いまから20年ほど前である2003年1月に、2シーターの超小型車として誕生したスズキの「ツイン」。販売当時は大いに話題に上がったものの、わずか3年弱(2005年12月)で販売終了となってしまった。
ツインがわずか3年弱で撤退せざるを得なかったのには、日本でツインのような超小型モビリティやシティコミューターが根付きにくいということが背景にあるように思う。当時としては実に画期的だったツインについて振り返りながら、日本で真のシティコミューターが根付かない理由について考えてみよう。
文:吉川賢一
市販軽自動車初となるハイブリッドシステム搭載の2シーター軽
ツインは、2シーター(運転席・助手席の2座席)の軽乗用車だ。2735mmという全長は国産の軽四輪車として最短で、2008年に登場したトヨタiQ(全長2985mm)よりも短く、スマートの初代フォーツー(1998年~2007年、全長2500mm)や、2代目フォーツー(2007~2014年、全長2690mm)よりも若干長かった。また、最小回転半径も3.6mと相当に小さかった。
タイヤはボディの四隅に配置されており、地面に踏ん張ったようなスタイリング。これは、デザインのカッコ良さのほか、横転を防止するという目的もあった。また、2名の乗員のほか最低限の荷物が積めるよう、パッケージングも考慮されていた。バックウインドウがハッチタイプだったのは、ボディ剛性確保のために開口部を極力少なくしたかったことのほか、軽量化やコストダウンという目的もあったそうだ。
驚くべきは、600ccのガソリン車に加えてハイブリッドモデルもあったことだ。市販軽四輪車初のハイブリッドシステム搭載車であり、エンジンとトランスミッションの間に薄型モーターを配置したシステムは、加速時にモーターでアシストするタイプだった。燃費は10・15モード燃費で34km/Lを達成。また、アイドリングストップシステムも採用していた。
2003年に登場したスズキツイン。ベースとなったのは、1999年開催の東京モーターショーにて初公開されたコンセプトモデルの「Pu3コミュータ」バックウインドウがハッチタイプだったのは、ボディ剛性確保のために開口部を極力少なくしたかったことのほか、軽量化やコストダウンという目的もあった
「いつかは使うから」を重要視する日本人の心には、2人乗りモビリティは刺さらなかった
ただ、欧州の都市部では、このツインのような超小型モビリティが活躍している。路上駐車が当たり前の欧州では、ちょっとした隙間にクルマをねじ込むために小さいサイズのクルマは便利、という考え方があるが、日本は路上駐車に厳しいために基本的にはちゃんと駐車場にクルマを止める。そのため、日本では小さいクルマがほしくても、一般的な4ドア軽の小ささで十分であり、ツインほど小さくする必要がない。
また、ツインは3速ATのガソリン車で84万円と、普通の4ドア軽に比べればたしかに安いが、あと少し出せば、ワゴンRやムーヴといった売れ筋の軽に手が届いてしまう。加えて、日本人特有の、(必要ないのに)後席を重視する心配性な面も大きく影響しているのではないだろうか。「たまに(後席を)使うから」 「いざというとき人が乗せられないと困るから」など、万が一の事態を心配して、無用に大きなクルマを手に入れる傾向が日本人にはあるように思う。ツインが受け入れられなかったのには、このような理由があるのだろう。
日本では小さいクルマがほしくても、一般的な4ドア軽の小ささで十分であり、ツインほど小さくする必要がないツインが受け入れられなかったことには、日本人は、使わなくても後席を欲しがる傾向があることも影響していると考えられる
登場が20年早かった!!
ただ、20年前といまとでは、この手のシティコミューターの期待値は変化している。たとえば、政府主導で検討が進められているスマートシティの構想の中では、ツインよりももっと小さなシティコミューターが描かれており、コンパクトで取りまわしがよく、環境面でも経済性でも優れるシティコミューターは今後、続々と登場してくるはずだ。
普及のカギは税制面でメリットがどれだけ受けられるかだと思う。入手、維持、売却のカーライフの中で、減税・免税されるようになれば、シティコミューターは一気に普及が進むはず。ツインは、登場が20年早かった。
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