VGP2023を席巻! Polk Audioのスピーカーが世界中で評価される理由
2020年に日本に再参入したアメリカトップシェアを争う「Polk Audio(ポークオーディオ)」。 創業当時から「学生でも買える最高のスピーカー」を開発理念に掲げており、その高いコスパからVGPアワードを席巻! ピュアオーディオのパッシブスピーカー全14部門で最多の5モデルが金賞を受賞。その理由を解説します。
この2年間で日本市場でめざましく台頭したハイファイスピーカーブランドがある。アメリカのPolk Audioだ。同社は1980年代にいちど日本に導入されている。トップブランドにかけ上がったスピーカーの日本上陸は、当時オーディオ専門誌をおおいに賑わせた。
当時、若いいちオーディオファンだった筆者は、そのブランド名に疑問を感じた。PORKでなくPOLKで、それが青年創業者の名であるとは、知る由もなかった。日本に上陸したものの、大手総合商社の輸入販売だったことがマイナスに作用した。オーディオのブランディングは一朝一夕に成らないが、地道なプロモーションは算盤勘定に合わなかったのだろう。数年で撤退し、ながく不在が続いていた。
その間海外では、Polk Audioの躍進は休むことがなかった。2012年には北米でトップシェアを争うまでに成長。2019年にはヨーロッパ市場にも再参入し、EISA AWARDを受賞している。
Polk Audioは、ジョンズ・ホプキンス大学で物理を学ぶ3人の大学生が「自分たちが購入できる最高のスピーカー」をめざして1972年に起業した。スピーカーサイエンスに立脚した理詰めの開発手法からも、アメリカのニューウェーブスピーカーの一社だが、ハイエンドになることを潔しとせず、ミュージックラヴァーの伴侶を忘れなかった。音楽大国北米のスピーカー市場は日本で想像がつかないほど大きい。いいものを安く、が多販効果で可能なのだ。サイエンスと音楽性が両立したスピーカーをリーズナブルな価格で提供するという、初心に根ざした良品思想をいまも貫く。
Polk Audioの創業メンバー
日本への再上陸にあたり、同社の広いレンジの中から選ばれたのは、「Signature Elite」(シグネチャーエリート)シリーズと、上位機種の「Reserve」(リザーブ)シリーズ。D&M;の努力で着実に信頼を獲得しており、評論家と販売業界合同の投票で選ぶアワード「VGP2023」で5機種が価格セグメント別ランキング1位に選ばれた。
その中で、コンパクトブックシェルフ「R200AE」の審査員特別賞受賞が光る。創業50周年にあたって開発されたアニバーサリーモデルで、音の良さが審査員に感銘を与えたのである。
50周年モデル「R200AE」が審査員特別賞を獲得した(すでに限定数終了済み)
オリジナル技術の結晶「Reserve」
まずR200AEのベースになった「R200」から紹介しておこう。高域ユニットにピナクルリングラジエーター、低域ユニットにコンピューター解析で生まれた振動板形状のタービンコーン、さらにXポートテクノロジーを備えバスレフポートとエンクロージャーの不要共振を排除するなど、小なりとも同社のテクノロジーが凝縮した、Reserveシリーズのコンパクトブックシェルフだ。
「R200」
クラシックピアノ曲の響きの忠実性は最前線インターナショナルだが、母国音楽のジャズを聴くとやはりアメリカのスピーカーだ。音離れが良く、ボーカルが飛んで来る。リングラジエーターはレスポンスの良さがわかるし、ビッグバンドの金管が頭打ちにならず歪まず明澄で、快活さが魅力的。アコースティックベースが太く、ブンブン鳴る低域に重点を置いたエンクロージャー設計である。
このR200のネットワークに、ポリプロピレンフィルムコンデンサーと空芯コイルを使い、グレードアップしたのがR200AEだ。キャビネットの仕上げも、板厚の厚いMDFをプレミアムビニールシートで覆うR200とは異なり、突板仕上げを採用。背面にマシュー・ポークのサイン入りシリアルプレートが付く。
クラシックピアノ曲は厚みと力強さが増していて、細かいパッセージの粒立ち、音の輪郭の鮮明さも向上。ジャズヴォーカルはベースモデルの華やかさに比べ落ち着いてしっとりしたバランスで、R200より一回り大きな音楽を聴かせる価格だと疑わせる密度だ。しかし残念ながら世界1000本の限定生産で、日本向けの150本はすでに売れてしまって買えないということだ。
