ある現象が、 暗い田舎道や交通量の多い市街地、州道などを走る全米のドライバーの怒りを買っている。 ヘッドライトが明るすぎることだ。
「この冬、驚いたことに、3台に1台はそうだった」。米ワシントン州ウィドビー島在住の引退した看護師、バーバラ・バンフィールドさん（67）はそう話す。
バンフィールドさんはある夜、明るく照らされた州道を走っている間に目がくらんだように感じた。彼女は最初、ロービーム（すれ違い用前照灯）に切り替えずにハイビーム（走行用前照灯）をつけている、配慮に欠けたドライバーが多すぎるのだと思った。
「次に、まぶしい光は色が違うことに気づいた。非常に白かった」と彼女は言う。「小さな黄色がかったヘッドライトをつけた、やや年代物の車とすれ違うときは気にならない。そこに原因があるのではと思い当たった」
バンフィールドさんは現在、夜間の運転時にはブルーライトをカットする特殊な眼鏡をかけている。「オタクみたいだ」と彼女は言う。
LEDヘッドライトを装備した車の数は近年、着実に増えている。それに伴い、ドライバーの不満は募る一方だ。調査会社トレンドフォースの分析によると、2020年には米国の新車の54％にLEDライトが使用されていたが、2023年には76％に上昇していた。
自分の目のせい？
LEDライトはハイビームと勘違いされやすい。対向車のドライバーは「ハイビームだぞ、気を付けろ」と言わんばかりに自分の車のハイビームを点滅させてくる。だが実際はそうではない。ライトが非常に明るいだけだ。光軸がズレている可能性もある。
突然ヘッドライトが目を射るようになったせいで、ドライバーは眼科で検査を受けたり、車内で1人の時にののしり言葉を吐いたり、50歳になる前から夜間の運転は年齢的に厳しいのかと疑念を抱いたりしている。
一方で、LEDライトは問題がなく、むしろ良いと断言する人々もいる。歩行者など前方にあるものが見やすいのは利点だ。
その主張によると、真の問題はヘッドライトを照射する角度にあり、全てのドライバーが光軸調整をするべきだという。また、LEDライトを使うドライバーの中にも気分を害する人々がいる。相手がまぶしいのは分かるが、どうしようもないことだと理解してほしい、ハイビームの点滅をお願いだからやめてくれ、と思っている。その行為によって自分たちが見づらくなるからだ。
オレゴン州のポートランド・コミュニティーカレッジで教えるミシェル・クリスティアーニさん（50）は対向車のヘッドライトに悩まされ、自分の目に問題があると思い込んでいた。
彼女が眼科医にまぶしさの原因を尋ねると、加齢の影響ではないかとの答えだった。だが、彼女の10代の子供たちも対向車のヘッドライトに文句を言うことがある。
「皆が一様に『まぶしい』と言って（光を遮るように）両手を挙げる」と彼女は言う。
クリスティアーニさんは愛車である2010年型マツダ車のヘッドライトをLEDに交換しようと思いついた。「明るいライトにすれば、私の前方も明るくなると思った。まるで軍拡競争のようだが」。結局、夜間に通勤する必要がなくなり、このアイデアは没になった。
位置の問題？
自転車愛好家もLEDに苦労している。サイクリングの際、LEDヘッドランプを頭に着ける人もいれば、車体前部にLEDライトを取り付ける人もいる。最悪なのは両方使いながら照射角度が合っていない場合だ。オリンピックに出場したことがある元競輪選手のトニー・クルーズさん（52）はそう話す。
クルーズさんはカリフォルニア州ロングビーチの小道をサイクリング中にまばゆい光が目に入り、たまらず停車したことを思い出す。
マウントサイナイ・アイカーン医科大学のマーク・レア教授は、LEDライトが不快な一因は位置関係にあると言う。レア氏は同大の「光と健康研究センター」に在籍する。同センターの支援金の一部は自動車メーカーや関連する部品メーカーなどが提供している。
レア氏によると、ヘッドライトの調整不良がまぶしさの主な原因であり、SUV（スポーツタイプ多目的車）やトラックの高い位置にあるヘッドライトが、車高の低い車とすれ違う際にまぶしさが顕著になるという。
車載LEDライトは従来のハロゲンに比べて約60％明るく、道路（特に周辺部）をより明るく照らすのに適している。だがレア氏を含め一部の人々には問題を引き起こす。
「私は気になるが、どの車もそうだとは限らない」とレア氏は言い、まぶしく感じる車は全体の約20％と推計する。同氏の愛車は車高の低いスポーツカーだ。
納得しないドライバー
レア氏によると、最近登場したアダプティブ・ヘッドライトが広く導入されれば、まぶしさは軽減されるはずだという。センサーが働いて光の照射角度を切り替えるもので、米運輸省道路交通安全局（NHTSA）が2022年にこのライトを承認した。
広報担当者によると、同局の基準では対向車や先行車に向けられるヘッドライトの明るさ（光度）を引き続き制限しているという。
だが、サウスカロライナ州在住の機械エンジニア、ビクター・モーガンさん（41）は納得していない。彼は1年余りにわたってNHTSAが定めた要件について調査している。山道を長時間ドライブしたのを機に、ヘッドライトに悩まされるのは加齢のせいなのか疑問を抱いたからだ。
モーガンさんはダッシュボードに光度計を積んで対向車156台のヘッドライトの光度を測定し、NHTSAが定める要件の内容を分析した。彼が導き出した結論はこうだ。「現実世界のまぶしさはNHTSAの最大光度をはるかに超えている」
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