2019年の衝撃的なデビューから、はや5年。ポルシェ初のEV「タイカン」に大規模なマイナーチェンジが実施されました。
ポルシェ新型「タイカン・ターボGTヴァイザッハ・パッケージ」のサーキットでの走り
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たとえば、タイカン・ターボSの最高出力は現行型の761psから952psへと強化。0-100㎞/h加速は2.8秒から2.4秒へと短縮されました。
3000万円以上するスーパースポーツカーでさえ0-100㎞/h加速で3秒を切れれば速い部類ですから、2.4秒というタイムがどれほどすごいかがわかっていただけるでしょう。
いっぽうで、EVにとってもっとも大切な性能のひとつである航続距離は、467kmから630kmへと、こちらも大幅に伸びています(タイカン・ターボSの場合)。
もうひとつ興味深いのが充電スピードの高速度化です。
バッテリーの充電容量を10%から80%まで高めるのに必要な時間は、現行型が21分30秒だったのに対して、新型は18分しかかからないとポルシェは説明しています。また、10分間の充電で走行できる距離は、現行型の225kmから315kmまで伸びたとされます(ベースグレードであるタイカンのデータ)。
いま日本で実際にEVに乗っている方々がこれを聞いたら、「えー、いくらなんでも、それはないでしょう?」と思うはず。
そう、なぜなら、これらはドイツなどヨーロッパの一部にある超高速充電器を用いた場合のデータだからです。
ちなみに、新型タイカンは最大320kWの充電容量を備えているというから驚き。なにしろ、日本の高速充電器は50〜90kWが大半で、100kWを越えるものはまだまだ少数派だからです。
おそらく、ポルシェが主張するような超高速充電を日本で体験できるようになるには、まだまだ時間がかかることでしょう。
新型タイカンのもうひとつのニュースは、ターボSの性能をさらに上回るターボGTというグレードが新設されたことにあります。
ヴァイザッハ・パッケージは、なんと軽量化のためにリアシートを取り払ったうえで、大型のリアウィングを取り付けるなどして空力特性を強化。この結果、ニュルブルクリンクのノルドシュライフェでは量産EV世界最速となる7分7秒55をマークしたというモンスターマシンです。
スペインのセヴィリヤ地方で行われた国際試乗会では、公道でタイカン・ターボを、モンテブロンコというサーキットではヴァイザッハ・パッケージに試乗したので、その様子を報告しましょう。
ポルシェは「人間が操るためのクルマを作っている」
先に試乗したタイカン・ターボは、動き出しがスムーズなサスペンションが路面の凹凸を巧みに吸収して、実に心地いい乗り心地を実現していました。
ポルシェ新型「タイカン・ターボGTヴァイザッハ・パッケージ」
実は、ポルシェは今回のマイナーチェンジに先立ち、およそ2年前に年次改良を実施していますが、乗り心地の方向性が変わったのはこのときからだと私は捉えています。
というのも、デビュー当時はやや突っ張った足回りでしなやかさに欠けていたのに対し、年次改良型はそれよりもはるかに柔軟で、快適な乗り心地に仕上がっていたからです。
スポーツカーというと、なんとなく足回りは硬ければ硬いほどコーナリング性能は高くなると思いがちです。
たしかに、ボディの傾きを抑えるハードなサスペンションはコーナリング性能を高めるのには有効ですが、ブレーキングやコーナリングに伴ってピッチやロールといった「クルマの傾き」がある程度はわかったほうが、いまどの程度の荷重がかかっていて、タイヤがどんな状態になっているのかをドライバーが推測しやすく、それだけ無理なく安全にコーナリングするのに役立つと私は考えています。
おかげで、タイカン・ターボでワインディングロードを走った際にも、ひとつめのコーナーから自信を持ってアプローチすることができました。この傾向は年次改良型と同じもので、2019年のデビュー当時には感じ得なかったものです。
こうした足回りの思想は、ヴァイザッハ・パッケージにも生かされていました。
もちろん、そのサスペンションの設定はタイカン・ターボよりもはるかにハードなはずですが、それでもコーナリングでは自然なロールを披露。タイヤが滑り始めるスキール音とともに、タイヤ・グリップの限界が近づいてきたことが事前に掴めるので、安心してサーキット走行を満喫できました。
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サーキット試乗を終えたとき、ポルシェの開発ドライバーであるラース・ケーン氏に「このクルマはコーナリングの様子がよくわかるので操りやすい」と私が伝えると、「そのとおり。なぜなら、私たちはコンピューターが操るクルマではなく、人間が操るためのクルマを作っているのだから」とケーンは答えてくれました。
彼のこのコメントに、ポルシェのクルマ作りの真髄が込められているように私には思えました。