実は販売台数が伸び続けているHV
欧州を中心に電気自動車(EV)化が騒がれているなかで、実はハイブリッド車(HV)の販売台数が伸びている。HVとは、内燃機関と電気モーターなど、異なるエネルギー源を組み合わせた自動車を指す。燃費や走行性能を向上させながら、環境負荷を低減することができる。電気モーターのみで低速走行が可能な「EVモード」を搭載したモデルもある。
日本自動車販売協会連合会の集計によると、2023年1~12月の燃料別台数(乗用車)は、次のような結果だった。HVとEVのほか、ガソリン車、プラグインハイブリッド車(PHV)、ディーゼル、燃料電池車(FCV)、その他のデータが記されている。
・ガソリン車:94万8445台(35.8%)
・HV:146万0133台(55.1%)
・PHV:5万2143台(1.9%)
・ディーゼル:14万6164台(5.5%)
・EV:4万3991台(1.7%)
・FCV:422台
・その他:99台
日本国内における燃料別販売台数(乗用車)のうち、2023年に初めてHVが構成比50%を超えたのだ。今や購入される新車の2台に1台がHVなのだ。
続いて、HVの販売台数を時系列でみてみよう。
・2019年:109万8704台(39.1%)
・2020年:92万0275台(37.1%)
・2021年:102万7104台(42.8%)
・2022年:108万9077台(49.0%)
・2023年:146万0133台(55.1%)
・自動車税の減税といった税制優遇
・2020年を底に高騰を続けているガソリン価格の影響
が強い。
ちなみに、ドイツにおける2023年の乗用車の新車登録実績の構成比をみてみよう。
・ガソリン車:34.5%
・HV:29.5%
・EV:18.4%
・ディーゼル:17.1%
・PHV:6.2%
ドイツでは、ガソリン車とディーゼル車の合計が50%を超えており、依然として内燃機関の人気が高い。また、さすが欧州だけあってEVの構成比が日本より高いものの、
「実はHVの方が売れている」
ことがわかる。税制や補助金の影響は否定できないが、それでもHVは健闘しているといってもよい。
HVの強み再考
2023年1~12月の燃料別台数(乗用車)(画像:日本自動車販売協会連合会)
ここで今一度HVの強みを考えてみよう。
ゼロエミッションで考えると、EVに軍配が上がるのは間違いない。しかし、より環境に優しい自動車を多くのユーザーは望むものの、実際のところゼロエミッションを理由にEVを選ぶのは少数ではないだろうか。EVと比較する場合、HVの強みは
・ガソリンで動くこと
である。
車両価格について、わかりやすいところで日産ノートとリーフを比較すると、200万円近い価格差がある。EVのリーフは、車体が若干大きく、重量も約300kgと重いものの、室内寸法では長さと幅はリーフもノートも同じだ。室内寸法の高さでは、ノートが1240mm、リーフが1185mmと、わずかではあるがHVのノートに軍配が上がる。
ガソリンで動く安心感は、“ゼロエミッション信者”には受け入れられないだろうが、HVの最大の売りかもしれない。例えば、ガス欠(電欠)となっても、
「ガソリンさえ入れればなんとかなる」
手軽さと安心感はまだまだ捨てがたいものがある。
とはいえ、EVの走行距離の短さや充電インフラ不足は、現時点ではEVのデメリットであるが、時間が解決する課題といえよう。
「1回の充電でガソリン車並みの走行距離」
「いつでもどこでも容易に短時間でEV充電できる世界となる」
のは、一体いつになるのか見通せないかぎりは、HV人気が続くだろう。
実は中国もHVの売れ行きが好調
NEVの2023年の乗用車販売台数(画像:中国自動車工業協会)
実は、お隣の中国もHVの売れ行きが好調だ。中国自動車工業協会(CAAM)のデータをみると、新エネルギー車(NEV)の2023年の乗用車販売台数は、
・EV:625.8万台(対前年124.3%)
・PHV:278.9万台(対前年184.1%)
とEVの方が圧倒的に多い。中国国内の2023年の乗用車販売台数2606万台からすると、
・PHV:10.7%
であり、NEVへのシフトはこれからといったところかもしれない。しかし、対前年の伸び率では圧倒的にPHVが伸びている。ちなみに、2022年実績では、
・EV:503.3万台(対前年181.7%)
・PHV:151.5万台(対前年252.4%)
とあり、台数でいえばEVが勝っているものの、PHVの“驚異的な伸び率”は見逃すことはできない。
比亜迪(BYD)に代表されるような中国製のEVが世界を席巻している最中であり、
「中国 = EV」
というイメージがある。しかし、価格差、走行距離やインフラの関係からすると、やはりPHVは多くのユーザーにより支持されているのではないか。
また、日経ビジネス(2024年1月23日付け)の記事では、「中国の自動車メーカーがエンジン関連技術を中心に、日本の技術者を大量に雇い入れるという現象が起きている」とある。やはり、
「EVではなくHV」
という大きなうねりが来ているといってよい。
HVがEVの対立軸となり得る可能性
2024年2月27日発表。主要メーカーの電気自動車(BEV/PHV/FCV)販売台数推移(画像:マークラインズ)
EV化の流れは止められないものの、EVには価格だけでなく、走行距離、バッテリーや充電インフラ整備といった克服すべき課題が多く、現時点では爆発的に普及が進むかは不透明といわざるを得ない。
HVは、
「確かにCO2は排出する」
かもしれないが、ガソリン車よりは燃費がよく、環境に優しいといえよう。何がなんでもゼロエミッション車でないとだめと息巻くのは、
「欧州や一部の地域だけ」
であって、世界全体でみるとEVが普及する土壌が整わないかぎりHVを許容する雰囲気がある。決してHVはEVの“下位互換”ではなく、EVの“対立軸”となり得るという期待感を込めて、筆者(ネルソン三浦、フリーライター)はこう叫びたい。
「ハイブリッド・ア・ゴーゴー!」