アソモビ2023 in Makuhariに展示されていたティフィン社製の大型キャンピングカー「アレグロブリーズ33BR」の2023年モデル(筆者撮影)
大型モデルが多いアメリカ製キャンピングカーのなかでも、圧倒的な広さや快適さを備えるのが「クラスA」と呼ばれるタイプだ。とくに全長が10mを超え、大型バスのような外観を持つ高級モデルは、室内もかなり豪華。レザー張りのソファーを備えるリビングには、大型のテレビや冷蔵庫、エアコンなどを完備。バスルームやキングサイズベッドなども常設されていて、その雰囲気はまるで高級ホテルのスイートルームさながらだ。
【写真で見る】オプション込みで約7000万円、巨大キャンピングカーに潜入。まるでホテルのスイートルームのような室内は必見!
日本で買えるクラスAのティフィン社製キャンピングカー
後ろから見たアレグロブリーズ33BRの2023年モデル(筆者撮影)
日本ではほぼ目にしないクラスAだが、一部のファンからは圧倒的な支持を受けていて、数こそ少ないが輸入販売されている。そんなモデルのひとつが、熊本県の専門業者「ワッツ(WOT’S)」が扱うティフィン(TIFFIN)社製「アレグロブリーズ33BR」だ。
同モデルは、毎年アップデートを受けたイヤーモデルが発売されるのだが、年間で国内に入るのはわずか3台で、1台あたりの価格はなんと約6000万円。しかも、さまざまなオプションを追加すると、7000万円近くになるというのだが、それでもユーザーが争奪戦を繰り広げるほど人気で、あっという間に完売になってしまうという。
装備はもちろん、その高価さからもまさに「動く豪邸」といえるのが同モデル。その最新型2023年モデルがアウトドア系イベント「アソモビ2023 in Makuhari」(2023年8月5~6日・幕張メッセ)に展示されたので取材してみた。
展示車のプライスボードに書かれた金額は「5450万円+TAX」、税込みなら5995万円というアレグロブリーズ33BRの2023年モデル。しかも、この金額は、さまざまなオプションを追加すると、さらに高価になるという。製造しているのは、アメリカ・アラバマ州を拠点とするティフィン社。2022年に創業50周年を迎えた老舗メーカーで、現地で「モーターホーム(動く家といった意味)」とも呼ばれる高級キャンピングカーを数多く手がけてきた実績を誇る。
車体サイズは全長10.4m×全幅2.49m×全高3.58m。日本の公道を走行できる車両は、道路法により全長12mまで、全幅2.5mまでなどの規定があるため、ナンバーを取得できるギリギリの大きさだ。見た目はまるで大型の観光バスだが、ベースはバスではなく、専用ベースシャーシの上にキャビン(ボディ)全体を架装したもの。こうしたモデルをアメリカでは、前述のとおり、クラスAと呼ぶ。日本では「フルコン(フルコンバージョン)」と呼ばれるタイプに近い。
展示車両の装備一覧(筆者撮影)
搭載するパワートレインは、商用車用エンジンなどを製造する北米企業カミンズ社製の6.7L・ディーゼルエンジン。最高出力は275馬力を発揮し、6速ATのトランスミッションをマッチングすることで、巨大な車体でもストレスなく走行することが可能だ。また、燃料タンクは270Lもの大容量を確保し、長距離のクルマ旅にも対応する航続距離を実現する。
さらに高速道路などで、車間を自動で保持しながら前車を追従する「レーダークルーズコントロール」も搭載。日本では「ACC(アダプティブ・クルーズコントロール)」と呼ばれる機能だ。ほかにも自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)など、さまざまな安全運転支援システムを採用し、ロングドライブ時の疲労軽減や、高い安全性に寄与する。
アレグロブリーズ33BRの運転席まわり(筆者撮影)
なお、2023年モデルでは、ボディカラーやグラフィックが変更されたほか、50周年を記念するエンブレムも装備。運転席と助手席のシートには、メッシュタイプが採用されるなどのアップデートを受けている。乗車定員は7名、就寝人数は6名だ。
ラグジュアリーな室内空間
一方のキャビン部。車体右側の前方にあるドアからエントランスに入ると、高い天井やLED照明などを装備したラグジュアリーなリビングが目に入る。中央部の左側にはテーブルと対面式ソファーを備えるダイニング、奧にはシンク2つと3つのコンロなどを備えるキッチンを配置。中央の通路を挟んで右側には、大人4名が橫にゆったりと座れるソファー、奧には2段式の大型冷蔵庫などを装備するほか、暖炉風ヒーターやワイドモニターのテレビまである。なお、テレビは、ほかにも運転席の上部や寝室など、40インチや32インチの大型タイプを計4台装備している。
車体広報には、キングサイズのベッドを備えた寝室がレイアウトされている(筆者撮影)
さらにリビング右側奧にはトイレや温水シャワーなどがあるバスルーム、最後部にはキングサイズのベッドやキャビネットなどもある寝室も備える。加えて、このモデルは、駐車中に左右の車体側面を外側へせり出すことができる「スライドアウト」機構も装備。リビングや寝室をより広くすることが可能なことで、豪華で余裕ある室内空間を演出している。
なお、2023年モデルでは、室内各所にあるキャビネットなどの家具類を、2022年モデルまでの立体的な造形から、1枚板のようなシンプルなデザインに変更。キャビネットの取っ手、キッチンやバスルームにある蛇口などは、メッキ仕様からブラックカラーに変えることで、さらなる高級感も醸し出している。また、照明などのスイッチ類はタッチパネル式を採用することで、より直感的な操作を可能とし、利便性の向上も図っている。
