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日本で初開催された「フォーミュラE」は大盛況で終了 なぜ成功!? 東京の公道を走ったレースの魅力と今後の課題とは

東京の市街地を走る初の公道フォーミュラレース

 東京・有明地区に突如として誕生した全長およそ2.6kmのコースは、世界中のF1サーキットを設計してきた「ティルケ・エンジニアズ&アーキテクツ」が手がけたもの。当然、安全性などは国際自動車連盟(FIA)からのお墨付きを得ていますが、いわゆる市街地サーキットのため、事前に走ることは許されません。

 つまり、日本初開催となるフォーミュラE東京大会は、シリーズ参戦する22名のドライバーにとってぶっつけ本番の戦いでもあったわけです。

【画像】東京・湾岸地区の公道でレース!? 初開催された「フォーミュラE」を写真で見る(20枚)

日本で初開催された「フォーミュラe」は大盛況で終了 なぜ成功!? 東京の公道を走ったレースの魅力と今後の課題とは

フォーミュラE日本大会は、予選2番手だったマセラティMSGレーシングのマクシミリアン・ギュンター選手(ドイツ)が優勝

 もっとも、だからといって彼らは何の準備もしないで東京にやってきたわけではありません。

 東京大会までの4レースを終えてチームとドライバーの両選手権でポイントリーダーに立っていたジャガー・レーシングのジェイムズ・バークレー代表は、レース前の金曜日にこんな話を聞かせてくれました。

「事前にコースをライダー(LiDAR)でスキャンしたデータが各チームに提供されたので、私たちはこのデータをもとに、コンピューターシミュレーター上にコースを厳密に再現し、様々なトレーニングを積んできました」

 電動フォーミュラカーで各国を転戦する世界でただひとつのレースシリーズ「フォーミュラE」は、私たちが想像するよりもはるかに精密な戦いが繰り広げられるモータースポーツのようです。

 ちなみに、いま申し上げたスキャンデータはコース形状を3次元で正確に計測したもので、単に路面の状態だけでなく縁石やクラッシュバリアの形状まで判別できるとか。実際のレースウィークでは、最初のプラクティスから各ドライバーがバリアすれすれに走るシーンが見受けられましたが、そんな神業のようなテクニックを披露できたのも、事前のシミュレーション走行が功を奏したからといえるでしょう。

 もっとも、フォーミュラEドライバーの“神業テクニック”は、これだけに留まりません。

 Gen3と呼ばれる現行型のフォーミュラEカーには実質52kWhのバッテリーが搭載されていますが、決勝レースにはこのバッテリーを満充電にして臨むわけではなく、大会ごとに「スタート前の最大充電量」が定められていて、東京大会の場合は32kWhとされました。

 電力量を示すkWhで言われてもピンとこないので、これを同じエネルギー量のガソリンに換算してみると、たったの3.4リッターでしかありません。

 いっぽうで今回のレース距離は90.4kmだったので、単純に計算すると燃費は26.6km/Lに相当します。もっとも、モーターの効率は内燃機関の2倍程度とされるので、これを織り込むと燃費は13km/Lほどだった計算になりますが、1周2.6kmで20ものコーナーがある曲がりくねったコースを平均速度約100㎞/hで走りながら、13km/Lで走る芸当はなかなかできるものではありません。

 このためドライバーは電費を稼ぐための様々なテクニック、たとえばストレートの後半では敢えてスロットルを戻してコースティングをするとか、できるだけ他のクルマを追走することで空気抵抗を減らすなどの技を駆使しているはずです。

 しかも、フォーミュラEマシンにはトラクション・コントロールがありません。

 したがってムダにアクセルペダルを深く踏み込んでタイヤを空転させれば、それはエネルギーロスに直結します。そこで、各ドライバーはタイヤをスリップさせないように細心の注意を払いながら、毎ラップ10分の1秒、いえ100分の1秒を削り取る努力を重ねているのです。その正確さと集中力の高さには驚かざるを得ません。

日本で初開催された「フォーミュラe」は大盛況で終了 なぜ成功!? 東京の公道を走ったレースの魅力と今後の課題とは

東京・有明の東京ビッグサイト周辺の公道を全長約2.6kmのコースとして使った初開催のフォーミュラE

 さらにいえば、レース終盤に突如として発表されるアディショナルラップの存在も、ドライバーやチームにとっては悩みの種でしょう。

 これは、レース中に行われたセーフティカーランやフルコースイエローの時間に応じて、本来の周回数にくわえて2、3周ほどが追加されるもの。しかも、ドライバーたちはフィニッシュの瞬間にバッテリー残量をゼロとすることを目標としているのに、アディショナルラップは最後の最後で発表されるのですから、これによってレース中のペース配分がさらに難しいものになるのは間違いないはずです。

 そしてフォーミュラEのドライバーたちは、こうした繊細なドライビングを続けながら、金網に囲まれた狭いコースのなかでライバルたちと競い合わなければいけません。しかも、今回のレースでも接触事故は2、3回ほどしか起きなかったので、ドライバーたちがいかに緻密な運転しているかがわかるでしょう。

 そんな白熱したレースが繰り広げられるコース上と、観客が陣取ったグランドスタンドの間には、たった1枚の金網しかありません。しかも観客席とコースの距離が、通常のパーマネントコースに比べればはるかに短いので、観客は実にエキサイティングな光景を目の当たりにできるのです。

都心からすぐ近く アクセスも良い場所での開催 今後の課題は?

