この連載では、昭和30年~55年(1955年〜1980年)までに発売され、名車と呼ばれるクルマたちを詳細に紹介しよう。その第28回目は、流麗なクーペスタイルが印象的だった初代日産シルビアの登場だ。(現在販売中のMOOK「昭和の名車・完全版Volume.1」より)
美への探究から生まれた流麗なクーペスタイル
あくまでも美しいスタイリングを狙ったのがシルビアであるが、そのプロトタイプであるダットサンクーペ1500は、昭和39(1964)年9月に開催された第11回東京モーターショーでデビューしている。
斜め後方からのスタイリングも気品が漂うたたずまいを醸し出す。現代でも十分に洗練されている。日産の若手デザイナーとA.ゲルツ氏の共同作品ともいわれるボディは、どことなく和風で日本の伝統美を感じさせる。
当時の日本車としてはきわめてユニークな2ドア2座クーペであるが、そのスタイリングは、BMW507(2座スポーツ・カブリオレ)の流麗なデザインで知られている、アメリカのアルブレヒト・ゲルツの「アドバイス」 を積極的にとり入れてつくり上げられたものという。ただし、日産側としては、同社の若手デザイン・スタッフの作品であるとしている。
その真偽はともかく、クリスプ(明快な、簡潔な、の意味)ラインと名付けられたその鋭角的でシャープなシルエットは、宝石のカットを思わせるものがある、と高く評価されていた。もっともあまりのシャープさのため、そのボディの製作にあたってはプレスの限界を超えてしまい、日産系の非量産ボディの専門メーカーである殿内製作所(当時)が手叩きで仕上げたものである。
ベター・ルッキングに相応しい高性能ぶり
シルビアは昭和40(1965)年3月に、ニッサン・シルビアとして正式にデビューし、4月にはアメリカのニューヨーク・ショーに出品された。そしてアメリカの自動車専門誌「カー・アンド・ドライバー」はその年の7月号で、シルビアを「1965 年のベター・ルッキング・カーのひとつである」と高い評価を与えた。
もしそれが、日産のデザイン·スタッフのみの作品とすれば日本車のデザインが国際的に高く買われた最初の例ということもできる。
シルビアは最初ダットサンの名が付けられるはずだったが、「車格のイメージが大衆車のダットサンではふさわしくない」という意見が出て、ニッサンに改められたという。当時の日産がこの「ベタ ー・ルッキング・カー」にかけた期待がうかがえるエピソードである。
昭和39(1964)年から40年にかけて、日本ではスポーツタイプが相次いでデビューしている。シルビアはフェアレディ1500(SP310)の高級クーペ版といった性格をもっていたが、当時の状況を考えれば、そのベースになったのがSP310であるのは当然である。
エンジンはG型のボアを7. 2 mm拡げ、ストロークを7.2mm縮めたショートストロークのR型で(87.2 ×66.8mm)、排気量は1595ccとなっている。
吸排気マニホールドの形状を変えて吸排気の流れを改善し、ビッグエンドにF770合金を使用するなどの手を加え、圧縮比は9.0、SUキャブを2連装して最高出力は90ps/6000rpm、最大トルク13.5kgm/4000rpmを発生した。かなりの高回転タイプといってよい。
トルク特性が素直で回転の伸びも良好
4速手動ギアボックスは、ポルシェタイプのボークリング・フルシンクロ式である。クラッチもコイルスプリングから、ダイヤフラムスプリングに代えて強化をはかり、フェーシング表面積も拡大されている。
ほとんど手作業のボディと同様、インテリアも手間がかかっている。ウッドの3本スポークステアリングはこの頃のスポーツカーの定番だ。インパネも機能美溢れる。
シャシはSP310(後にSP311)とほぼ同一のX字補強メンバー付きのラダータイプで、前輪はダブルウィッシュボーン/コイル独立懸架、後輪はリジッド・アクスル/半楕円リーフ・スプリングの組み合わせと常識的なレイアウトとなっている。前輪には、ダンロップのMKII型ディスクブレーキが装着された。車内はとにかく快適性が高かった。シートの仕立てもきちっとしていたし、操作系のレイアウトが整理されていた。
車両価格は発表当時でも120万円と、SP311 (1600)が88.6万円、セドリック・スペシャル6(ベースモデル)が115万円であることを考えると、かなり高価なモデルだった。 当時世界のスポーツGTカーが2+2座モデルを競って発表しているとき(ジャガーEタイプ、MGBなど)、2座のシルビアはやや性格があいまいなクルマという評価もあり、結局その総生産台数は554台にとどまった。
走りを支えるタイヤは14インチのバイアス構造のタイヤ。 4プライ(カーカスコード4枚重ね)という当時の乗用車としては一般的な作りとなっている。
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しかし、各メーカーが量産態勢の整備に血まなこになっていたこの時代、「あくまでも 美しさ」を求めたシルビアには、逆説的な存在価値があったともいえる。
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<意外なスプリンター>
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初代シルビアの価格は120万円。いかにそれが高価格だったか、当時の他車と比較してみよう。セドリックの最上級グレードであったスペシャル6は115万円、ホンダS800が65万8000円、スカイラインのGT-Bは90万1000円だった。これをS13型シルビアが発売されていた平成初期の物価に換算すると、650万円程度に相当する。
日産シルビア(CSP311型)諸元
●全長×全幅×全高:3985×1510×1275mm
●ホイールベース:2280mm
●車両重量:980kg
●エンジン型式・種類:R型・直4OHV
●排気量:1595cc
●最高出力:90ps/6000rpm
●最大トルク:13.5kgm/4000rpm
●トランスミッション:4速MT(フロアシフト)
●タイヤサイズ:5.60-14 4PR
●新車価格:120万円