ベースのR200がポテンシャルを秘めているからこそ、それを高めたR200AEが魅力的になる
「スピーカーシステム/フロア型(ペア20万円以上30万円未満)」部門で金賞に輝いた「R600」。 2.5ウェイのフロア型でピナクルリングラジエーター、タービンコーンを採用。エンクロージャー底部にポートを持つダウンファイアリング方式だが、ポートノイズ(風切り音)を減らす設計(パワーポート2.0)がこらされている。
「R600」
ビッグバンドの金管は光沢があるが、下品なきらびやかにならず、のびやかでウォーム、音が決して籠らない。低域の量感はもはや圧巻。対容積でこれだけ量感を得ているスピーカーシステムは少なく、設置場所の条件次第でやや持て余すかもかもしれない。
ベスト・イン・クラスを実現「Signature Elite」
金賞5部門のうち、3部門がエントリーラインのSignature Eliteであることに注目しよう。同シリーズは、現在の同社ラインアップの中核である。前モデルの「Signature」(2016年発売)は、北米と欧州で市場別にチューニングしていたが、今回はそれを廃止し、グローバルでサウンドを統一している。
Signature Eliteでは、テリレン・ドーム・トゥイーターとポリプロピレンにマイカ(雲母)を加えた中低域ユニット、独特のパワーポート構造をSignatureから引き継ぐ。一方でウーファー、エンクロージャー、ネットワークに改良が加えられ、ダイナミック・バランス・ドライバー設計プロセスでウーファーの動特性を解析し再設計した。
この世界統一モデルが、耳の肥えた日本市場に捲土重来を果たし、3機種がVGP2023金賞に輝いた。まずコンパクトブックシェルフの「ES20」は、「スピーカーシステム/ブックシェルフ型(ペア10万円未満)」部門で金賞を受賞。シリーズの上位ウーファー16.5cmを搭載し、サイズを越えた表現力を備えている。
「ES20」
新世代らしく音場にスケール感があり帯域が広く、音場感や音圧が豊か。なりはコンパクトだが、音楽を省略せず堂々と鳴らす。また、インターナショナルモデルだけに音楽もボーダーレス。ジャズヴォーカルのライブは、音場のデプスとステージが現れ演奏の熱気がたちこめ、クラシック管弦楽曲は低音の確かな支えでスケールが大きくリズムの揺れが心地よい。バスレフポートの優れた設計で音量を上げても付帯音がなく、いいブックシェルフだ。
フロア型の「ES50」についても、「スピーカーシステム/フロア型(ペア10万円未満)」で金賞を受賞。13cmウーファー2発をスタガー駆動する2.5ウェイでバスレフポートは底部に開口する。この “パワーポート” の効果は大きく、音場の重心が下がり自然で力みがなく、聴き手を包み込むようにナチュラルサラウンドにする。ジャズのライブは、アコースティックベースの量感がしばしば過剰なくらいで、セッティングに工夫が必要かもしれない。
「ES50」
そして激戦区の「スピーカーシステム/フロア型(ペア10万円以上20万円未満)」部門でも、フロア型の「ES60」が金賞を受賞した。このモデルはSignature Eliteの最大最上位で、16.5cmウーファーを3発搭載。ES50/55のダブルウーファーがスタガー駆動であるのに対し、本機は3基をカスケードドライブしている。パワーポートといい、音楽の土台についてPolk Audioのこだわりがうかがえるスピーカーだ。ウィーンフィルの金管が目覚め、弦楽が低音の土台を得て大河のように鳴り、ジャズのウッドベースはよく粘って最低域まで明瞭に出し切る。
「ES60」
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Signature Eliteシリーズは手頃な価格で投入されているが、入門者用と考えてはいけない。インターナショナル・イコール・ノージャンルである。ミュージックラヴァーにわけへだてなく寄り添うこのスピーカーにPolk Audioの初心が息づいている。
ReserveとSignature Elite。創業から50年、サイエンスに立脚し、たゆまぬ技術革新でフロントラインに立つ同社の技術と感性のエッセンスがふたつのPolk Audioに凝縮されている。VGPで5つの金賞は当然の成果といえよう。
(提供:ディーアンドエムホールディングス)
本記事は『VGP受賞製品お買い物ガイド』からの転載です。掲載にあたり加筆・修正を行っております。