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テスラ「サイバートラック」と「株価」と最強の省エネ低公害車「軽」の行く末【短期集中連載:第三回 クルマ界はどこへ向かうのか】

 今回編集部からのお題は、旬の「テスラ・サイバートラックについて書いてくれ」というのと、「テスラの株価について書いてくれ」という話。これは話の枕で、本題は軽自動車とカーボンニュートラルの話になる。

文/池田直渡、写真/AdobeStock(@Tada Images)テスラ、フォード、ベストカー編集部

■池田直渡の「脱炭素の闇と光」シリーズ

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■テスラが4年ぶりの新車を発売開始

 さて、長らく伸び伸びになっていたサイバートラックの発売で、これを書いている2023年12月の今、テスラ界隈はお祭り騒ぎの最中なわけだが、これがビジネス的に成功するかどうかはテスラの今後を占う大きな分岐点になるだろう。

 まず、このサイバートラックの前にテスラがリリースしたクルマは2020年のモデルYである。その前のモデル3は米国で2016年に、日本では2019年に予約開始された。ということでサイバートラックはテスラとしては4年ぶりのブランニューモデルということになる。

テスラ「サイバートラック」と「株価」と最強の省エネ低公害車「軽」の行く末【短期集中連載:第三回 クルマ界はどこへ向かうのか】

2023年12月に発売を開始したテスラ・サイバートラック。米国で順次納車が開始されているとのこと。価格はRWDのエントリーモデルが6万990ドル(約897万円)、AWD仕様が7万9990ドル(約1177万円)

 現状、テスラは、カリフォルニアを中心に米国の大都市部で売れるクルマである。充電インフラが一定以上の密度で存在しなければ運用が窮屈になるBEVは、必然的に人口密度が高いエリアに集中することになる。

 そしてそういう過密エリアで排気ガスを出さないことにはもちろん意味があるので、モデル3とモデルYは大都市部向けというのはマーケティング的に妥当である。

 ところがアメリカというのはおかしな国で、全米の規模で見ると、販売台数トップの常連はいまだにフォードF150、シボレー・シルバラード、ダッジRAMと、ピックアップトラック優勢が変わらない。となれば、ランキング上位を取るには田舎で売れるピックアップトラックを無視できない。

 それは、「デカくてゴツくて頼もしいV8エンジン」のイメージであり、西部劇の帝王ジョン・ウェイン的世界観が脈々と生きている。対比として面白いのは、都市型のテスラは、同じアメリカ文化でも、ギーク、サイバー的な系譜に属する。どちらもアメリカ文化だが水と油の如く相容れない世界である。

 今後、テスラがアメリカの自動車産業に君臨するためには、どうしても数の多いピックアップのユーザーを攻略しなくてはならない。そのためにギークでサイバーな世界から、全く新しいデカくてゴツくて頼もしいBEVを出してやろうじゃないかというのが、その名もずばりサイバートラックであり、テスラが野望を成し遂げようとすれば挑まねばならないジャンルであるのは間違いない。

■「ジョンウェイン的世界観」はBEVでも作り出せる…のか?

 ただし、ピックアップトラックの世界ではV8至上主義が生きている。いわば「ガラケー」に誇りを持つ世界。映画のシーンなら「スマホなんぞを使うヤツは、帰ってママのおっぱいでも飲んでいな」とタフガイに言い放つ人種である。そこに理屈は通じない。

 ギークでサイバーな人は、V8よりもモーターのほうが低速トルクが出るし、制御も緻密にできる。「強いクルマを作るのなんか簡単だ」と考えている。

 ただ、筆者はここに両者の行き違いを感じ取る。

 ギークでサイバーな人たちは、「より強いクルマを作ればV8教徒もひれ伏すだろう」と思っているが、そんな理屈が通じるなら最初から苦労はない。今時デカいV8のピックアップトラックのどこに合理性があるのか。当のV8教徒にとっては結果が強いかどうかはほぼ関係ない。

 彼らが愛しているのは「様式」であり、「結果そのもの」ではない。伝統的価値観を愛する保守主義者は、そもそも破壊者を嫌う。

テスラ「サイバートラック」と「株価」と最強の省エネ低公害車「軽」の行く末【短期集中連載:第三回 クルマ界はどこへ向かうのか】

アメリカの車種別販売台数ランキングでなんと41年連続首位(2022年末時点)のフォード「F」シリーズ。2022年は年間約64万台を販売した

 そこにあれだけ新規性の高いデザインを持ち込んで、既存の価値観を壊そうとすれば対立が起きるのが道理である。だから現在ピックアップを買っているコア層には、サイバートラックはおそらく売れない。数の大きいピックアップトラックのマーケットを取りに行くのが戦略的な狙いだとしたら、その攻略は、たぶん難しいだろう。

 もちろんまったく新しいBEVトラックに目覚める新たなユーザーはいるかも知れないが、少なくともF150のBEVモデルである「ライトニング」は成功したと言い難い。ということで果たしてテスラの提案する新しい「強いクルマ」が彼らのお眼鏡にかなうかどうか、そこが勝負の分かれ目になるはずだ。

