オーディオテクニカ“専用”イヤーピース、「AT-ER500」の新感覚な音変化をどう使いこなす?
体温で柔らかくなって耳にフィットするイヤーピース、オーディオテクニカ「AT-ER500」が新登場!
と言われて素直に「すごい!」となった方はそのまま素直に読み進めていただければと思う。しかし慣れたイヤホンファンは「はいはい体温で柔らかくなる系イヤピね。素材はウレタンフォーム?熱可塑性エラストマー?どっちにしても目新しいものじゃないよね?」なんて感じかもしれない。
そんな方も、この「AT-ER500」はぜひチェックを!この新製品、既存のそれらとは異なる特徴や強みも備えた「新・体温で柔らかくなる系イヤピ」なのだ。
その源は、イヤーピースの素材には世界初採用となる三井化学製*「アブソートマー」。その特性により「体温に応じて耳穴の形に合わせて変形することでの快適な装着感」に加え「高い振動減衰性による音質改善効果」も得ていることが、このAT-ER500ならではの特徴となっている。
「アブソートマー」は「アブソーブ+エラストマー」からの造語とのこと。「三井化学が独自に進化させたエラストマー」といった理解でよいだろう。
熱可塑性と低反発性をもちろん備え、室温付近では硬いが耳の中の体温で柔らかくなる。その特性がオーディオテクニカ曰く「体温に応じて、耳穴の形状に合わせて変形。余計な反発力を削減し、圧迫感が少なく装着できる」という、快適な装着感を生み出しているわけだ。
加えて、粘性的な性質により振動や変形などの力学エネルギーを熱エネルギーに変換して吸収・分散するという、オーディオ的においしそうな特性を備える。こちらがオーディオテクニカ曰く「素材の特性により、不要な振動を抑制。余計な余韻を残さないため、輪郭がくっきりとした明瞭な高域、締まりのある低域を表現」という強みにつながる。
ほか、日本のポリオレフィン等衛生協議会の自主規制基準、アメリカの食品医薬品局FDAなどに適合とのこと。肌との相性などの点でも安心できそうだ。
*アブソートマー®は三井化学株式会社の登録商標です
ではこのアブソートマー材を採用したAT-ER500だが、形状は一般的なシリコン製イヤーピースと同じく軸と傘の形。しかし素材感はシリコン系とも既存の熱可塑性エラストマー系とも違う。
まず室温ではそれらよりも硬く、耳に入れるときと入れた直後にはその硬さが感じられる。その従来より硬めの感触が耳に入れてしばらくすると消えてなくなるのが新感覚だ。
質感も独特。これまでのエラストマー系イヤピはぺたっとした質感で耳の中に貼り付くように密着。一方アブソートマーは「マット系しっとり」みたいな質感。耳に入れるときも外すときも余計な摩擦がなく、しかし体温変形フィットのおかげもあって固定力不足は感じない。またAT-ER500の形状変化には持続性がある。耳穴にフィットするよう変形したあとは、耳から取り外したあともその形がある程度保持されるのだ。
アブソートマー素材を初採用したイヤーピースはさわり心地も独特
それらを合わせての耳へのなじみ方の感触は、従来のエラストマー系を「シリコンっぽいけどシリコンよりソフト」と表すなら、こちらは「フォームっぽいけどフォームよりハード」か。なるほど、これまでなかった絶妙な装着感。装着感の合う合わないは人それぞれだが、既存のシリコンにもフォームにもどれにもしっくり来ていない方は特に、新たな選択肢として試す価値があるだろう。
マニアックなイヤホンファンこそ使いこなしがいがあるはず
音質の変化は、同社完全ワイヤレスイヤホンからフラグシップ「ATH-TWX9」と重低音モデル「ATH-CKS50TW」にて、標準付属のシリコンイヤーピースとの比較にて検証。前者では付属の複数種類から軸の長さがAT-ER500に近いStandardをセレクトして比較した。
ちなみに装着互換性については「オーディオテクニカがこれまで販売した、すべての完全ワイヤレスイヤホンに取り付けることができます」とのこと。同社製モデルのノズルは段差付き形状ではあるが径や長さは標準的なので、他社イヤホンへの流用も期待は持てそうだ。
AT-ER500各サイズの寸法イメージ
ATH-TWX9との組み合わせで特に際立つ変化は高域側。音の感触をややソフトにしつつ、音像や定位の明瞭度は損ねないどころかむしろ高めてさえくれる。耳への当たりの強い成分や音のキレを鈍らせる余計な響きははよい感じに吸収され、しかし音の明瞭度に関わる成分まで吸収されることはない。そんなイメージだ。
その変化は星街すいせい「Stellar Stellar」のようなエレクトリックサウンドでは特にわかりやすかった。標準イヤーピースでのカチッとした表現もありだが、AT-ER500では音に柔らかさが与えられて曲全体の印象もしなやかに。その上で音の配置の明瞭度は高まり、空間表現がさらに冴える。もちろんアコースティックな楽曲でも好感触。鈴木大介のソロギター演奏「Over The Rainbow」では、ナイロン弦のしなやかさとホールの響きの柔らかさをより引き出してくれた。
またダミーヘッド収録ASMRとの相性も抜群。囁き声や吐息はより柔らかな耳当たりに、ダミーヘッドマイクならではの距離感や移動感はより明瞭に、という具合だ。
ATH-CKS50TWでは低音側の変化をより強く感じられた。超低域から低域まで豊かに含むRobert Glasper Experiment「Human」では、まずベースやバスドラムのボリューム感がグッとアップ。これは耳によりフィットして密閉度が上がったからだろう。
「ATH-CKS50TW」との組み合わせでは低音側の変化に特徴が
だが大切なのはここから。そのように低音を増量しつつ、その低音がボワンモワンと飽和することはなかったのだ。豊かで良質な量感表現! この変化は重低音ホンのファンにこそ響くはず!
おそらく、密閉度向上での量感アップとアブソートマーの振動減衰性の合わせ技でこうなるのだと思う。三井化学の資料によると、アブソートマーは低い周波数に対してほどより大きな損失率を発揮するとのことで、なるほどだ。
この、これまでにない音調変化には、マニアックなイヤホンファンこそ使いこなしがいを感じられるだろう。一方、これまたこれまでにない装着感はイヤピ交換初挑戦な方でもわかりやすく体感できるはず。あなたがどちらであれ、注目に値するイヤーピースだ。ぜひその耳で試してみてほしい。
(提供:オーディオテクニカ)