 私は決勝レースを観客席から取材しましたが、私の周囲に腰掛けていた20〜30代と思しきファンの方々は誰かがアタックを仕掛けたり、緊迫したサイド・バイ・サイドが行われるたびに大歓声を挙げ、大いにレースを楽しんでいるようでした。

 ちなみに、8000席とも1万席ともいわれた観戦席は、1月と3月の2回にわけて販売されましたが、2回とも販売開始からわずか数分で売り切れたとのこと。これもまた、フォーミュラE東京大会が成功裏に終わったことを示す証拠といえるでしょう。

 そうした、ある種の“熱気”が主催者や開催地である東京都にも伝わったらしく、両者は今後5年間の開催に関する契約書にサインしたとの噂を耳にしました。つまり、関係者は本大会を成功と捉えているのです。

日本で初開催された「フォーミュラe」は大盛況で終了 なぜ成功!? 東京の公道を走ったレースの魅力と今後の課題とは

オープニングセレモニーには小池百合子東京都知事(写真右から4番目)のほか岸田文雄首相(写真左から4番目)も訪れた (c)Formula E

 私も、ビジネス視点でいえば、今回のフォーミュラEは大成功だったと考えています。

 なにしろ、先ほど申し上げた8000席ないし1万席のチケットは、その大半がフォーミュラEに参戦する自動車メーカーなどによって買い占められたそうです。シリーズにとって最大のスポンサーでもある自動車メーカーがここまで強い関心を示したことは、とにもかくにもレースが成功だったことを意味しています。

 このため、来年は観客席を増設して3万人程度の来場を見込む計画もすでに浮上しているようです。

 さらには、すでにワークスチームを率いてフォーミュラEに参戦している日産に加え、ヤマハ発動機がイギリスの名門レーシングコンストラクターであるローラと手を組み、フォーミュラEに出場するチームに電動パワートレインを供給する計画が明らかになりました。

 

 今後も日本企業がフォーミュラEとの関わりをさらに深めていく可能性は決して小さくないように思います。

 私は、既存のモータースポーツとはまったく異なるフォーミュラEが成功を収めることは、自動車産業のためにもモータースポーツ界全般にとっても好ましいことだと受け止めています。なぜなら、それはファン層の拡大に確実に役立つからです。

日本で初開催された「フォーミュラe」は大盛況で終了 なぜ成功!? 東京の公道を走ったレースの魅力と今後の課題とは

国内メーカーの「日産」が唯一参戦しているフォーミュラEということもあり、東京開催は盛り上がりを見せた

※ ※ ※

 いっぽうで、心配もあります。

 有明に作られたコースは安全性こそ高いものの、追い抜きは極めて難しいようで、決勝レース中のオーバーテイクは数えるほどしか見られませんでした。

 初開催となった今回はこれでもいいかもしれませんが、同じようなレースが2度、3度と続けば、観客から飽きられる可能性も低くないように思います。できれば、現状の安全性を維持しながら、もう少しオーバーテイクがしやすいコースに改修することを期待したいところです。

 また、チケット販売を自動車メーカーなどの“まとめ買い”に頼らず、ひとりひとりのファンに購入してもらうためには、事前の告知をもっと充実させる必要があると思います。

 ちなみに、フォーミュラEが開催されるとの広告を事前にご覧になった方は、どのくらいいらっしゃったのでしょうか? 私は、ごくわずかだったのではないかと想像しています。それくらい事前の告知は不足していたというのが私の見方です。

 東京ビッグサイトの建物とレーシングコースを隣接するように設けたレイアウトには感心させられましたが、会場内の案内が不十分だったことは気になりました。どこでチケットを手に入れて、どこに向かえば観客席やパドックがあるのか。そういう案内が、コースのすぐ近くまでこないと見つからないことは大きな問題だと思います。

 いずれにせよ、都心からすぐ近くの、地下鉄でアクセスできる会場でレースを観戦できるフォーミュラEは大きな可能性を秘めたレースイベントです。東京都を始めとする関係者の方々には、その可能性を生かし、フォーミュラE東京大会を立派なイベントに育て上げていただきたいものです。

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