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清水草一の私的なイタリアンGT考 フェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8C、マセラティ・グラントゥーリズモを「真っ白な灰になるまで燃焼させたい!」

清水草一の私的なイタリアンgt考 フェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8c、マセラティ・グラントゥーリズモを「真っ白な灰になるまで燃焼させたい!」

清水草一の私的なイタリアンGT考 フェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8C、マセラティ・グラントゥーリズモを「真っ白な灰になるまで燃焼させたい!」

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中古車バイヤーズガイドとしても役にたつ『エンジン』蔵出しシリーズ。今回は2009年10月号に掲載された清水草一がフェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8C、マセラティ・グラントゥーリズモSのイタリアンGT3台に試乗した、抱腹絶倒リポートを取り上げる。「大乗フェラーリ教」開祖を名乗る清水草一は、新世代フェラーリたるカリフォルニアをどう見たのか? マラネロ製V8を与えられたアルファ8C、あるいはマセラティ・グラントゥーリズモSは? フェラーリを基準にして世界を理解する男が描写する最新イタリアンGT3台の試乗記を堪能あれ。

7年後に買うことになる!

本音を言えば、私はイタリア車にGT性を求めていない。GT性とは、女性で言えば「すこし愛して、長ーく愛して」であって、一瞬で人生を燃焼し尽くすような熱いイタリアン・スポーツには、求めてはいけない性格だからだ。

清水草一の私的なイタリアンgt考 フェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8c、マセラティ・グラントゥーリズモを「真っ白な灰になるまで燃焼させたい!」

中でもフェラーリはその最たるもの。たとえマラネロの本社が「これはGTだ」と主張するモデルでも、実際にGTとして使う人などいやしない。なぜなら、フェラーリは走ると減るクルマだからである。走ると減るのだから、どうせ減るなら徹底的に、真っ白い灰になるまで燃焼させたいじゃないか。

フェラーリでグランド・ツーリングに出るなんて、エリカ様に炊事洗濯をやらせるようなもの。美の浪費以外の何物でもない。と言いつつ自分のフェラーリでソウルまで走ったこともあるのだが、それはフェラーリの間違った使い方である。

しかし今度のカリフォルニアは違う。これはGTだ。華麗なるイタリアンGTそのものだ。ただし、決して「すこし愛して、長ーく愛して」ではない。かなり激しく、しかし割と長く愛せる、新たなフェラーリの世界を切り開いたGTだ。

とにかく身構えずに乗れる。着座位置が高く視界がいい。ボディが適度にコンパクトで取り回しがいい。サスペンションが驚くほどしなやかでストローク量が大きい。クイックでステアリング・インフォメーションに富んだターンイン、FRらしい素直でコントローラブルな操縦性。これらは、フェラーリに人生を賭ける破滅願望系の人間にとっては、本来すべてマイナス評価の対象だが、カリフォルニアの場合はすべてがプラス評価になってしまう。なぜなら、このクルマは中途半端じゃなく、徹底的だからだ。

いいとこ取りのヴァリオ・ルーフを装備した、超軟派なオープン・モデル。ボディもかなり重い。しかもオープン時よりクローズド時の方がスタイルもいいから、「たまには屋根を開けなくちゃ」という強迫観念も生まれない。何にも縛られず、要求されず、ただ優雅に楽しむだけ。そこには甘い生活だけがある。あのV8ミドシップ・フェラーリが持つビリビリ感はまったくない。

清水草一の私的なイタリアンgt考 フェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8c、マセラティ・グラントゥーリズモを「真っ白な灰になるまで燃焼させたい!」

しかし、フェラーリはフェラーリ。エンジンは常に本気だ。4.3リッターV8はフェラーリとして初めて直噴化され、吸気・排気の双方に可変バルタイ機構も装備している。フェラーリ・エンジンらしく、高貴なブリッピング一発で目頭が熱くなり、レッドまでブチ回せば魂は激しく燃焼するが、軽く流すのもいい。ここが重要だ。V8ミドシップの場合、軽く流すのは美の浪費だが、カリフォルニアならひとつの愛し方。それが新鮮だ。

ミッションはフェラーリ初のデュアルクラッチ式なので、従来のF1マチック系と違い一瞬のクラッチ断続感がない分、F1気分は薄い。代わりに低速域でのギクシャク感はほぼ皆無、タイムラグも当然皆無だ。

カリフォルニアは、ワインディングを飛ばすのもいい。ミドシップ・フェラーリはサスペンションのストローク量が少なすぎて、ワインディングを走っても結局楽しいのは音だけだったりするが、カリフォルニアは違う。シューマッハー様がチューニングしたというストローク量たっぷりのしなやかなサスペンションは、ゲルマン製GTのごとく、路面の凹凸をものともせず、しなやかに突っ走ってくれる。外から見るとビックリするくらいロールしてるが、だからこそワインディングを甘く軽やかに駆け抜けることができる。

乗っていて直感した。私はいずれこのクルマを買うことになるだろうと。そして、この華麗なイタリアンGTが演出するステキな生活を目指すだろう。それは恐らく7年後。それまではV8ミドシップで魂を燃焼させることにしよう。試乗後私は、とりあえず328からF355へ買い換えることを決めた。

危険だ、危険すぎるGTだ

近年、ビジネスの効率的な展開のために、フェラーリ製V8エンジンの他のブランドへの供給が盛んである。実に素晴らしいことだ。だってフェラーリ以外でもフェラーリ・エンジンを楽しみたいじゃないか。私はフェラーリ製エンジンさえ載っていれば、たとえボディはトラックでも月面車でもかまわない。アルファ・ロメオならなおいい。

