新型「トライトン」にオンロード&オフロード試乗
ポイントは独自の4Hシステム
日本では2011年以来の再登場となる三菱自動車「トライトン」。ラダーフレームを用いた本格4WDピックアップトラックとなる。日本で売られることがなかった先代モデルは、先々代モデルの改良版となるフレームを使用していたが、新型はおよそ20年ぶりとなるフレームの完全刷新を行なっている。
フレームは曲げ剛性を60%、ねじり剛性を40%向上。段面積をアップさせることでそれを達成したため、重量を増やさずに剛性アップが可能となった。また、容量アップが行なわれたショックを用い、サスペンションもよりしなやかに動かすようにセット。リバウンドストロークは従来よりも20mmほどアップさせている。また、リアに備えたリーフスプリングも改良を行ない、従来では5枚の板バネで構成していたものを3枚に減らし、一方で1枚ずつの厚みや幅を広げつつ、フリクションの低減や取り付け点の剛性にもこだわった開発を行なうことで、きちんと滑らかな動きを実現したという。結果として四輪駆動システムの性能をさらに活かすことができるようになったそうだ。
今回試乗したのは2月15日に販売を開始した、三菱自動車の新型1tピックアップトラック「トライトン」。2023年12月21日から先行注文の受け付けを開始し、3月10日時点で約1700台の注文を受けている(月販計画は200台)。標準グレードの「GLS」、上級グレードの「GSR」の2モデルを用意するが、全体の約9割が上級グレードのGSRを選択(GSRが88%、GLSが12%)しているという。GSRのボディサイズは5360×1930×1815mm(全長×全幅×全高)で、ホイールベースは3130mm
新開発の直列4気筒DOHC 2.4リッタークリーンディーゼルターボ「4N16」型エンジンは、回転数と負荷に応じて2つのタービンを協調させる2ステージターボシステムを採用。排出ガスをクリーンに浄化する尿素SCRシステムを採用し、尿素水溶液であるAdBlueにより窒素酸化物(NOx)を安定して除去する。最高出力は150kW(204PS)/3500rpm、最大トルクは470Nm(47.9kgfm)/1500-2750rpm。WLTCモード燃費は11.3km/L
結果としてフルタイム4WDで走りながらも、タイトターンブレーキング現象に悩まされることなく最小回転半径6.2mを確保。いつでも駆動系の負担を気にせずに4WDが使えるようになっている。
開発過程では利便性も考えて電子制御のセンターデフも考えたというが、耐久性やピックアップトラックという特性を考慮。さらに万が一壊れたとしても、修復が容易だという整備性の良さも考えて、やはり現在のシステムに到達したという。トライトンは世界約150か国で年間20万台を販売するコアモデル。だからこそ耐久性や整備性を第一に考えた設計となったわけだ。
GSRのインテリア。4WDのモードセレクターの操作はセンターコンソールのダイヤルで可能となっており、後輪駆動の「2H」、フルタイム4WDの「4H」、センターディファレンシャル直結の「4HLc」、さらによりローギヤの「4LLc」の4種類が選択可能。ドライブモードはすべての4WDモードに設定されている「NORMAL」モードをはじめ、2Hには経済性を重視した「ECO」、4Hに「GRAVEL(未舗装路)」と「SNOW(氷雪路)」、4HLcにトラクション性能を引き出す「MUD(泥濘)」と「SAND(砂地)」、4LLcには「ROCK(岩場)」モードが設定される
しなやかに凹凸を吸収するサスペンション
その実力を試すためにまずは一般道を走ってみる。ラダーフレーム車両でしかもピックアップトラックとなれば、色々と心配になる面が多いが、動き始めてまず驚いたのは、まるでモノコックフレームのクルマのようにリニアにしなやかに駆け抜けることだった。
5名乗車時に最大積載量500kgを実現する荷台を持ちながら、そのほとんどが空っぽにも関わらず、跳ねるような動きもなく、ただただしなやかに凹凸を吸収していく。けれども揺らぎすぎるわけでもない。足の動きはきちんと調教されており、応答遅れなどをさほど感じないところがマル。ラック&ピニオンの電動パワステ(デリカなどに使ったダブルピニオンではない)も重すぎずスッキリとした切れ味で乗用車ライクな乗り味が感じられる。
