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「ID.2all」の計器がビートルやゴルフになる理由 フォルクスワーゲン「らしさの追求」がここに

「id.2all」の計器がビートルやゴルフになる理由 フォルクスワーゲン「らしさの追求」がここに

かつてのゴルフのものをモチーフとしたようなデザインの計器はID.2allのデジタル計器の表示の1つ(写真:Volkswagen AG)

フォルクスワーゲンは今、全長4mそこそこのコンパクトサイズのBEV(バッテリー駆動のEV)、「ID.2all(アイディーツーオール)」の開発を進めている。

【写真】往年のビートルやゴルフようなレトロデザインのメーターパネル

正式発表はもう少し先だけれど、2023年3月から小出しに、言ってみればパズルを完成させるように、ピースを見せてくれている。3月に外観、9月に派生モデル、そして12月に内装……という具合に。

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12月に公開されたインテリアの造型はシンプルだが素材とともにステッチや照明などで質感を演出する(写真:Volkswagen AG)

このクルマ自体とは別にもう1つ、見るべきものがある。それは「ブランドとはなにかを考えさせてくれるところ」だと私は感じている。

世界中の自動車メーカーがBEVに手を染め、しかも新しいブランドが数多く誕生している現在にあって、埋没しないために何をするか。各社の施策はさまざまで、とても興味深い。

そして、それに対するフォルクスワーゲン流の解がID.2allに見て取れる。

私は2023年12月にコペンハーゲンで、この年3度目になるID.2allの発表会に出向いた。このとき感じたのは、多くのメーカーと一線を画す、フォルクスワーゲンのクルマづくりにおけるコンセプトメーキングだ。

サイズはポロ、加速はGTI並み

ID.2allは、フォルクスワーゲンが展開するBEV「ID.」シリーズに属するモデル。大きな特徴は、「ポロ」とほぼ同じ4050mmの全長を持つコンパクトなボディだ。

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ID.2allのエクステリアは、新型ポロと言われても違和感のない雰囲気(写真:Volkswagen AG)

パワートレインのスペックスは、最高出力166kW、最高速度160km/h、0-100km/h加速7秒、バッテリー残量10%から80%までの充電時間20分……。これらが現在まで発表された内容である。

参考までにポロGTIの0-100km/h加速が6.5秒だから、7秒というのはけっこう俊足。

「市街地にもよく合うクルマ」というのが、このクルマの特徴。もうひとつ(そしておもしろい)特徴として、「Love Brandを具現化したクルマ」だとフォルクスワーゲン乗用車部門のトーマス・シェファーCEOは言う。

「私たちは顧客に寄り添っていたいと思っており、そのためにトップテクノロジーとファンタスティックなデザインのプロダクトを具現化していきます」

そのためだろう。ID.2allは、ID.シリーズに属していながら、デザインアプローチはけっこう違って見える。

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ID.シリーズの第1弾として登場した日本未導入のID.3(写真:Volkswagen AG)

これまでフォルクスワーゲンがヨーロッパを中心に送り出してきた「ID.3」「ID.4」「ID.5」「ID.7」といった一連のモデルのなかにあって、ちょっと異色だ(ID.4だけは日本にも導入されている)。

むしろ、現在のラインナップにぽんっと放り込んでポロや「ゴルフ」と並べても、違和感のないデザインとなっている。

「フォルクスワーゲンとはどうあるべきか」の答え

「ID.2allは今、“本当のフォルクスワーゲン”になるべく、開発をしている最中です。本当のフォルクスワーゲンになるには、マチルダやリリー、あるいは単にバグ(カブトムシ)といった愛称をつけられたり、分解されオーナーのお好みに応じて改造されたりしなくてはなりません。どんな技術を使っていても、人が中心にいなくては本当のフォルクスワーゲンにはならないのです」

これは、発表会の会場で乗用車部門のヘッドオブデザイン(デザイン統括)を務めるアンドレアス・ミント氏が見せてくれたビデオの一節だ。

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ID.2allの車内で説明をするアンドレアス・ミント氏(写真:Volkswagen AG)

「私が11カ月前に現在のポジションに就任してから、『フォルクスワーゲンとはどうあるべきか』を考えてきました。フォルクスワーゲンは最も愛される量産車ブランドであるべきだというのが結論です」

ミント氏は、数カ月前にポルシェ、ランボルギーニ、ベントレーといった、フォルクスワーゲングループ傘下のブランドのクルマをすべて投資家の前に集め、デザインの方向性をプレゼンしたときのことを話してくれた。

「私もアウディやベントレーのデザイン部を経験してきたので、よくわかっているのですが、これらのブランドの特徴は『最も高価』であったり、『最もスポーティ』であったり、『最もアグレッシブ』であったりするわけです。そこで思いました。『私たちフォルクスワーゲンは何だろうか?』と。私の結論は、『ナイスガイではないか』というものでした。シンプルでしょう? それをLove Brandにつなげていくのが目標です」

