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「自動運転先進国」アメリカに広がる悲観論…GM傘下の「完全自動運転タクシー」が人身事故などを経て運航停止に

「百年に一度の大変革」に暗雲

この10年ほど、EVと並んで自動車産業に「百年に一度の大変革」をもたらすと言われてきた「自動運転」技術。その前途に暗雲が立ち込めている。

交通量の多い大都市サンフランシスコで、世界に先駆けて完全自動運転タクシーの有料サービスを提供してきたGM(ゼネラル・モーターズ)傘下のクルーズ(Cruise)。同社は今年10月2日に発生した自らの自動運転タクシーが関与した人身事故を受けて、カリフォルニア州の規制当局から同サービスの停止を命じられた。

「自動運転先進国」アメリカに広がる悲観論…gm傘下の「完全自動運転タクシー」が人身事故などを経て運航停止に

Gettyimages

この命令に従って、クルーズは10月24日にサンフランシスコ市内での自動運転タクシーの運航を停止し、その2日後の26日にはテキサス州のオースティンやダラス、フロリダ州のマイアミなど他地域での運航も全て停止した。現時点でサービス再開の目途は立っていない。

クルーズはアルファベット(グーグルの親会社)傘下のウェイモ(Waymo)と並んで、黎明期にある世界の自動運転ビジネスをリードしてきた。その同社の自動運転タクシーがサービス開始から僅か3ヵ月足らずで運航停止に追い込まれたことで、同社のみならず業界全体に悲観的な雰囲気が広がっている。

ただ、クルーズとほぼ同時期にサンフランシスコ市内での完全自動運転タクシーの有料サービスを開始したウェイモは、これまでのところ重大な事故やトラブルを起こしておらず、現在も通常の運行を続けている。

消防士が自動運転車のお守り?

サンフランシスコの完全自動運転タクシーは、当初から消防をはじめ各方面で懸念の声が寄せられていた。

それ以前の自動運転タクシーは緊急事態に備えて、運転席に予備ドライバー(人間)が待機していた。何らかの事故やトラブルが起きそうなときには、このドライバーが自動運転、つまり一種の車載AIから運転を引き継いで危機を回避してきたのである。

これに対し、今年の夏にクルーズやウェイモが提供しようとしたのは予備ドライバーがいない完全自動運転のタクシーだ。その分、商用化(実用化)へのハードルが高くなることは改めて断るまでもない。

「自動運転先進国」アメリカに広がる悲観論…gm傘下の「完全自動運転タクシー」が人身事故などを経て運航停止に

カリフォルニア州の規制当局がその可否を検討するに際して、今年の8月7日に公聴会が開かれた。この場で同市の消防関係者や市役所職員らが、自動運転車の安全性に対する懸念を表明した。

それによれば今年1月からの7ヵ月間に、サンフランシスコ消防局の消防車が(市街地を試験走行中などの)自動運転車によって進路を妨害されるなどのトラブルが55件発生したという。

今年1月には、何らかの理由で制御不能になったクルーズの自動運転車が消火作業中の消防車の近くまでフラフラと迷い込んでしまった。なかなか止まらないので、消防員が自動運転タクシーのボンネットや窓ガラスを叩いて衝撃を与えるなどして、何とか停車させたケースもある。

また今年7月には、ウェイモの自動運転車が消防車の進路を妨害した事もあったという。

公聴会の証言台に立った消防局長は「自動運転車のお守りをするのは我々の職務ではない」と皮肉交じりに述べ、現時点で完全自動運転のタクシーを実用化するのは時期尚早であると訴えた。

同じく公聴会で証言した市役所職員によれば、自動運転車が理由もなく突如停車したり、右左折やUターンなどの交通違反をしたりするケースがこれまでに600件以上報告されているという。

