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自動車記事を書く時の3つのポイント

自動車記事を書く時の3つのポイント

自動車記事の書き方、ポイントは?

 今回の編集部からのお題は「自動車記事の書き方」だそうだ。普段筆者はひとりで勝手にテーマを決めて書いているが、まれに編集部からテーマ設定が飛んでくることがある。このお題が面白いのかどうかはさておき、筆者からは出ない発想なのは確かだ。書けと言われれば書けないこともないので書いてみる。要は、“自動車記事はこう書け”みたいな烏滸がましいことを書くにつけて、あくまでも編集部の依頼であると言い訳しておきたいのだ。

 実は結論は簡単で、「面白けりゃなんでもいいよ」ということ。身もフタもないけれど、一番大事なのは面白いことだ。ただし制限がないわけではない。それは自分の書き手としての有り様である。例えば筆者は基本ゴシップは書かない。というか書きたくない。ゲスいのは嫌なのだ。

 批判をする時は真剣な愛か怒りをもってすべし。面白がってやらない。自分を立てるために書かない。それは筆者にとって最も重要なことだ。そしてたぶん大事なことは人によって違う。違うだろうけれど、文章を書くなんてもうからない仕事を、意に染まない形でやる必要はないと思う。

 で、そういう大方針の下に、「面白けりゃなんでもいいよ」が大事とだけ言っても、それでは編集部からの依頼に答えたことにならないので、現場のノウハウとして、原稿を書く上での、一応の手順というのを説明してみよう。基本形としては、自分がクルマの試乗に行く時の時系列を順に文字化していけばいい。

●対決の構図を作れ

 試乗に行くということは、そのクルマになんらかの興味があるわけで、それは必ずしも自分じゃない誰かでもいい。というよりは自分という尺度しかないと興味のないジャンルのクルマは書けなくなる。「これに乗る人はどうしてこのクルマに興味を持つのだろうか」というところがスタートだ。

 世間一般の普通の人は、クルマに興味を持って試乗に至る前に、ググっていろいろ調べるだろう。そのクルマを乗りに行くに至る理由や条件を、最初にちゃんと考察することだ。例えばCセグメント級のSUVがほしいとかBセグのコンパクトがほしいみたいなことだ。CセグSUVなら昨今それなりのお値段なので、値段に見合う高級感と装備。Cセグは今やベーシッククラスではないのでデザインも重要だ。これがBセグなら基準が違う。まずは道具としての正しさ、それに価格と経済性。その上での性能となるだろう。

 要するにそのクルマを見る角度を決めて、必要性能、差別化ポイントを比較できるように、「対決の構図」を作って、乗る前に分かる商品背景をちゃんと書く。ここが一番見識が求められる部分である。そして実は書く側がプロだったら編集者がここに関与して書き手と二人三脚でマッチメイクをする。それが編集企画になるわけだ。筆者の場合本人が元々編集者なので、それがワンストップでできるからひとりで回せるのだ。

 もう少し複雑なケースを見てみよう。例えば、趣味として、月に1回くらいクルマに自転車を積んで景色の良いところへ出掛けて、そこでサイクリングを楽しみたいというニーズがあったら、どういうクルマを選ぶか。

 日常使用から高速巡行性能から荷室容量まで一切合切の全部を求めるならトヨタ・アルファードのようなクルマになるだろうし、積載の部分に重きを置けばトヨタ・ハイエースになる。でもたぶん、自転車を積んで遠出したいという最初の動機に対しては、スタート価格が540万円のアルファードは高過ぎるし、WLTC8.1キロのハイエースは燃費がしんどい。しかもどちらも普段使いにはデカい。

 やりたいことは要するに「一人でやる自転車遊び」というところから見て、筆者なら想定するユーザーは、たぶん「子供が一緒に出かけてくれなくなったお父さん」を考える。まだまだ学費もかかるしそれほど豊かではないだろう。となれば、第一候補はスズキのソリオ、対抗でトヨタ・ルーミー。もう少しファミリーニーズが高ければホンダ・フリードやトヨタ・シエンタも入るかもしれない。

 あるいはもう少し懐事情が厳しいか、あるいはもう少しゆとりがあって2台目として軽自動車も候補に入れるならば、スーパーハイト系の各モデルも入ってくる。なんなら軽の最近のトレンドとしては、積載能力を上げ商用登録で維持費を抑えるモデル、例えばスズキのスペーシア・ベースあたりも選べるからだ。商用という意味ではさらに割り切れば、あえて軽トラにすればそれはそれでまたいろいろ使い道が広がる。

 こういうのを顧客のニーズと利便性でそれぞれグループ分けして取捨選択し「対決の構図」を考える。想定する価格クラスや、一番大事な荷室の寸法、シートのアレンジはどうなのか。要はどのクルマとどのクルマを比べるのかを決める。そしてその対決の構図を俯瞰(ふかん)して書くことがおそらくはスタートになる。

