新機構「Honda E-Clutch」は“マニュアルトランスミッションの進化”がテーマだという。ホンダの開発者の方々に、開発の経緯や期間、実装に至るまでの苦労など、さまざまな話をうかがった。
上の写真左から本田技研工業の小野惇也さん(開発責任者、LPL)、坂本順一さん(大型モーターサイクルカテゴリーGM)、伊東飛鳥さん(駆動系研究PL)、竜崎達也さん(制御設計PL)。
文:オートバイ編集部
「ホンダ Eクラッチ」開発者インタビュー
画像1: 「ホンダ Eクラッチ」開発者インタビュー
MTかATか、でもう迷わない! 変速もスムーズでスポーティ
もっと手軽に、たくさんの人にイージーライドを楽しんでもらいたい、ということで開発された今回のEクラッチだが、発進から停止までクラッチ操作が不要、というこのシステムが誕生するまでには相当な苦労もあったようだ。
「油圧を使ったものや、クラッチ・バイ・ワイヤなど、さまざまなシステム構成も試しましたが、最終的に電気モーターを使った構成がベストだ、ということになりました。ここに至るまで長い年月がかかりました」
開発チームが最終的に掲げたテーマは「マニュアルトランスミッションの進化」というものだった。クラッチ操作が不要なトランスミッションならATやDCTもあるが、どうして開発陣は、ここまでしてマニュアルにこだわったのだろうか。小野さんが語る。
「マニュアルトランスミッションの価値というのは、ライダーが自分の意思で操作することで、自分で積極的に操れる楽しさがある、というところだと考えました。このEクラッチも、開発中にはクラッチレバーがつかない仕様もテストしていたのですが、マニュアル車に乗る楽しさを考えた時、やっぱりライダーの意思でクラッチ操作ができるようにした方がいいよね、ということになり、最終的にクラッチレバーを残したのです」
ライダーの代わりにバイクがクラッチ操作を行なってくれる、と言葉で言うのは簡単だが、発進時に使う半クラッチひとつとっても、平地と坂道ではその長さも違ってくるし、セッティングを決めるのには膨大なデータが必要になるのではないだろうか?
「クラッチの制御については、DCTの開発の際に蓄積されたデータを活用しました。Eクラッチではモーターでクラッチを操作するので、モーターの緻密なコントロールが要求されるのですが、そうしたモーターの制御技術については、ホンダが培ってきたロボティクス技術が大いに役立っています」
画像2: 「ホンダ Eクラッチ」開発者インタビュー
「一度このEクラッチを体感していただければ、バイク選びの際、マニュアル車にするか、それともDCT車にするか…というように迷ったりすることはなくなるだろうと思っています。これからいかにこの技術を普及させていくか、今後の展開を楽しみにしていてください(坂本さん)」
「クラッチ操作不要、と聞くと便利なイメージが先行してしまうかもしれませんが、このEクラッチ車はかなりスポーティな走りも得意です。もちろん気楽に楽しめますから、ちょっとそこまで出かけようかな、と気軽にバイクに乗る気にさせてくれるトランスミッションだと思います(竜崎さん)」
「購入の際、DCTと迷う方もいらっしゃるかもしれませんが、EクラッチにはATとマニュアルという2種類のバイクを乗り比べるような楽しみもあるのです。時にはクラッチ操作を自分で行なって操ることそのものを楽しんでいただけますし、電子制御に任せてラクチンに移動することだってできるのです。楽しみにしていてください(伊東さん)」
「マニュアル車に乗る敷居を下げてくれるのがこのEクラッチです。発進から停止までクラッチ操作がなく、シフト操作のみで乗れますから、非常に恩恵の大きいシステムだと思います。あと、自分でシフトチェンジするときも、このEクラッチは操作感がとてもスムーズなんです。ぜひ体感して、驚いてください(小野さん)」
新型「CB650R」「CBR650R」に搭載
画像: 新型「CB650R」「CBR650R」に搭載
国内市販の第一弾はCB650RとCBR650R
Eクラッチ発表会の会場に展示されたのは、新型CB650R。フルカウルスポーツのCBR650Rともども、マニュアルとEクラッチ搭載車が選べる予定だ。実車に少し触るチャンスがあったのだが、イグニッションキーをONにすると同時にシステムが起動しアクチュエーターが作動、少しクラッチを切った状態でスタンバイをするようになっていて、クラッチレバーを握るとレバーが少し奥に引っ込む感触があるのが特徴。Eクラッチ搭載モデルであるこの2機種の国内発売は2024年夏前との噂も。
コンパクト化のためにモーターを2個使用 CB650Rに装着されたEクラッチシステムを分解したところ。写真左上、モーターを2機使用しているのは、作動に必要なトルクを確保するのに1機だとモーターが大型化してしまい、エンジンのケースカバー横の張り出しが大きくなってしまうため。
エンジンカバーに載せても違和感のない小型設計 エンジン右側のケースカバー、クラッチレリーズの横にEクラッチシステムは装着される。万一の転倒の際にダメージを負わないよう、システムは徹底的にコンパクト化を追求。極力張り出しを押さえられている。