このように公聴会で警鐘が鳴らされたにもかかわらず、カリフォルニア州の規制当局はその3日後となる8月10日、サンフランシスコ市内での自動運転タクシーのサービスを大幅に拡充する許可を出した。これによりクルーズとウェイモは、(面積にして)同市全体の三分の一に当たる地域で完全自動運転タクシーによる有料サービスを提供できるようになった。

「自動運転先進国」アメリカに広がる悲観論…gm傘下の「完全自動運転タクシー」が人身事故などを経て運航停止に

それまでクルーズは(交通量の少ない)夜間に300台、昼間の時間帯に100台、またウェイモは24時間を通じて250台の完全自動運転タクシーを運行していたが、いずれも無料で提供される試験的なサービスだった。しかし規制当局の許可を受けたことで、この日を境に両社とも24時間を通じた有料サービス、つまり(未だ小規模ではあるが)お金を稼ぐ事業化へと乗り出すことができたのだ。

いずれも(米国の)ウーバーのようなスマホ・アプリを利用した配車サービスとして提供され、料金もウーバーなどと同程度だ。走行距離にもよるが、平均で1回の乗車賃が20ドル(3000円)前後と見られる。

完全自動運転タクシーではドライバーがいないのだから料金は格安になりそうなものだが、実際にはオペレーション・センターにいるスタッフ(人間)がクルマの走行状態を常時監視し、何かトラブルが起きたときは遠隔操作などで対処しなければならない。このための人件費がかかる上、これまで投じた巨額の研究開発費を回収する必要などから(少なくとも当初は)通常の配車サービスと同じ位の料金になってしまう。

交通妨害や人身事故などを経て運航停止へ

ところが晴れて有料サービスに転じてからも、完全自動運転タクシーによるトラブルが相次いで発生した。

規制当局がサンフランシスコ市内における無人タクシーのサービス拡充を許可したのが8月10日の木曜日。翌日の金曜日には、同市ノース・ビーチ近辺の路上でクルーズの完全自動運転タクシー10台以上が停車したまま動かなくなり、周辺の交通を約15分間にわたって麻痺させた。

「自動運転先進国」アメリカに広がる悲観論…gm傘下の「完全自動運転タクシー」が人身事故などを経て運航停止に

従来、こうした状況ではクルーズのオペレーション・センターに常駐するスタッフが無線通信でタクシーを遠隔操作して素早く事態を打開してきたが、今回はたまたまサンフランシスコで開催中の大規模な音楽祭の影響でモバイル通信が逼迫したため、停車したタクシーを即座に遠隔操作することができなかったという。

その翌週の15日には同じくクルーズの完全自動運転タクシーが、道路工事中で乾き切らない舗装コンクリートの上に停車したまま動かなくなった。同社広報によれば、このタクシーは間もなく現場から回収されたというが、無線通信による遠隔操作でコンクリートから抜け出すことができたのか、あるいは同社スタッフが現場に行って回収したのかは明らかにされていない。

さらに同じ週の17日には、やはりクルーズの完全自動運転タクシーが消防車と衝突し、同タクシーの乗客1人が軽傷を負った。

これら度重なるトラブルや事故を受け、カリフォルニア州運輸局はクルーズがサンフランシスコ市内で運営する完全自動運転タクシーの台数をそれまでの400台から200台へと半減することを命じた。

同社はこの命令に即座に応じた。この結果、クルーズが同市内で運営する完全自動運転タクシーは夜間に150台、日中に50台となった。

「自動運転先進国」アメリカに広がる悲観論…gm傘下の「完全自動運転タクシー」が人身事故などを経て運航停止に

しかし運航台数を減らしてからもトラブルは続いた。特に10月2日には深刻な人身事故を引き起こしてしまった。

ここではクルーズから見て若干の不運も重なっている。最初、別のクルマにはねられた歩行者がその勢いで路上に投げ出され、その身体を折悪しく通りかかったクルーズの完全自動運転タクシーが再度ひいてしまった。この被害者の身体を自動運転タクシーは6メートルほど引きずって移動した後、路肩に停車した。被害者は重傷を負った。