アルファ8Cコンペティツィオーネのエンジンは、マゼラーティに供給されているのと同じ4.7リッターV8をベースにしている。吸気側のみに可変バルブ・タイミング機構を持ち、トルクの厚みを増やしているが、性格はかなり違う。いや、まったく違う。8CのV8は、フェラーリよりも熱く刹那的だ。

フェラーリと同じマニェッティ・マレリ製2ペダルMTは「Qセレクト」と名づけられるが、Dレインジで乗っていても、シフト・タイミングはかなりスポーティだ。十分な低速トルクがあるのに、3000rpm付近まで回さないと、自動シフトアップしない。サウンドは完全にフェラーリのそれで、しかもその炸裂ぶりは下手すりゃフェラーリ以上だから、街中では周囲に気を使って、パドルで早めにシフトアップしてしまったりする。

清水草一の私的なイタリアンgt考 フェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8c、マセラティ・グラントゥーリズモを「真っ白な灰になるまで燃焼させたい!」

ハイウェイに乗り出してスポーツ・モード・スイッチをON、シフトダウンをかました瞬間「バリバリバリッ」というV8の華麗なアフターファイアが炸裂する。刹那、全身がとろけつつアクセル全開、ドーパミンも全開で至高の雄叫びをこだまさせずにはいられない。危険だ。危険すぎるGTだ、これは。

独自のスティール製フロアと合体したカーボン・ボディは、重心が低く、車重の数値よりさらに軽く感じる。前後のオーバーハングも短いから、ボディがコンパクトに感じられる。パワステはかなり重めで硬派な味つけ。3台中サスペンションは最もハードで、GTというよりスポーツカー的だ。ハンドリングは重厚でありながら驚くほど軽快で、まごうことなきスーパーカーなのに、コンパクト・スポーツを振り回しているような気分になれる。

このコンパクトに感じさせるマジックにより、私はつい8Cで、とんでもなく曲がりくねった、林道もどきのワインディングに分け入ってしまった。そんな、本来決してスーパ

ーカーが足を踏み入れるべきじゃない道でも、8Cは難なく踏破できてしまう。

試乗を終えて、走り去る8Cを見送って驚愕した。こんなものすごい音をさせていたのか!

完全にレーシング・カーじゃないか。どうしてこれがEUの音量規制を通るのか。「フェラーリ製エンジンは治外法権」という条文がマーストリヒト条約にあるのか。だったら子々孫々引き継いでいただきたい。

なにもかも美しすぎる

最後の1台はマゼラーティ・グラントゥーリズモSオートマチックである。実は私はこれの「オートマチック」がつかないモデルにメロメロだ。何もかもが美しすぎる。何もかもがエロすぎる。あの現在地上で最も心に刺さるスタイリング。スポーツ・モードで全開かますと神が見え、“もう死んでもいいモード”に入る。それでいて4人がしっかり乗れて、後席がまた超絶官能空間ときている。そろそろ暑苦しいV8ミドシップなんざ卒業して、こういう真にリッチ&ゴージャスなモデルに乗り換えたいなとすら思う。

しかし、生活が全然リッチ&ゴージャスじゃないので、これじゃ乗って行くところがない。ま、V8ミドシップ・フェラーリだって乗って行く先なんかないのだが。

とにかく今度出たのは、私がメロメロのグラントゥーリズモSの、6段トルコンATバージョンだ。「S」がトランスアクスル・レイアウトの2ペダルMTなのに対して、オートマチックは通常のレイアウトになっている。

清水草一の私的なイタリアンgt考 フェラーリ・カリフォルニア、アルファ・ロメオ8c、マセラティ・グラントゥーリズモを「真っ白な灰になるまで燃焼させたい!」

こういうおクルマを買いにいらっしゃるお客様の辞書には、下位モデルを注文するなんていう文字はなく、自動的に「S」になるのだそうだ。そうするとフェラーリF1スーパーファスト系の2ペダルMTにせざるを得ず、上り坂での発進で少しバックして奥様の心臓が止まりそうになったりするので、トップモデルにもトルコンATバージョンが導入されたのだと聞く。なんてリッチ&ゴージャスな世界だろう。

こちらのエンジンは元祖4.7リッターV8。バルブ・タイミング可変機構はなく、トップパワーはアルファ8C用よりやや低い440馬力。サウンドは3台中最も大人しく、閑静な住宅地で苦情が発生しないギリギリのレベルを維持している。

走れば、これぞ生まれながらのGT、まさに華麗なるイタリアンGTだ。なにしろ名前が「GT」(グラントゥーリズモ)なくらいだ。

ただ、エンジンも微妙にセッティングを変えてあるのか、トルコンATのせいか、スポーツ・モードでトップエンドまで燃焼し尽くしても、炸裂感は期待値に届かない。2ペダルMTモデルにはあったアフターファイアの「ゴロゴロ~」もない。

でも、そこまでやると奥様が怖がるし、GTとしてはこれはこれでいいんじゃないか。華麗なるイタリアンGTに乗っていると本当に免許が危ないし。もちろんグラントゥーリズモSオートマチックでも免許は猛烈危ないが、ただの「S」よりは理性が働いてくれそうだ。

とかくイタリアンGTは理性が木っ端微塵になりやすい。くれぐれも乗る前には、理性を繋ぎ止めておくようにしようと思う。免許がなくなったらおまんまの食い上げだから。

文=清水草一 写真=望月浩彦

(ENGINE2009年10月号)

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