ロータスの最後のエンジン車と言われる「エミーラ」。写真はV6ファーストエディション
1952年、ロンドンに創立されたイギリスの自動車メーカー、ロータス・エンジニアリング社(以下、ロータス)。エンジンの世代をスポーツカーの代表的ブランドとして駆け抜けてきたロータス。近い将来、電気自動車専業メーカーへの道を歩むことを宣言したが、その新時代への橋渡し役として登場したのが最新のエンジン車「エミーラ」だ。熟成を極めたエンジンを搭載した「ロータス最後のエンジン車」はどんな味わいなのか。シリーズ「快適クルマ生活 乗ってみた、使ってみた」。自動車ライターの佐藤篤司氏がロータス・エミーラをレポートする。【前回記事「ロータス・エレトレ編」から読む】
【写真】エンジン車の魅力を継承する、ロータス・エミーラのスタイル
新世代の第一歩でありながら「エンジン時代の集大成」
名門ロータスを確固たる地位まで押し上げてきた数々のライトウエイトスポーツのモデル。ここに来て、バッテリーEV(BEV)である「エレトレ」を発表し、日本デビューも果たしましたが、その一方で歴代ロータスを支え続けてきたエンジン搭載モデルも、まだ健在。それが「ロータス最後のエンジン・モデル」と言われる「エミーラ」です。
実はデビュー時には「新世代ロータスの第一弾」とも言われていました。オール電化モデルのメーカーを宣言したロータスにとっての新世代の第一歩がエンジン車というのは少し不思議な気がするかもしれません。エレトレをはじめとしたBEVが登場するまでの「転換期を支えるモデル」という意味があるということなのでしょう。新世代の第一歩でありながら、「エンジン時代のロータスの集大成」とも言えるはずです。
現状はV6のファーストエディションの走りを楽しみます。走り出すと、ミッドエンジンスポーツカーらしく、ドライバーを中心にしてクルマの鼻先の方向が決まる感覚は実に心地がよいものです。おまけにロータスの特徴であるダイナミックなコーナリング性能はまったく失われていません。前後のダブルウイッシュボーンサスペンションがワインディングでは威力を発揮し、バターの表面を温めたナイフで切り込むように、気持ちよく路面をなぞっていく感覚は快感そのものです。
やっぱり軽さは正義だとエミーラが証明した
1.4トンというボディは「できればもう少し軽かったら」と、思いつつも、それでもBEVの力任せの走りとは違った、軽々とした走りを実現してくれます。慣性重量が軽いということは車の挙動でプラスに働きます。加速も軽々で、コーナリングはより安定し、ブレーキングも確実にこなせます。重量級のBEVに乗る機会がグッと増えた昨今、この軽々とした感覚は「軽さは正義」という感覚を蘇らせてくれます。力任せでない走りの軽快感、これはどんな時代になっても変わらず存在する価値観だと思います。
さらにその軽快感をサポートしてくれるのが6速のマニュアルミッションです。コクコクと心地よく決まっていく操作感はモーターのシームレスな加速感にはない味わい。今やこのシフトフィールを懐かしむ時代になってしまいましたが、ドライバーにとっての心地よい操作感はここでも普遍だと思ったのです。
「気が付くと笑顔になっている」というロータス伝統の走りは、新世代モデル、エミーラにもしっかりと継承されています。
そんな走りを楽しんでクルマを降ります。エミーラのコンセプトの中には「これまでのどのモデルよりも日常的な使用に適している」という要件もあります。ミッドに搭載されたエンジンの後方には、ロータスには珍しいほど広めの151Lのラゲッジに加え、シート後方にも208L、合わせて359Lの荷室スペースが用意されていたのです。カップルでの一泊ドライブにも十分対応できます。
佇まいは相変わらずアグレッシブで、ロータスらしさは失われていません。一方で日常の生活にも寄り添ってくれる実用性は、エミーラのある生活を、より上品で快適なものにしています。
ポルシェやフェラーリなどの大きなスポーツカーメーカーではないだけに、独自の歩むべき道を、じっくりと考え、色々なチャレンジをしてほしいと思います。
(前回記事「ロータス・エレトレ編」から読む)
【ロータス・エミーラV6ファーストエディション】
全長×全幅×全高=4,413×1,895×1,226mm
最小回転半径:未公表
最低地上高:125mm(前)/148mm(後ろ)
トランスミッション:6速MT
駆動方式:MR(ミッドシップ)
エンジン:V型66気筒DOHC + スーパーチャージャー
排気量:3,456cc
最高出力:298kW(405PS)/6,800rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgf/m)/2,700 -6,700rpm(MT車)
WLTCモード燃費:未公表
車両本体価格:1573万円(税込み)
【プロフィール】
佐藤篤司(さとう・あつし)/男性週刊誌、男性週刊誌、ライフスタイル誌、夕刊紙など一般誌を中心に、2輪から4輪まで“いかに乗り物のある生活を楽しむか”をテーマに、多くの情報を発信・提案を行う自動車ライター。著書「クルマ界歴史の証人」(講談社刊)。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。