事故捜査に当たった警察に、クルーズは完全自動タクシーの車載カメラで撮影されたビデオを提供した。ところが当初提供されたビデオには、このタクシーが被害者を約6メートルひきずって移動する様子を撮影した映像が抜け落ちていた。どのような意図があったのかは分からないが、一種の隠蔽工作と見られても仕方がない。

これが警察ばかりか規制当局の心証を決定的に悪くした。カリフォルニア州のD.M.V.(Department of Motor Vehicles:陸運局)はクルーズに完全自動運転タクシーのサービス停止を命じ、これに従って同社は10月24日にサンフランシスコ市内での運行を停止した。

さらに「他州のサービスも危ないのではないか」という批判を受けて、2日後の26日にはテキサス州など他の地域における自動運転サービスも全て停止した。

自動運転への強い逆風とは

一連の経緯を経てクルーズとその親会社のGMには「自動運転の実用化を急ぐ余り、安全性への配慮が足りなかったのではないか」という批判が浴びせられている。

恐らくは、この分野の先頭を走るウェイモ(グーグル)の背中を追いかけるようにクルーズは巨額の資金を投じて自動運転の開発と商用化を進めてきた。2022年、同社がこれに投じた予算は優に23億ドル(3000億円以上)余りに達すると見られている。前年比で42パーセント増だ。

「自動運転先進国」アメリカに広がる悲観論…gm傘下の「完全自動運転タクシー」が人身事故などを経て運航停止に

しかし巨額の予算を投じた割には実用化に向けた技術開発は捗っていない。(前述のように)完全自動タクシーなどの自動運転車はクルーズのオペレーション・センターにいるスタッフ(人間)がクルマの走行状態を常時監視し、何かトラブルが起きたときは遠隔操作などで対処している。

これらの自動運転車は平均4~8キロメートル走行するごとに1回の割合で何らかのトラブルに見舞われ、オペレーターの介入を必要としている。これに要する人件費や設備費などのコストを考えれば、とても独り立ちして利益を出せるようなレベルとは言えない。

クルーズとは対照的にウェイモの完全自動運転タクシーはこれまでのところ人身事故など重大なトラブルを起こしていない。有料サービスも当初と同様に継続されている。一口に自動運転と言っても、どの会社も同じレベルにあるわけではないのだ。

恐らくウェイモ、つまりグーグルの自動運転技術は業界でも突出したレベルにあると見ていいだろう。それでも市街地を走行中に突如停止したまま動かなくなり、周囲の車に迷惑をかけるなど完全無欠というレベルには程遠い。

また、同社をはじめ自動運転の提供業者は今回のクルーズの一件を経て、自動運転全体に強い逆風が吹くことを懸念している。そもそも人身事故などの有無によらず、以前から活動家らによる自動運転車への反対運動は活発化していた。

これら活動家の一部は、サンフランシスコの市街地を走る自動運転車が信号待ち等で停車したときに、そのボンネットに(道路工事などの標識に使われる)コーンを置くことで妨害活動を展開している。自動運転車はボンネットにコーンを置かれると、(何らかの技術的な理由で)停車したまま動かなくなってしまうのだ。

こうした反対運動は、19世紀の産業革命期に労働者らが織機など生産設備を破壊して抗議した「ラッダイト運動」の現代版と見なされている。もちろんボンネットにコーンを置く程度なら、工場の生産設備を破壊するほど過激な行為ではないが、それでも自動運転に代表されるAIとそれによる雇用破壊などへの怒りと抗議の象徴となっている。

一方、前述の人身事故などを受けて自動運転タクシーの運行を全面停止したクルーズはサービス再開の目途が立っておらず、今後は人員削減を迫られるのではないか、との見方もある。もちろんウェイモ(グーグル)という唯一の例外はあるにせよ、世界のトップを走る米国の自動運転全体がかなり深刻な状況に追い込まれていると言えそうだ。

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