■日本の全メーカー合計より高いテスラの株価総額のカラクリ

 さて株価の話である。少し前までテスラの株価は、日本の全自動車メーカーの株価総額より高かった。同じようなことはバブルの時に見たことがある。日本の国土の地価総額がアメリカの3倍だった。

 すごい人気である。

 だがそれだけだ。

 仮に転売を禁止する条件で、「アメリカ3つと日本と、どちらかもらえるとしたらどちらが欲しいか」とか「テスラと日本メーカー全社、どちらかもらえるとしたらどちらが欲しいか」という問いで、答えは明らかになるだろう。

 原理に立ち返れば、「株価」とは、その企業が持っている資産に、配当総計(利益)を足したものを株式発行数で割ったものだ。細かくいえば実態貸借対照表上の利益なのだが、まあここでは概念の話なので。しかし現実の社会での株取引は、それに「みんながどのくらい欲しがるか」というプレミアムが足されて取引されている。

 株式売買のビジネス構造は、基本的に転売ヤーと同じで、品薄の商品(株)を「人気」というお気持ちの価格ぶん高く売る話である。1足2万円くらいのスニーカーが、ちょっとどこかに差異があるだけで、「いやそれはちょっとじゃない」という人に評価されてオークションでは3億円で取り引きされたりする。

 その評価価値はあくまでも「その取り引き」で成立した相場であって、距離や質量のように物理的に計測できるものだとは思わないほうがいい。

 たとえばテスラの株価は、イーロン・マスクがCEOを辞めたら崩壊しかねない。もちろん人事で株価が動くことはどこにだってあるのだが、おそらくテスラは動きの値幅が違う。

 要するに、株価というのは「今買ったら、利益を乗せて売れるか」という予想で決まる。外野であるマーケットが「まだ上がる」と思えれば相場が上がるだけのことで、皮算用評価額である。企業の実力を測るものではないし、本質的にいえば価値を測るものでもない。マネーゲームなので投資家と証券会社以外があんまり参考にするものではないと思う。

 あくまでも個人的意見だが、企業の価値はGDPをどれだけ生み出したかだと思う。だから営業利益こそがその指標だと筆者は考える。

 さて、編集部からのお題をどうやって1本の原稿に仕立てるかが腕の見せ所で、ここから軽自動車の話に繋げなくてはならない。

■日本23%削減に対して米9%増加って……

 株価が「お気持ち相場」だとすれば、実は「BEVが唯一解」という考え方も、「お気持ちの話」に筆者には聞こえる。

「内燃機関はCO2を出す」と「BEVはCO2を出さない」という対立構造は大変わかりやすいが、そこにLCA(ライフサイクルアセスメント)が入ってくると話が変わる。LCAは原材料の調達から製造を経て、製品として使用され、最終的に廃棄されるまでを通した、製品の一生のCO2排出量の話になる。

 大筋の理解としては、BEVは「作る時」と「廃棄する時」に大量のCO2を出す代わりに、走行中は出さない。それと比較すると、内燃機関は「作る時」と「廃棄する時」はBEVに比べてCO2の出は少ないが、走行中はBEVに対して比較にならないCO2を排出する。

 そうなると、さっき対立構造の話で出てきた「出すほう」と「出さないほう」の話ではなくなって、「どっちも出すけど、全体的に少ないのはどっち」という程度問題の話になってくる。「スピード違反は何キロまでしていいか」という話になれば、本来の話としては「1km/hたりともダメだ」という以外にない。だったらLCAで考えるかぎり、内燃機関がダメならBEVもダメだとなるべきである。

 しかしながらすでに議論のフェイズは程度問題に切り替わっているにも関わらず「出すほうと出さないほう」の「お気持ち」がキャリーオーバーされ、そこにかてて加えて「善悪論」が入り込んでくるから話がややこしくなる。

 生産時にCO2を先に出してしまうBEVは、走行時のゼロエミッションでその「借り」を返していく構造だ。推進派の人は「5万kmくらいで返済できる」と言い、対立サイドの人は「いやいや14万kmは走らないと無理だ」という。

 数字は人によって色々だが、このあたりは正直「答え」がない。前提条件の置き方次第で変わってしまうので、誰にもわからないのだ。

 単純な話、市街地でのストップアンドゴー付き5万kmと高速巡航中の5万kmではCО2削減ペースは当然違う。計算の基礎になるサプライチェーンの話にしても、災害や戦乱、物流の混乱などで輸入ルートが変わって、距離が変わればまた変わる。キリがない。

 要するに、ざっくりと程度問題の違いと理解して、それぞれの大まかな利用法で負荷の大きさを考え、選択する以外に、いま現実にできることはないのだが、そこに「電動化あるいはBEV化は、進めば進むほどよいこと」というお気持ちの倫理概念が入り込むので混乱する。

 たとえば日本は2001年から2019年までに、CO2排出量を23%も減らしている。これは実績値である。COP(気候変動枠組み条約国会議)のたびにこの実績を叩き出した日本によくぞ「化石賞」を贈れるものだと思う。

