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日本の自動車メーカーは今すぐ「バッテリーEV」にかじを切るべきだ! 業績絶好調&HVシフトの時こそチャンスである

日本の自動車産業の底力

 日本の自動車メーカーの決算が近づいているが、円安という大きな追い風を受けて各社とも絶好調で、過去最高を更新しそうな企業も出てきている。短期的には、日本の自動車メーカーがハイブリッド車(HV)を核にガソリン車も含めたバランスのよい新車ラインアップを投入し続け、国際市場をリードし続けていることが成功の要因だろう。

【画像】「えっ…!」これが「自動車メーカーの年収ランキング」です。画像を見る。(計12枚)

 2023年は自動車メーカーだけでなく、大手中古車販売会社や保険会社でも不祥事が発生し、業界全体の改善が問われたことは記憶に新しい。そのような状況下で過去最高の業績を達成できることは、日本の自動車産業の底力をまざまざと見せつけられたような気がする。

 コロナ禍を契機に、世界の「社会のあり方」が大きく変化したことはいうまでもない。2020年の春から約1年間、人の活動が最小限に抑えられ、戦争へのエネルギーが減少し、世界中に「青い空」が広がったことは否定できない。

そのため、当時「ブルースカイシンキング」という思考が『フォーブス』誌でも取り上げられ、都市における自動車の利用制限にも議論が及んだ。ブルースカイシンキングとは、制限のないブレーンストーミングのことで、このアイデア発想法では、アイデアが現実に根ざしている必要はない。

 しかし、2022年には欧州で戦火が広がり、2023年には中東で新たな戦争が始まった。世界はもはやブルースカイシンキングどころではなく、多くの人命が失われる非常事態に陥っている。

東京オートサロンでの驚き

日本の自動車メーカーは今すぐ「バッテリーev」にかじを切るべきだ! 業績絶好調&hvシフトの時こそチャンスである

ガライアEV(画像:オートバックス)

 日本では、2024年1月に「東京オートサロン2024」がコロナ以前のように、入場規制がほぼない形で開催された。

 2023年に「ジャパンモビリティショー」に名称を変更し、自動車以外の分野も追加された「東京モーターショー」とは異なり、東京オートサロンは、最新のカスタムカーや歴史的名車の展示など、ある意味、伝統的なクルマの楽しみ方を正面から追求したイベントである。

 その結果、来場者数は2023年の18万人から23万人と5万人増と大きく伸びたが、コロナ以前の2019年の33万人とはまだ開きがある(オンラインもあるが、無料なのでここでは除外)。

 筆者(J.ハイド、マーケティングプランナー)が最も注目したのは、創立50周年を記念したオートバックスの展示である。同社のオリジナルスポーツカー「ガライア」の電気自動車(EV)化をはじめ、合計5台のEVカスタムカーが展示されていた。

 驚いたのはそのラインアップだ。同社のこれまでのサービス内容や顧客層を考えれば、国産メーカーのEVに特化していると考えるのが自然だろう。しかし、実際に展示されていたガライアEVを除く4台のEVのうち、3台は海外製で、

・トヨタ:アルファードEV+

・テスラ:モデルY、

・ヒュンダイ:アイオニック5

・BYD:ドルフィン

だった。アルファードに至っては、純粋なEV、つまりバッテリー式電気自動車(BEV)ではなく、HVということになる。

 日本の自動車メーカーが好調とはいえ、こうしてみると、純粋なBEVはまだラインアップの主力ではなく、開発途上にあることは否めない。

 長らく日本のベンチマークだったドイツの自動車メーカーが、確実にBEVを主力車種に組み込んでいるのとは対照的である。日本は2035年にガソリン車の新車販売ができなくなるため、主力車種のラインアップをより急ピッチで見直す必要があるように思う。

リチウムイオン電池のルーツ

日本の自動車メーカーは今すぐ「バッテリーev」にかじを切るべきだ! 業績絶好調&hvシフトの時こそチャンスである

充電スポット(画像:写真AC)

 今や中国に量産のお株を奪われた感のあるリチウムイオン電池だが、もともとは2019年のノーベル賞受賞者である吉野彰博士が発明したものである。つまり、現在のEVの隆盛は日本発なのだ。その意味では、日本がBEVで主導権を握ったとしても不思議ではない。しかし、現実にはオートバックスの展示に象徴されるような現状がある。

「いやいや、慌てることはない。HVは電動車の定義に含まれている」

という声もあるだろう。しかし、現在のガソリン価格が特別減税によって低く抑えられていることを考えれば、恒常的な円安が続けば2035年にはガソリン価格がリッター200円を超えることも考えられる。そうなると、HVがいくら燃費がよくても、BEVや一定の距離を電気だけで走れるプラグインハイブリッド車(PHV)に見劣りするのではないか。

 BEVの航続距離はコロナ禍後、約3割伸びている。テスラ・モデル3を例にとると、2019年の航続距離は415~530kmだったが、現行モデルは

「573~706km」

とされている(いずれも国土交通省の審査値)。ガソリン車でも600kmがひとつのラインであることを考えると、航続距離という点では遜色ないレベルになりつつある。観光地を含めた充電スポットの増加も相まって、不安要素の多くが解消されている。

