラリー・アバルト自動車美術館
待ち合わせの時間ちょうどに、真っ赤な2台がやって来た。美しいサルーンのアルファ・ロメオ156と、いかにも実直なステーション・ワゴンのボルボ940エステート。いずれも中も外もタイヤハウスの内側まで、傷一つ汚れ一つない。でもシートのカバーや床や荷室のオーバーマットや、丁寧に磨かれたエンジン・ルームから、しっかり使い込んでいる雰囲気は伝わってくる。
能條則宏さんのアルファ・ロメオ156は初代オーナーがフランスで購入し、日本へ連れて帰ってきたという極初期型の2.5リッター V6搭載モデル。後の日本仕様とはダンパーやスプリング、スタビライザーなどが異なり、よりしなやかな仕立ての足になっている。
2台の主は能條則宏さんと貴美さんのご夫妻だ。現在53歳の則宏さんは2サイクルのオートバイで乗り物に目覚め、そこからロータリー・エンジン車に乗りたいと、アンフィニRX-7を最初に手に入れた。
「学生時代は下道をバイクで走り回っていました。セブンも峠道を友達と一緒に走ったり」と則宏さん。「放浪癖があるんですよ(笑)」と優しく貴美さんが合いの手を入れる。
「車体が軽く、キャブで、リトラクタブル・ヘッドライトがよかった」
則宏さんはスーパーカーに憧れ、消しゴムも集めたド真ん中の世代だ。クルマは走りとカタチのひとである。そしてランチア・ストラトスを見たいとセブンで訪れたギャラリー・アバルト自動車美術館で、彼はスーパーカーと同等か、それ以上の影響を受ける出会いをする。
「館長の山口寿一さんに声をかけてもらったんです。“で、どんなクルマがいいんだい?”と訊ねられて、“軽くてエンジンが回るのがいいですねぇ”、なんて話をして」
かつてイセタン・モーターズの名物セールスマンだった館長との出会いがきっかけで、則宏さんのクルマ趣味は欧州車へと傾倒していく。
「“ストラトスなんか楽しくねぇぞ”って言われて、最初は何を言ってるんだろう? と思ったんですよ。でも実は、単純な速さだけでない、違う世界がありました」
最初に館長から薦められたのは、小さなプジョー106S16だった。
「走りは後輪駆動と思い込んでいましたから、乗ったら驚いちゃって」
106の後、館長にアルファ・コルセが手がけた2リッターV6ターボのGTVに乗せてもらい、則宏さんは虜になる。貴美さんと訪れたイタリアで、石畳の道を爆走するクルマたちを見たことも後押しをしたようだ。
「V6の音。足まわりのセッティング。前輪駆動なのに、そんな感じがしない。接地感もあって、まるで4輪駆動みたいで、ぐっと押し出す感覚もある。全然アルファ・ロメオに興味はなかったのに、アルファ・コルセには完全にヤラれてしまった」
「1.6リッターの147は街中でシフト・アップしていくだけで気持ちがいい。また深い世界を知りました。でもアルファ・コルセはコルセで、週末に走りに行くと、やっぱり、これだ!っていう良さがある(笑)」
その後、能條家にはコウノトリがもう1人男の子を運んで来てくれたので、残念ながら代わりにアルファ・コルセが去ることになる。
「147の後席左右がチャイルド・シートだから、真ん中でお姉ちゃんが挟まれていて……でもよく出かけて、やはり年2万kmは走りました」
への字口になる
3人の子育てとともに過ごした147との日々は幸せそのものだったが、忙しさもあり車検を切らし調子を崩しがちに。結局147は貴美さん用のゴルフに化けた。則宏さんは館長からアウディA3クワトロのMT車を薦められるのだが……。
能條家では貴美さんが主に乗るボルボ940エステートは1995年型の2.3リッター直4搭載モデル。布シートでサンルーフが付いておらず、リア・ガラスがスモーク・ガラスでないこと、という則宏さんの挙げた細かな、でも譲れない条件をすべて満たす数少ない仕様。
「速いけど、どこか気持ちが良くなくて……。ゴルフもそうで、乗るとなんだか口がヘの字になっちゃう」
その理由は、なんと息子さんが教えてくれたという。アルファ・コルセや147ではクルマ酔いをする彼が、アウディでは全然平気だった。
「荷重移動が少なく安定しているのがお兄ちゃんには良かった」
能條家には一時アバルト500も来たことがあったが、則宏さんは147への思いを断ち切れずにいた。そこへ欧州仕様のアルファ・ロメオ156の出物の知らせが入る。これに乗ると、見事に口元が緩んだ。
「V6のあの音と、しなやかな足。たどり着いたな、って思いました」
アルファ・コルセと147を乗り継いだからこそ、この156の絶妙な仕立てを理解できたのだった。
そしてゴルフの後釜となったのがフランス車でなくボルボ940だ。
「館長の紹介で156を整備してもらっている所に940も入庫していて、ものすごく薦められて。最初は聞き流していたんですが(笑)、一度座らせてもらったら居心地がいい」
940は同世代の欧州車より遥かに整備性がよく、家族5人と大荷物も飲み込む。貴美さんは「ゴルフより大きいけど駐めたい所に真っ直ぐ収まる」と喜び、末の息子さんは乗ると「マジでいい」とすぐ寝てしまう。意外や走りも文句なしだった。
「156で家族全員が乗ると、コーナーで前が抜けちゃって走りにくいのに、940は5人乗せた時の安定感というか、しっかり感がいい」
156は13万km、940は11万kmを超えているが、いずれも徹底した整備を受け調子は上々。156はミラーの色など過去にわずかに手が加えられていたそうだが、基本、940ともども則宏さんによって常に磨き上げられ、ほぼ新車当時の姿を保つ。
見た目も性格もまるで違う2台だが、不思議な共通項があるという。
「身体に馴染む感じがあるんです。なんだかクルマから、こっちにそっと寄ってきてくれるような……」
そう言って2台を見る則宏さんと、そうやってクルマの話を楽しそうにする彼を見つめる貴美さんの顔には、穏やかな笑みが浮かんでいた。則宏さんがへの字口になることは、当分なさそうである。
文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=神村聖 協力=カークラフト
(ENGINE2023年2・3月号)