また、ランサーエボリューションに採用されていたAYC(アクティブヨーコントロール)も備わっている。これはリアデフを使ったものではなく、あくまでフロントブレーキの内輪をわずかにつまむことで曲げているものだが、それがあるからこそ、ワインディングでもあまりハンドルを切ったり、揺らぎが大きくなることなく走り切れたのだろう。そこにトルセンデフがトルク配分を行なっているのだから軽快そのもの。フロントタイヤの余裕があり、スイスイとコーナーをクリアする。さらにサイドサポートが豊かで、しかもクッション性も高いシートや上質なインテリアの仕上げも上級グレードの「GSR」はなかなか心地良かった。
GSRのボディサイズは5360×1930×1815mm(全長×全幅×全高)となかなかの大きさだが、前後ともにドライバーズシートからは見切りが良く、さらにモニターによって全方位確認できるようになっているから扱いやすい。とはいえ、そもそもの大きさが気になる方はオーバーフェンダーなどが付かない標準グレードの「GLS」を選択したほうが良いかもしれない。こちらは5320×1865×1795mm(全長×全幅×全高)。インテリアなどは簡素化されてしまうが、さまざまなスポーツバーやキャノピーなどのオプションで自分好みに仕立てていくのも面白そうだ。
エンジンは2.4リッターターボのディーゼルエンジン。ボア×ストローク86.0×105.0というロングストロークもあってか、わずか1500rpmで470Nmを発生させている力強さが宿っている。街乗りではそれほどまわさずに駆け抜けてくれるが、一方で最近のディーゼルのような滑らかさや静けさはない。豪快にガラガラと動いている感じがうるさいと感じる人もいるだろうが、このクルマのキャラクターを考えればその荒々しさはなかなかマッチしているようにも感じる。
スタック知らずの走行性能
まずは泥濘地が点在する林間コースを4Hモードで走ってみると、何事もなく駆け抜けてしまう。下りの急勾配ではヒルディセントコントロールを使うことで、アクセルもブレーキも操作せずにゆっくりと下ることを確認できた。これくらいならセンターデフロックの必要もさほど感じない。
だが、続いて走ったモーグルコースに入るとどこかの車輪が空転をはじめるから、個別にブレーキを摘んで駆動抜けを抑制してくれはするが、やはりロックモードが欲しくなる。切り替えればトラクションは豊かになり、難なくクリアしていくから面白い。これならスタック知らずだろう。
今度はそのモードのまま、急勾配を上がっていく。アクセルを入れ続ければとにかく前へ前へと進んでくれる感覚がある。そこまで走れるのなら、今度は岩場を上がろうとさらに過酷な状況に突入してみた。するとさすがにトラクション抜けが始まった。ここでTHE ENDかと思ったが、今度はリアデフロックのスイッチを押してみる。すると、グイッと前に出て行ったのだ。事態が悪化した時には2の矢、3の矢が備わるそのシステムには関心するばかり。周囲を見渡せるモニターがあるために、タイトな岩場もぶつける心配がないところも好感触。
ただ、13km/hで切れてしまうところが残念。画面ばかりに気を取られて欲しくないからそうなっているらしいが、せめて30km/hくらいまでは映せるようにしてほしい。さらにヒルディセントコントロールも20km/hくらいで切れてしまうため、急勾配を下るシーンではもう少しサポートしてほしいようにも感じる。
リアデフロックのスイッチはインパネ下部に用意される
9インチWVGAディスプレイを備えるスマートフォン連携ナビゲーションは全グレードに標準装備。Android AutoやApple CarPlayに対応するとともに、マルチアラウンドモニター(移動物検知機能付)としても活用できる
ただ、いずれにしてもここまでのオフロード走行が可能ながらも、オンロードにおいての快適性をきちんと確保していたトライトンは、なかなか面白い存在だと感じた。最後にリアに座ってオフロードを移動してみたが、やや直立気味ながらも、快適性はまずまず。天井にサーキュレーターまで備わっており不快感が少ないのだ。これなら家族で使えなくもなさそうだ。あとは荷台をどう使うのか? テントを乗せてキャンプ? もしくは自転車やバイクを積んでオフロードに挑む? 色々と妄想が膨らんでいくワクワクできる1台だった。