たとえば、フロントマスクを例にとっても、ID.2allは「ロボコップでなくて、ヒューマンだ」とミント氏は言う。

前輪駆動BEVだからこそのパッケージング

インテリアのデザインにおいても、その思想は同様だ。フォルクスワーゲンは、ID.2allのために、リアにモーターを搭載する既存のMEBプラットフォームでなく、フロントモーター用のプラットフォームを新開発。はたしてその成果が、インテリアの設計にも反映されている。

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モーター等はフロントに集約し、床面にバッテリーを敷き詰める(写真:Volkswagen AG)

驚くべきは、パッケージングだ。4050mmの全長に対してホイールベースは2600mmと長い。BEVの構造を十分に生かしたものだ。

そもそもフォルクスワーゲンは、パッケージングに秀でた会社。ID.2allも例外ではなく、身長175cmぐらいの(私と違って)脚の長い西洋人が前後に腰掛けていられる室内長を持っていた。

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後席は広さもさることながら、クッションを後から貼り付けたような個性的なデザインも特徴(写真:Volkswagen AG)

さらなる驚きは、積載量の多さ。荷室は、後席を立てたままでも490リッターもある。現行ゴルフ(全長4295mm)が380リッターであることを勘案すると、いかにID.2allのパッケージングが優れているかがわかる。

荷室は2段がまえで、一見「まぁまぁ」という感じの大きさだが、フロアを上げてみると、驚くほど深い。コンセプトモデルを見たときは、ミネラルウォーターのボトルが12本ずつ入った大きなクレートが3箱、収まっていた。

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燃料タンクなどがあるガソリン車では実現できない、驚くほど深い荷室(写真:Volkswagen AG)

「BEVで前輪駆動方式であることをフルに生かした設計の結果です」

このクルマのインテリアデザインを手がけた、ダリウス・ワトラ氏はそう説明する。

それでいて、リサイクル素材を積極的に使ったという各パーツの質感も組み付けの精度も高く、上質な雰囲気のある色合いとともに、安っぽさはみじんも感じさせない。これがフォルクスワーゲンのプロダクトの真骨頂だろう。

「ダッシュボードにも、注目してほしいデザインがあります。フォルクスワーゲンがLove Brandになるために重要だと、私が考えていることです」とミント氏。そして「車内に来てください」とつけ加えた。

一緒にID.2allのインテリアコンセプトモデルに乗り込むと、ミント氏はセンターコンソール上に設けられたVW印のダイヤルを回した。するとVWのマークが消え、かわりに城門の上にオオカミが1頭いる絵が現れた。かつて、ビートルのステアリングホイールボスにあったヴォルフスブルクの紋章だ。

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計器盤の表示などを変えられるダイヤルを回すとヴォルフスブルクの紋章が現れる(写真:Volkswagen AG)

同時にドライバー正面のデジタル計器盤に、当時のビートルを思わせる速度計を中心とした図案が出現。もう一度、ミント氏がダイヤルを回すと、ビートル風の計器が今度はゴルフのそれに変わった。

「id.2all」の計器がビートルやゴルフになる理由 フォルクスワーゲン「らしさの追求」がここに

初代ビートルを思わせるデザインの表示(写真:Volkswagen AG)

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ゴルフのような表示を選ぶことも可能(写真:Volkswagen AG)

「こういう遊び心を私はシークレットソースと呼んでいて、これらを随所に盛り込んでいきたいと思っています」とニヤリと笑いながらミント氏。

「ライカブル(好かれること)、ステイブル(走りのよさを感じさせること)、そしてシークレットソース。3つのピラーがLove Brandになるために重要なことだと考えています」

本当のフォルクスワーゲンがここにある

そういうわけでフォルクスワーゲンは、大人が4人で乗れて荷物をたくさん積めて、一充電で450km走れて、従来のフォルクスワーゲン車のように、生活のなかに溶け込める……、そんなクルマをID.2allで実現しようとしているのだ。それが理解できた。

これ、ほかのメーカーではなかなかやっていない。私が「半年に1台は新車を出さないと市場で忘れられてしまうという危機感を表明するメーカーもありますが……」と言うと、ミント氏は「それは大丈夫。むしろフォルクスワーゲンらしさを失ったときのほうが危機です」と答えたのだった。

正式発表は2025年で、ヨーロッパでの発売は2026年から。価格は2万5000ユーロ以下と発表されている。

「フォルクスワーゲンはピープルズカー、『誰もが乗れるクルマ』という意味ですから」と、デザイナーのワトラ氏がつけ加えたのも、私の印象に強く残った。

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