2009年12月、スズキ アルトが5年ぶりにフルモデルチェンジされて7代目へと進化した。スズキの顔というべき基幹モデルはこの時、どのように変わったのか。ここでは千葉・浦安で行われた国内試乗会の模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2010年3月号より)
インテリアの雰囲気もいい感じで、商品力は大幅に向上した
まずオッと思ったのは、そのエクステリアデザインだ。一昨年に発表された世界戦略車「Aスター」を彷彿とさせる丸みを帯び親しみを感じさせる一方で媚びたところのないデザインは、老若男女問わず誰からも愛されそうであり、それでいて退屈ではなくしっかり主張がある。
同様にインテリアの雰囲気もいい感じだ。インストルメンツパネルには円のモチーフが多用されていて事務的なところはなく、それでいてヘンに甘くもなっていない。計器類の視認性、操作性のリーチ等々もよく練られている。
Aピラーを寝かせたのは主に外観のためということだが、フロントウインドウが遠くなった分、広々と感じられるのも利点と言える。それでいて、高められたヒップポイントのおかげもあって前方視界に問題はない。そもそもミニバンに慣れた今のユーザーの多くは、三角窓の存在も含めて、こうした運転環境にそれほど違和感は抱かないはずである。
正直なところ先代アルトは、とくにエクステリアの面でちょっと寂しいクルマだった。平面パネルの組み合わせにチープな塗装で「ここまでガマンしなければいけないの?」なんて気分にさせられたのだ。しかし新型は、その印象を払拭した。営業車として使われる機会も少なくないと思うが、これなら寂しい気持ちになることはないような気がする。
5年ぶりにフルモデルチェンジして登場した7代目スズキ アルト。世代を超えて愛されるクルマを目指して開発された。
乗り心地は悪くないが「止まる」という点に関しては不安が残る
試乗したのはXの2WD。さすが最上級グレードともなれば快適装備は充実していて、ドアミラーはウインカー内蔵だし、ドアロックはリモコンで解除できる。センスの良い千鳥格子柄のシートと同じ生地がドアトリムにも貼られ、バニティミラーは照明付きに。カテキンエアフィルター付きエアコン、UVカットガラスも備わる。エンジン始動は何とスイッチ式だ。
スペースも十分。とくに後席は、前席を身長177cmの自分に合わせた状態でも、ソフト素材のシートバックに膝頭が軽く触れるくらいでちゃんと座れる。Xには後席ヘッドレストが標準装備なのも効いている。
しかし、ダイハツに対する劣勢ムードを一気に逆転に持ち込んだ新プラットフォームの採用ということで期待した走りは、それほど強い印象を残さなかった。乗り心地は悪くはない。サスペンションの動きは渋くないし、大入力に対して腰砕けになることもないのだが、どこか芯がない。切った通りそれなりに曲がるが、こちらもステアリングフィールが甘く、あてずっぽうに舵を当てている感じだ。広いところで強めにブレーキを踏んだら、予想以上に早くABSが作動したあたりを見ても、どうやら低転がり抵抗のタイヤに一因がありそうだ。
軽自動車の使用環境では、「走る」、「曲がる」の性能はこれぐらいでいいのかもしれない。しかし「止まる」に関しては不安が残る。何しろX以外のほとんどのグレードではABSはオプションなのだ。こういうクルマこそなくてはならない装備のはずなのに。
フロントのシートベルトにはプリテンショナーも可変フォースリミッターも付く。前席エアバッグも標準で装備されている。しかし、まずはぶつからないクルマにすることが先決なはず。価格というのも大事だろうが、安全性はもっと大事だ。真の意味で日本のベーシックカーを目指すならば、環境、価格と同じくらい安全も重視してほしいというのが今後のアルトへの一番の望みである。(文:島下泰久/写真:村西一海)
アルトの最上級グレード、Xのインテリア。千鳥格子柄の生地がシートとドアトリムにも貼られ、カテキンエアフィルター付きエアコン、UVカットガラス、チルトステアリングも備わる。エンジン始動はスイッチ式。
スズキ アルトX 2WD 主要諸元
●全長×全幅×全高:3395×1475×1535mm
●ホイールベース:2400mm
●エンジン:直3DOHC
●排気量:658cc
●最高出力:40kW(54ps)/6500rpm
●最大トルク:63Nm(6.4kgm)/3500rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:FF
●車両価格:102万9000円(2010年当時)