2023年モデルのユーザー層
50周年を記念するエンブレム(筆者撮影)
以前、筆者は2022年モデルのアレグロブリーズ33BRも取材したことがあるが、2023年モデルも、その豪華さは健在だ。とくに室内の装備は、あまり大きな変更点こそないものの、前述のとおり、家具類のデザインがシンプルになったことで、より「現代風のテイスト」を感じ好印象だ。とはいえ、税込み価格は、前述のとおり、5995万円。なかなか筆者のような庶民に手が出せる金額ではない。しかも、かなり高価だと感じた2022年モデルの5940万円よりもさらに高い。
それでもワッツの担当者によれば、2023年モデルは、「3台輸入したうち2台はすぐに売れてしまった」という。購入者は、2022年モデルを購入できなかったことで、2023年モデルが国内に入るのを「待ちに待っていた」ユーザーたちだ。
これも、先述のように、ティフィン社では、毎年モデルをアップデートし、イヤーモデルとして販売するが、ユーザーの多くは、そうした最新装備を持つ「新型車」を欲しがるのだという。しかも、ワッツでは、例年、3台のみしか新型車を輸入しない。つまり、このモデルは、1年に3人のユーザーしか買うことができない、超レア中のレアなキャンピングカーなのだ。
本格的な料理も楽しめる大型のキッチンスペース(筆者撮影)
ちなみに、中古車を選ぶユーザーはいないのか聞いてみた。答えは「あまりいない」だった。理由は、まず、流通量の少なさだ。一度購入すると手放すユーザーはほとんどおらず、日本市場でのタマ数は極少。この傾向は本国アメリカも同様だそうで、中古車はほとんど出てこないのだそうだ。
また、もし運良くアメリカで中古モデルを発見したとしても、広大な北米大陸を旅するキャンピングカーだけに、かなり距離を走っている過走行車も多く、状態がよくない車両が多い。そんな中古車を輸入しても、販売後にクレームなどが続出する危険性もあるのだという。
だが、そういったタマ数の問題より大きな要因は、やはり前述のユーザー側が「新型車」にこだわることなのだという。せっかく憬れのクラスAを買うのであれば、最新の装備や機能を持つモデルを欲しいと思うユーザーが大半。だが、年間3台しか輸入しないことで、ユーザー間で争奪戦になることもあるのだとか。なお、今回展示した残る1台の2023年モデルも、すでに多くの問い合わせがあるとのこと。おそらく、売れてしまうのは時間の問題なのだろう。
7000万円となるオプションとは?
しかも、驚いたことに2023年モデルの購入者のなかには、オプションなどの追加で、合計7000万円に近い価格となったユーザーもいたようだ。ワッツの担当者によれば、主に「家庭用エアコンに関する装備」が大きかったという。最近、日本の夏は危険ともいえる猛暑だけに、キャンピングカーにもエアコンの装備を求めるユーザーは増えているという話はよく聞く。
家庭用エアコンと一緒に追加されたサードバッテリー(筆者撮影)
だが、そもそもアレグロブリーズ33BRには、標準でルーフエアコンが装備されている。それに、さらに家庭用エアコンも付ければ完璧だろうが、それだけでプラス1000万円に近い価格アップになることはありえない。では、なぜか? それは、エンジンを始動させなくても、家庭用エアコンを「2日間使いっぱなし」にできる電源として、「サードバッテリー」を搭載したことなのだという。
通常、キャンピングカーでは、車中泊時などにエンジンを始動させなくても家電製品が使えるように、サブバッテリーを搭載する。夜中にエンジンをかけっぱなしにすると、騒音だけでなく、排出ガスも出て環境に悪いからだ。もちろん、アレグロブリーズ33BRもサブバッテリーを搭載しているが、電気を使う装備はエアコンだけでない。LED照明や冷蔵庫、電子レンジなど、豪華な仕様なだけに、電気を使う機器もかなり多く搭載している。そのため、家庭用エアコンまで使うと、サブバッテリーだけでは電力が足りない。そこで、さらに400Ahタイプの大容量バッテリー3個を追加。その電力を主に家庭用エアコン用として確保したのだという。
なお、そのオーナーは、ほかにもバッテリーへ充電できるソーラーパネルも追加。停車時の暖房設備であるFFヒーターも、標準のLPガスで動くタイプから、軽油を使うタイプに変更したり、Wi-Fiを入れてクルマをオフィス化したりといったカスタマイズも行ったという。そして、車両代とそれらオプションの合計が7000万円弱になったというから、なんとも豪気なものだ。
金額ではなく、憧れが購入の動機
正面から見たアレグロブリーズ33BR(筆者撮影)
日本ではかなり稀少、そして高価。だが、キャンピングカー愛好家のなかには、「いつか所有してみたい」といった憧れを持つ人も一定数いるアメリカ製キャンピングカーの世界。しかも、アレグロブリーズ33BRのように全長が10mを超えるモデルなどは、日本の道路では、大きすぎて運転も難しく、買い物など普段使いができる実用性はほぼない。それでも購入できるなら「いくらかけてもかまわない」というユーザーもいることを考えると、それだけ好きなユーザーには大きな魅力があるのだろう。
ちなみに今回話を聞いたワッツによれば、こうしたモデルの購入者には、自分で運転する自信がないなどで、「専従ドライバーを募集する」人もいるのだとか。そうしたオーナーにとって、このモデルは、まさに「動く豪邸」、もしくは「究極のショーファーカー(VIPなどが後部座席に座る高級車)」なのだろう。