 構図の作り方はいろいろある。ソリオとルーミー、フリードとシエンタのように順当に真っ向対決のライバルをぶつけてもいいし、もう少し捻(ひね)ってそれぞれのクラスターから代表的なモデルを抜き出して、スペーシア・ベース対ソリオ対フリード対ハイエースの異種格闘技戦みたいな構造にもできる。そうやって構図を組むことが始まりだ。

 ドラマでも映画でもアニメでも、最初に主要人物の紹介と関係性を説明する。そういう機能を担うのが対決の構図である。対決の構図はよっぽどのことがない限り複数台が前提になるはずだが、構図はあくまでも構図。その構図を前提にクルマを検分する場合、何も全てのクルマを並べて書く必要はない。構図を背景に1台にフォーカスを絞って書くことも十分にある。

●時系列でチェックせよ

 さて、そして背景説明が終わったらいよいよクルマの話である。普通は初めてのクルマに乗る前にぐるっとクルマを見るだろう。だからそこから入る。大きさや印象がどうか。ただしデザイン論みたいな深みに入るのはここではない。というか深いデザインの話は機能の話と分けて、デザインそのものを主題として書かないと収まりがつかない。だから本当に第一印象でいい。思った通りのことを書けばいいのだ。

 次にドアを開けて座る。最初にすることはシート合わせ。それが済んだら、当然着座環境のチェックである。ペダルやステアリングのオフセット、シートの出来や視野のチェック。空間設計はちゃんと気持ち良いものになっているか。あるいは簡単な内装の印象もここに入る。

 エンジンを始動。BEVやHEVならインジケーターが点くだけで何も起こらないが、ICEならエンジンの振動や音を検分する。昨今のクルマはこの段階にならないとインパネモニターのデザインがチェックできない。なのでそこに気になることがあればここで触れる。

 走り出す時、一番肝心なのはトルクの出方だ。適切でリニアなものになっているかを確認する。ここがダメなクルマはたぶんその後どこが良くても厳しい。街乗りでノンストップはあり得ないので、停止から発進の度に違和感を覚えるからだ。そして駐車速度でのブレーキのリニアリティ、ちゃんとカックンとならずに速度の微調整ができるかどうかだ。リニアリティの話は過去記事に詳しく書いている

 道路に出たら、市街地速度で、もう一度トルクとブレーキをチェック。ステアリングのリニアリティもここで見る。路面の悪いところで、ステアリングコラムの剛性を確認する。ハンドルが振動をどの程度拾うか、そして操舵感は滑らかかどうか。

 それからはコース次第だが、もし多少なりとも曲がりくねった道があれば、路側の白線をトレースして走ってみる。むしろ本格的な山間地のワインディングより、川沿いの道路のような、ゆるやかで不規則な曲がり方かつ、制限速度が時速50キロ以下程度の道の方がハンドリングの良し悪しは分かりやすい。

 理系の人には周期と振幅が一定の屈曲路、例えば一般的なパイロンスラロームみたいなコーナーはNGと言えばいいだろうか。ショートカットしたりせず、左前輪が白線を正確になぞれるかどうかを確認する。ただし公道なので、線の上にタイヤを乗せると周囲のクルマからみて動きが怪しく、迷惑をかけるので、現実的には白線と左前輪の間隔を常に等間隔に保つようにするのだ。速度は出す必要なし。ゆっくりで構わない。何台か試すと、簡単にトレースできるクルマと難しいクルマがあることが分かる。

 信号の停止ではもう一度ブレーキのリニアリティを見る。駐車場で確かめた時より少し速度が高いはずだ。一般道の普通の速度で頭に描いたイメージ通りに減速するかどうかと、停止直前にカックンが来ないことの確認である。

 またそこそこ大きな段差があれば、というのは、例えばコンビニの入り口の歩道の段差とかでもいいのだが、少し斜めに昇降して、ボディ剛性を確認する。これは徐行速度でいい。速度制限の許す範囲での追い越し加速やスタート加速が足りているかも確かめる。

 最後はバイパスやできれば高速道路で、直進安定性をチェックする。自分しか乗らないのならいつも通りの運転でいいが、家人が運転したりするなら、修正舵を少し遅らせて修正を大きくしてみると、そこで反応が変わるクルマがある。これは自分が疲れて運転している時の状況を確認するためにも役に立つ。発着点に戻ったら、ユーティリティの確認だ。荷室や収納、シートアレンジはここで見る。

