9月29日、ミシガン州にあるGMの工場近くでストライキをするUAWの組合員たち(写真:AP/アフロ)
アメリカの自動車産業で労使の対立が激化している。
UAW側は4年間で30%以上の賃上げに加えて、新たに雇用された労働者の賃金を低い水準に設定する給与体系の廃止やインフレ率と賃金を連動させる生計費調整(COLA)の復活、EVシフトが進む中での雇用確保などを要求している。
ビッグ3の経営側が一部を除いて要求を拒否する中、9月29日にはGMとフォードそれぞれ1工場で追加のストに踏み切ったことで、計5工場2万5000人にまで対象が広がっている。これはUAW組合員の2割弱に達する規模だ。
インフレ進行とEVシフトに危機感
ここまで労使の対立が深まっている背景にあるのが急激な環境の変化だ。
対して、経営側も厳しい状況に置かれている。EVは従来のガソリン車に比べ、希少資源を多く使う電池を搭載することなどから生産コストが高く、自動車メーカーにとって採算確保が難しい。実際、フォードは独立採算としているEV事業で2023年12月期に4000億円近くの赤字を計上する見通しを示している。
コスト増に直結する賃上げや余剰人員を抱えることになる雇用確保の要求を簡単にのむわけにはいかないのだ。
インフレやEVシフトは変わらないものの、太平洋を挟んだ日本ではまったく異なる景色が広がっている。
9月末に開かれたトヨタ自動車労働組合の定期大会で、新たに就任した鬼頭圭介執行委員長はそう強調した。約6万8000人が所属するトヨタ労組にとっては6年ぶりのトップ交代となる。今期は処遇改善や職場課題の解決といった労働条件の維持改善に加えて、組織内コミュニケーションの基盤強化などに取り組む方針を示した。会社に対して敵対的な発言はなく、落ち着いた雰囲気で大会は終了した。
労使関係が良好なのはトヨタに限った話ではない。2023年の春闘では、トヨタ、ホンダ、日産自動車といった自動車メーカーの経営は、労組が要求した賃上げと一時金ともに満額で回答した。トヨタとホンダでは2月中に回答する異例の早さだった。”労使一体”はもともと日本メーカーの特徴ではあるがより鮮明になっている。
組合員に無関心が広がっている
日本の労働組合は、原則として国内従業員が対象。アメリカにおいては、現地法人の従業員はUAWに加盟しておらず、今回のストによる直接的な影響は今のところ出ていない。
トヨタ労組幹部も「今のところ目立った影響は聞いていない」と話す。「ビッグ3よりも従業員の待遇は上回っている」との声もトヨタ内部ではあり、日系メーカー側にその余波が大きく波及するとは見ていないようだ。
だからといって悩みがないわけではない。トヨタ労組によるアンケートによると、組合活動について関心があるかという問いに対し「いいえ」「どちらとも言えない」と回答した比率、組合活動が職場での課題解決につながっているかという問いに「いいえ」「どちらとも言えない」と回答した比率は約6割に達する。
トヨタ労組側はこうした状況を踏まえて、「先行きが不透明なこの時代に、変化に追従するだけでなく組織としてありたい未来を描き、方向性を示す必要がある」と指摘する。今期は、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)と呼ぶ中期方針を策定した。
ホンダが早期退職制度で数千人の人員削減をするなど、経営環境の変化に伴い、日本の自動車業界でも人材の新陳代謝が活発化している。変革期に組合としての存在価値をどう示していくのか。アメリカでの出来事は決して対岸の火事ではなく、日本の自動車業界全体で今後問われそうだ。