日米データで証明
自動車事故が発生すると、女性のほうが負傷しやすいというデータが積み上げられてきている。
【画像】えっ…! これが60年前の「海老名SA」です(計14枚)
「米公衆衛生ジャーナル」に掲載の論文によれば、1998年から2008年に米国で発生した自動車事故データを分析したところ、シートベルトを装着していても重傷を負った確率は、女性のほうが男性より
「47%」
高かった(2011年11月28日付『Vulnerability of Female Drivers Involved in Motor Vehicle Crashes: An Analysis of US Population at Risk(自動車事故に巻き込まれた女性ドライバーの脆弱(ぜいじゃく)性:米国の危険人口の分析)』。
そして最近、日本の自動車事故データからも同様の男女差があることがわかった。毎日新聞が、警察庁の2013(平成25)年から2022年までの事故データから、正面衝突や出合い頭の衝突で車の前面をぶつけた、シートベルト着用の運転手、計178万6680人(男性121万4032人、女性57万2648人)の負傷状況を分析した。
「1.45倍」
だった。1年ごとにみても、その数字は1.43~1.47倍であり、大きな差はなかった(2024年3月8日付)。
男女差の損傷パターン
女性ドライバーのイメージ(画像:写真AC)
女性は男性よりも自動車事故で死亡する可能性が高いという、米道路交通安全局 (NHTSA)による衝撃的なデータさえある。なぜ女性のほうがけがを負いやすいのか。さまざまな要因が考えられるが、特によく挙げられるのは、
・体のつくりの違い
である。
日本国内の女性がメインターゲットの軽自動車のなかには運転席が日本人女性の平均身長に合わせたサイズ感になっていることもあるが、多くの車は男性サイズで設計されている。
例例えば、女性が(男性向けに設計された)一般車に乗っていて事故を起こした場合、首や筋肉が細いなどの体のつくりもあるが、ヘッドレストの位置が適切でないため、むち打ち損傷になる可能性が高いといわれている。
2022年に国際医学雑誌BMJオープンに掲載された英プリマス大学病院の論文でも、自動車事故におけるけがの男女差について述べられている。それによれば、
・男性は頭、顔、胸、四肢の損傷が多く
・女性は腰や脊椎の損傷が多い
運転パターンなども関係してくるのだが、男性の場合、正面衝突による事故が多く、運転席に座る可能性が高いため、ハンドルやエアバッグに当たることで負傷する可能性が高い。女性が腰や脊椎の損傷が多いのは、それらの箇所が側面からのダメージに弱いところ、側面衝突が多いことが関係していると考えられる。
ダミー人形の問題、女性のリスク
女性の場合、けがの箇所のせいで、また(男性に比べ身長が低いことが多いため)座面を前にひくので、ハンドルとの距離が近くなり、自身で脱出ができず、事故車のなかに閉じ込められる可能性が高くなることもわかった。
・女性:16%
・男性:9%
研究に携わった顧問麻酔科医のローレン・ウィークス氏は、自動車メーカーの衝突実験に使うダミーの女性人形の問題ついて指摘している。ダミーの女性人形は小柄で、骨盤が12歳の少女レベルの小ささである。実際の成人女性の骨盤は大きいので、ドアとの位置関係が違ってくるからだ。
このダミー人形については、以前から問題視されてきた。日本や欧州が用いる、国連による国際基準では、車の前面をぶつける衝突実験には平均的な成人男性のダミー人形を使うようになっていた。米国では、女性のダミーも用いているが、全種類のテストに使われることがない。
しかし2022年に、スウェーデンのリンシェーピングにあるスウェーデン国立道路交通研究所のアストリッド・リンデ博士率いる研究者グループが、リアルな女性の体格のダミー人形をつくった。身長162cm、体重62kgで仕上げられている。これは衝突実験がはじまってから50年以上経過しているが初めてのことである(2023年9月12日付、米『Forbes』)。すでにボルボ社の実験に使われているのだという。
ボルボはすでに、むち打ち損傷になるリスクの男女差を解消したシートとヘッドレストを採用している。トヨタの場合、ダミー人形では損傷の分析が難しいとして、バーチャル人体モデルを開発し、他社にも無償提供している。
身長や体格の違いは大きいので、ユニバーサルデザインの難しさは理解できる。しかし、よりサイズを調整しやすい本体の開発であるとか、純正の付属品で対応するなど、交通事故で弱者が出ないようにしていってもらいたいものである。