 という具合に基本、時系列で見ていくことになるのだが、これを全部ちゃんとやるとかなり長くなる。そういう時には対決の構図を前提にどこを端折るかを考えて削る。

 そしてクルマ全体の個別の検分が終わったら総論だ。全体を通して、どこに光るものがあったか、どこに欠点があったかを考えて、総合的に結論を下す。ここは素直さが大事。腕組み系のラーメン屋亭主みたいに苦虫を噛(か)み潰した苦言を書きたいのだとしたら、それをどこまで我慢してフラットに書くかに注力すべきだ。

●が、Webは違う

 というのが、紙媒体の時代の基本系だ。ベース技術としては変わらないのだが、昨今のようにWebだと少し話が違ってくる。雑誌はすでにお金を出して買っているので、最後まで読んでもらえるのが当たり前だが、Webは違う。読者が途中で飽きたら離脱してしまう。

 勝負は3回ある。まずは冒頭の掴(つか)みだ。ここで読みたい気持ちにさせることが一番大事。最近書いた中でいえば、『なぜ今、ロードスターがアップデート? そして990Sが消失したワケ』が一番分かりやすい。

 2015年のデビューなのでほぼ9年が経過したマツダ・ロードスターが大幅なアップデートを受けた。と聞いたら、普通はいくつか疑問が出るだろう。

・なんで9年も経ってからビッグマイナーチェンジをするの?

・ということは次期ロードスターはいったい、いつ出るの?

・何がどう変わったの?

といったあたりだろうか。

 ここで「この先でこういう話の答えが書いてありますよ。と予告して、知りたければ先を読むしかない形を作っている。今回の記事のようにタイトルに「3つのポイント」と掲げて、好奇心を煽(あお)るやり方もある。

 逆にGRヤリスについて書いた『ラリーで鍛えたらどうなったのか “真顔”のアップデートを遂げたGRヤリス』はごくプレーンに対決の構図から書き出している。ここでの構図は「新基軸VS.従来のクルマづくり」である。

 GRヤリスといえば「モータースポーツからのクルマづくり」というトヨタの新機軸でデビューしたクルマだ。ラリー車になった時のリヤウィングへの風の当たり方を考慮して市販車のルーフラインを決めるといった、従来あり得なかった作り方で設計されている。

 このあたりは、記事に対するある種感覚的なものだが、インパクトを盛りたい時には、冒頭を強くする仕掛けを組む。この記事にはそれがいるかいらないかは、定量的な話ではないので感覚的見積もりとしか言いようがない。

 ただしインパクトを強める方法はなんでもいいのだ。例えば書き出しが「なんだこのクルマは!」でもいいし、「いやこれは筆者の大失態である」でも「すごいクルマを作ったものだ」でもいい。掴む手段はいくらでもある。

 ただそれをやるには時系列の試乗レポートの一番キャッチーな部分を倒置して前に持ってこなくてはならない。その建て付け能力がないと難しい。そこはたぶん文章力を磨くしかないんだと思うが、いろいろやっているうちに手札が増えてくるはずだ。

●長い登り坂に配慮せよ

 そして、丁寧に記事を書いていると、複雑な事象の説明で、一カ所くらいは長い上り坂がやってくる。書いている方もここは辛いけれど、読む方だって辛い。こういうところで、読む側の負荷をどうやって減らすかは考えないとダメだ。ただぶん投げて端折(はしょ)るのは原稿として不誠実。原稿は商品なので、やるべきことはちゃんとやるのは当然だ。

 例えばヤリスの記事では、あえてリリースをそのまま抜き出して地色で区分し、なんならそこは読み飛ばしてもOKという作りにしてある。

 あるいは別の技法としては、そういう難しい説明文の途中で、突然筆者が黒子のように出てきて、例えば「あー、書いていても面倒臭い」のように、読み手が一回テンションを抜けるアクションを作る。長い上り坂に踊り場というか休憩所を入れるのだ。

 3つ目の技法は最後に「要するに」として、ここまでの論旨をまとめてリピートしておく。これはとても重要。書いた方は1文字も忘れていないが、長文を読んできた人は、最初に読んだことをいちいち記憶していない可能性が高い。特に筆者のように論理を積み上げた長い原稿を書く場合は「ここまで書いてきたことは全部頭に入れとけよ」という読者への要求は求めすぎだ。

 結論のために積み上げてきた前提を把握していないと、当然結論の意味が分からなくなる。そうならないためには、だからもう一度論旨のベースになるポイントをまとめ直すわけだ。これがないと結論で腹落ちできない人が増えてしまう。

 ということであらかたの話は終わりだ。そのほか、全体を通して、気を付けていることは「分かりやすい例え話」とちょっとしたウィット。硬い面倒な話ほど、そういうのを入れないと読む側が疲れる。

 ということで、編集部が書けというから原稿の書き方を思いつくままに記したわけだけれど、はてさてこれが誰の役に立つものやら。

(池田直渡)

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