 一方、BEVの最大の欠点は寒冷地での性能である。特に、氷点下が続く冬の北海道では、BEVの航続可能距離は夏場の約6割に落ちるといわれており、ときには命に関わることもある。

全固体電池と生成AIの登場

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全固体電池(画像:トヨタ自動車)

 そんな厳しい寒さに強いバッテリーとして期待されているのが、新技術の「全固体電池」だ。この技術が実用化されれば、低温時の性能低下は約1割に抑えられるといわれている。

 そして、この全固体電池の特許数は、現在、日本がトップだという。2023年春のインターネット調査によると、トヨタとパナソニックが国際特許の1位と2位を争っているようだ(中国・全固体電池関連技術 競合状況)。

 業績が好調な自動車メーカーと政府が協力して、このような技術の実用化を加速させるべきではないだろうか。国が動くことで、大学の研究機関も協力しやすくなる。また、日本の寒冷地、高温多湿地域、塩害地域など、さまざまな地域でのテストが容易になる。

 次世代BEVで実用化されれば、全固体電池の技術は、大災害時に役立つ家庭用バッテリーをはじめ、家電やAV機器にも大きなメリットをもたらすことは想像に難くない。その結果、日本の工業製品全体の底上げにもつながるだろう。

 しかし、現実はそう甘くはない。2023年12月の発表によると、中国は国別で世界の特許出願件数の36.7%を占めていると報じられた。一方、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が昨年発表した「次世代全固体蓄電池材料の評価・基盤技術開発」プロジェクトの2023年度の予算は18億円にすぎない。

 筆者がBEVにかじを切るタイミングとして「今」にこだわるもうひとつの理由は、「チャットGPT」に代表される生成AIの急速な進化である。

 長年にわたり、漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットが混在する日本語は、外資系企業にとって参入障壁となってきた。しかし、2023年話題になった生成AIは、こうした障壁を軽々と乗り越える能力を発揮している。

BEVの進化と「生活の変化」

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生成AIのイメージ(画像:写真AC)

 また、生成AIの普及は音声認識を飛躍的に向上させると期待されている。とすれば、近い将来、運転中の多くの操作において、安全性の観点から音声が主要な操作手段になることは容易に想定できる。

 次世代の音声認識については、2023年、メルセデスベンツのインフォテインメントシステム「MBUX」が、すでに米国でチャットGPTを使ったテストを行っている。また、新しいもの好きの若いBEVユーザーには、この音声コマンド機能は喜ばれそうだ。特にテスラについては、日本でも試乗体験などの書き込みがネット上に多く見られる。

 つまり、彼らはBEVによる運転シーンの変化だけでなく、「生活の変化」も楽しんでいるのかもしれない。なぜなら、BEVはスマートフォンのようなスマートデバイスになり得る可能性もあり、何よりもそれらとの親和性が求められるのだ。

 そもそもクルマの購入は、何らかの「生活の変化」を望むことがきっかけとなる。多くの都市部では、単純な移動手段としては公共交通機関で事足りる。

 もちろん、地方ではクルマが必需品であることも多いが、実用車ばかりが売れるわけではない。したがって、ここで購入されるクルマの一定数は、「生活の変化」への欲求とも結びついているわけだ。

 その意味で、BEVが「生活の変化」をもたらす能力は、従来のエンジン車やHVよりも高いことは間違いない。BEVを前提にすれば、消費電力の高いハイスペックPCを、走行中はもちろん駐車中も含めて、いつでもどこでも高性能なスマートデバイスとして機能させることが可能になるからだ。

求められる日本のBEVへの注力

日本の自動車メーカーは今すぐ「バッテリーev」にかじを切るべきだ! 業績絶好調&hvシフトの時こそチャンスである

盛況だった「東京オートサロン2024」の様子(画像:東京オートサロン事務局)

 例えば、出張先や旅先で撮影した高画質な動画を、PCやスマートフォンを介さずに車内のスマートデバイスにバックアップし、同時に5G回線を介して外部のクラウドサービスにアップロードし、プロジェクトのチームメンバーと共有することができる。そして、そのすべての操作を音声操作で行うことができれば、より運転との親和性が高まる。

 そのとき、現在のようにスマートフォンと接続することはないだろう。法律上の要件さえ満たせば、クルマ自体に通信機能を持たせ、「e-SIM」などに対応させることも容易になるだろう。

 つまり、クルマは従来の移動手段としてのクルマを超え、独自の通信機能と生成AIを備えた

「パーソナルデジタルアシスタント」

になる可能性が高い。しかも、その機能や能力は、スマートフォンやモバイルPCを軽々と上回る可能性がある。

 BEVに注力することは、電池技術のさらなる進化による災害対策や生活パフォーマンスの向上、さらには数々のAI技術を駆使したクルマそのもののスマートデバイス化など、新たな「生活の変化」につながる。それは日本だけでなく、世界中で求められることになるだろう。

 スマートフォンやドローンも基礎技術で先行していたはずの日本。もし、今シーズンの業績好調に安心してBEVへの注力を怠れば、再び「ゲームチェンジャー」になる機会を失うことになる。

 BEVが日常の乗り物となり、日本が再び「青い空」を取り戻したとき、道を走る国産車のシェアは現在のスマートフォンと同じになるのではないか。東京オートサロン2024でオートバックスの展示を見たとき、そんな危惧が筆者の脳裏をよぎった。

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