 アメリカ、ドイツ、オランダは、偉そうなことをいうわりには、この後に及んでCO2排出量を増やしており、原発大国のフランスも削減量は1%に過ぎない。

テスラ「サイバートラック」と「株価」と最強の省エネ低公害車「軽」の行く末【短期集中連載:第三回 クルマ界はどこへ向かうのか】

日本自動車工業会が作成した、ここ20年間のCO2削減量。2001年を「100」として、2019年時点で日本は-23、英国-9、フランス-1、オランダ+3、ドイツ+3、アメリカ+9という成績だった

 2017年にはフランスのマクロン大統領が「気候変動で勘違いをしてはならない。プランBはないのだ。なぜなら地球の代替はないからだ」と大変ご立派な演説で、意識の低い世界中の人々を意識高く啓蒙していたが、マイナス1%でも減らせば地球を守れるらしい。

 欧州圏で最優秀のイギリスでもマイナス9%と、日本の削減量の半分にも及ばない。

 このぶっちぎりで世界一の日本のCO2削減実績の原動力は、3つの手段によるものだ。一つはハイブリッドの普及、二つ目はダウンサイジング、つまりユーザー全体が小さいクルマに乗り換えたこと。三つ目は軽自動車の性能向上と普及である。

「日本はBEVの普及が進まない」と毎度お小言をいただくBEV劣等国だが、その劣等国に2位が(CО2削減率で)ダブルスコアで負けるザマでどうするのだろう。世界のベストセラーBEV、テスラモデル3&モデルYのアメリカは、なんと驚異のプラス9%、フォルクスワーゲンID.シリーズのBEV先進国ドイツもプラス3%なので、実績を見るかぎりではBEVは結果にコミットしていない。

■CО2削減を進めるのは「お気持ち」ではない

 で、ここからなんの話につながるのかと言えば、「軽自動車の先行きを歪めないでくれ」という話である。

 今、日本では軽自動車も含めて、「2030年代半ばにガソリンエンジン車の販売禁止」を、ふわっと仮決めしたままになっている。ここがとても気になっている。のちの議論でハイブリッドは電動車として継続が認められているのでいいが、考えるべきは軽自動車のガソリンエンジン車である。

 LCAで考えた時、軽自動車に勝てるBEVは現状存在しない。厳密に言えばマイクロカー的なBEVで、有利な条件設定にすればもしかして勝てるかもしれないが、普通の人がBEVといわれて想像する、日産リーフやテスラのクラスでは、LCAで軽に勝つことは当面不可能である。

 もちろん未来において革新的技術が発明されればこの限りではないが、それはそういう技術が出てからされるべき議論であって、出来もしないうちから切り替えを急いだら、またぞろCO2排出量プラスの世界が待っている。

 一度やった過ちは繰り返すべきではない。

 先ほど説明したとおり、バッテリーを搭載すると、生産と廃棄の際のCO2排出量が増える。バッテリーという手法に依らず、小さく軽く高効率というやり方で、LCAでのCO2排出量を減らしてきた軽自動車に、「電動化にすればもっとよくなる」という論理性のないお気持ち依存でバッテリーを搭載するのが、いったいどういう意味を持つか、よく考えたほうがいい。

 価格が上がり、資源も消費し、そのわりに得られるメリットがプラスかどうかはまったく精査されていない。

「電動化は正義」という定量的でない価値観でそう言われているだけだ。

 世界のより多くのクルマのCO2排出量を低減していくためには、CO2削減のコストパフォーマンスは重要なのだ。

 それはむしろ電動化しないほうがいい、となる可能性が高い。

 百歩譲って、仮に純内燃機関が負けたとしてもそこにはわずかな差しかないはず。それがダメならスピード違反と同じで、LCAで軽に勝てないBEVは全部アウトになってしまう。

テスラ「サイバートラック」と「株価」と最強の省エネ低公害車「軽」の行く末【短期集中連載:第三回 クルマ界はどこへ向かうのか】

現行型(2021年12月登場)スズキアルトの純ガソリン仕様はWLTCモード燃費25.2km/Lを叩き出す。これで車両価格は111.98万円~。アルトにはマイルドハイブリッド仕様もあってこちらは同燃費27.7km/L、価格は138.05万円。燃費+2.5km/Lのために+19万円を出すのが正義なのか…という問題がある

 わたしはなにも、「軽の電動化にメリットはあり得ない」と主張しているのではない。盲目的に「電動化がいい」という宗教じみた考え方をいったん置きませんか、と主張しているのだ。具体的に言えば、軽自動車に関してのみ、純ガソリンエンジン車を認めるべきだと思う。

軽自動車はおおむねグローバルなAセグメントに相当するが、そのクラスではコストは最重要要素である。わざわざ構造の複雑化を義務付けて販売価格を上げるよりも「ダウンサイジングしてコスパの高いジャパニーズKカーに乗りましょう」と世界に訴えて、日本のマイナス23%メソッドを世界に輸出したほうが、少なくともCO2削減には大きな効果を発揮するはずだからだ。

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