「IAAモビリティ 2023」では、クルマだけでなく、eバイクやeスクーター(日本でいうところの電動キックボード)の展示や試乗が屋外の会場で実施されています。昨年初めてロードバイクを購入した筆者ですが、eバイクについては数度しか乗ったことがなく、eスクーターに至っては全く経験がないので、今回両者に試乗してみました。旧市街を歩いて見て回った目線から二輪車の視線になると、ミュンヘンの中心部のモビリティー事情が少し違って見えました。(タイトル写真は、バイエルン国立歌劇場の前のマキシミアン通りの光景)
人生初のeスクーター試乗は3輪モデル
王宮レジデンツのすぐ北側の庭園に設けられた自転車とeバイクの展示スペースに試乗できるeスクーター「XBOARD」があったので、早速これに乗ってみました。一般的なのは2輪タイプですが、セグウェイのような3輪タイプの方が初心者には安全と考え、こちらを試してみることに。試乗コースは、東に隣接するエングリッシャーガルテン(イギリス庭園)への約200mの舗装されていない直線路で、これを何度か往復しました。
王宮の北庭園沿いにeバイクのメーカーがテントを構える。
まず戸惑ったのは発進の仕方で、右の親指でアクセルボタンを押す前に、自分の足で蹴り出してからでないとモーターの推進力は働かないという発見でした。蹴り出してプレートの上に両足を乗せ、加速度合いを調整するのも慣れが必要です。このモデルは3段階のパワー設定があり、真ん中の「ノーマル」で試しましたが、それでもかなりの加速性能で10km/hのジョギング程度のスピードはすぐに超える感じです。
進路変更は意外に難しい?
かといって、自転車やバイクのように内側に体を傾けようとすると、2つの前輪が踏ん張るのでアンダーステアのような状態になり、短時間でUターンのコツをマスターするのは難しかったです(結局、低速でゆっくり回るのが良いようです)。
XBOARDはミュンヘン発の新興eバイクメーカーの製品。30Nmのトルク、最高速20km/hの性能で街をクールにサーフィンする、がコンセプト。車重は18キロでコンパクトに折りたためる。
短時間の試乗でしたが、直立して視線の高さを保ったままで、風を感じて加速する爽快感を味わうことができました。このモデルは、前後輪にカーボン素材を使ったサスペンションが付いており乗り心地も快適な上、片足のワンタッチで折りたためるので場所もとらず、電車に持ち込むのも無料だそうです。来年4月に発売で予定価格は2,249ユーロ(約36万円)とのことでした。
eバイクで川の流れる広大なエングリッシャーガルテンを疾走
次に乗ったのが、アウディブースで貸し出しているe-tronマウンテンバイクです。電動アシスト付き自転車のありがたみは、昨年秋に瀬戸内海の大崎上島のファンライドに参加した時に体験していますが、その時はモーター付きママチャリ風の簡易タイプでした。
36ボルト、720Whのリチウムイオンバッテリーを搭載するアウディのe-tronマウンテンバイク。最高速は25km/h。
インストラクターを入れてグループ5人で、ミュンヘン市民の憩いの場であるエングリッシャーガルテン内を30分程度で回りました。重宝するのがサドル高の調節機能で、左手の親指でレバーを押せば、ペダリング中でもサドルの高さを自在に変えられることです。足が十分に届く低い位置で腰掛け、漕ぎ出せばすぐにボタンを押して好きな高さに上げられるので、常に快適な姿勢でペダリングすることができます。タイヤのクッション性はとてもよく、庭園内の未舗装路も快適な乗り心地でした。値段は8900ユーロと安くありませんが、ちょっと欲しくなる一台です。
エングリッシャーガルテンは18世紀末に築園された。面積はニューヨークのセントラルパークより大きい。
クルマとスモールモビリティが道路を共有する旧市街の魅力
子供を前輪のクレードルに乗せたママチャリやeスクーターが道路の真ん中を走り、車はその後ろをゆっくりと追走する様子を見ると、歩行者とマイクロモビリティの優先させているのがわかります。特に自動車の通行規制*がされているわけではありませんが、マリエン広場を中心に直径1キロ以内の旧市街には車が通れる道はあまりありません。
※ミュンヘン市では、中央環状道路(Mittierer ring)の内側は低排出ガス車(ディーゼルはユーロ5以上)のみ走行が許可され(low emission zone)、積載重量3.5トン以上の貨物車はこの環状道路より内側は通過禁止となっている(Transit ban)。
eスクーターのレンタルスポットは市内各所にある。アプリをダウンロードして決済方法を登録すれば簡単に利用できる。免許は不要で未成年は14歳から運転可能。
日本の都心の道路はクルマ中心の運用で、自転車で車道を走るのはかなり勇気が入りますし、eスクーターがこれから普及するとしても、どこをどう走るのかまだイメージしにくい状況です。時速6キロ以下なら一部の歩道を走れることになりましたが、歩道では自転車が歩行者にとって一番脅威と言われるように、より小回りが効き加速力もあるeスクーターを6キロ以下で安全に歩道を走らせるのは、実際はかなり難しいのではないでしょうか。
パリはオリンピックの開催される2024年に、セーヌ川沿いの中心部の1〜3区やその対岸のサン・ジェルマン通りの内側のクルマの通行を禁止する方針です。筆者は都市モビリティの専門家ではありませんが、東京でも都心部の道路の運用の仕方を少し変えて、渋谷や表参道、銀座などの路上でマイクロモビリティが安全に走れるようになれば、都市の景色や人の動きも変わって、魅力も高まるのではないかと思った次第です。(了)
●著者プロフィール
丸田 靖生(まるた やすお)1960年山口県生まれ。京都大学卒業後、東洋工業(現マツダ)入社。海外広報課、北米マツダ(デトロイト事務所)駐在をへて、1996年に日本ゼネラルモーターズに転じ、サターンやオペルの広報・マーケティングに携わる。2004年から2021年まで、フォルクスワーゲングループジャパン、アウディジャパンの広報責任者を歴任。現在、広報・コミュニケーションコンサルタントとして活動中。著書に「広報の極意−混迷の時代にこそ広報が活躍できる」(2022年 ヴイツーソリューション)がある。
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