「サクラ」「デイズ」で比較
電気自動車(EV)の価格はなぜ高いのか。これは、クルマそのものにさほど興味がない人でも、EVの価格を聞けば当然抱く感想だろう。
【画像】「えっ…!」これが電気自動車の「世界販売台数」です(計10枚)
どのくらい高いのか。まず、簡単に比較してみたい。ここで、メーカーが同じである、車型が似ている、唯一の違いは動力と関連メカニズムであるという例がわかりやすい。そこで、ここでは日産の軽自動車のなかから、
・サクラ(EV)
・デイズ(内燃機関車)
を比較してみよう。
比較するグレードは、サクラが「X」、デイズが「ハイウェイスターX」。両車の装備はまったく同じではないが、比較的共通する項目が多いので選んだ。
サクラXのメーカー希望小売価格が254万8700円。対するデイズ ハイウェイスターXのメーカー希望小売価格は169万8400円。両者の差額は85万300円で約1.5倍。この差をどう評価するかは個人の価値観によって大きく異なる。
一般にクルマを構成するさまざまな機器のなかで、パーツとして、あるいはアッセンブリー品として、その単体価格が比較的高価なものといったら何が想像できるだろうか。内燃機関車の場合、
・エンジン
・デファレンシャルギア
などが挙げられる。
一方、EVの場合、内燃機関車の動力源に代わるものとして、
・モーター
・バッテリー
・インバーター
が挙げられる。実際、内燃機関車とEVの価格差は、これらの機器類の価格差にあるといってよい。
リチウムイオンバッテリーの希少性
EV充電のイメージ(画像:写真AC)
では、なぜEVに使われる動力機器は高価なのだろうか。まず、バッテリーの存在が大きい。現在、EVに使われているバッテリーは、過去にはニッケル水素バッテリーの例もあるが、ほとんどがリチウムイオンバッテリーである。
ニッケル、マンガン、コバルトのなかで、コバルトは最も希少で高価であり、市場での価格変動も大きい。現在、コバルトの埋蔵量は約700万tと推定されており、需要増のなかでメーカーが最も供給動向を懸念している素材である。一方、ニッケルの埋蔵量は約9500万t(コバルトの約14倍)と推定されている。マンガンは約15億t(コバルトの約214倍)と桁違いに多い。
一方、内燃機関車におけるバッテリーに相当するのは、燃料タンクとそこに貯蔵されるガソリンや軽油である。タンクは鉄や樹脂でできている。ガソリンも軽油も原油から精製される。その価格は、リチウムイオンバッテリーよりもはるかに安い。まずいえるのは、この部分で価格差が大きいということだ。
EV以外の機器で、リチウムイオンバッテリーの価格が高いことは多くの人が知っている。例えば、
デジタルカメラのバッテリー
スマートフォンのバッテリー
ノートパソコンやタブレット端末のバッテリー
である。日常生活でこれらの単体価格をあまり気にしなかった人ほど、必要に迫られて買い替えたときに、その価格に驚くことになる。
価格の複雑な真相
自動車のエンジン(画像:写真AC)
リチウムイオンバッテリーの価格は実際いくらなのか。これは多くの人が抱く素朴な疑問かもしれない。製造時の調達価格と補修交換品の価格差、バッテリー自体の容量やメーカーの違いもあり、一概にはいえないが、少なくとも補修交換品で
が目安となる。自動車メーカーは、バッテリーの性能を維持しながら調達価格を下げるために日々奮闘している。
次に、内燃機関車のエンジンとEVのモーターを比較してみよう。製造時の価格と補修交換品としての価格には大きな差がある。製造時と調達時の価格を部外者が知る術はないので、補修交換品の価格を調べてみた。
その結果、主要軽自動車のリビルトエンジン(中古エンジンをフルオーバーホールして新品同様にしたもの)は、おおむね
「20万円前後」
だった。この数字は、自動車メーカーから購入するものよりも2割程度安いという定説があるため、おのずとメーカー品の価格が推定できる。
一方、EVのモーター価格では、リビルトエンジンのような補修品の価格が見つけられなかった。そのため、電動改造キットとして市販されているものから推測した。その価格は一般的に
「1500~5000ドル」
である。この価格差は性能差によるものだ。おそらく、自動車メーカーが国内で調達しているアイシンや明電舎などのモーターユニットは、このレベルより安くはないだろう。
技術革新の兆し
異なる価格差のイメージ(画像:写真AC)
EVのバッテリーとモーターは、内燃機関車のエンジンと燃料供給装置よりも高価であるという事実。これだけで、現状ではEVの方が割高にならざるを得ない。これが結論である。
しかし、工業製品は大量生産すればするほど価格は下がる。今後、EVが普及し、生産台数が大幅に拡大すれば、量産効果でEVの価格下落が期待できる。
その際にネックとなるのが、前述したバッテリー素材となるレアメタルの価格変動だが、いずれは技術革新によって解決されるだろう。そうした時代がいずれ訪れることを期待したい。