カスタムバンでの車中泊にハマるかたわら、昨今ブームのカーシェアアプリを活用して、ちょっと敷居の高い車に乗ってみる……令和の多様なカーライフの楽しさをコラムニスト・佐藤誠二朗氏が語る。
自分ではなかなか手が届かなさそうな、
憧れ感の強い車でも気軽に楽しめるカーシェア
車好き、というより車の運転と車遊びが好きな僕は、ど庶民であるうえに、公共交通機関の発達した東京都内に住みながら、「バカだね〜」という世間の目に耐えつつ、現在は2台の車を持っている。
メインカーとして仕事にプライベートに乗り倒しているスバルのSUVと、最近の趣味である車中泊の旅専用に使っているスズキの軽バンだ。
そのうえ、Anycaというカーシェアリングサービスに、利用者登録までしている。
カーシェアを利用する理由は人それぞれだろうが、僕の場合は“人生で一度は乗ってみたい車”を楽しむのが目的だ。
Anycaとは、車をシェアしたい個人と車に乗りたい個人とを結ぶ役割を基本とするサービス。
それだけではなく、カーディーラーが持っている試乗車や法人オーナーの車、またAnycaの経営母体であるDeNA SOMPO Mobilityが所有する車を利用する形など、様々な形態のカーシェアを一元管理のシンプルな手続きでおこなえる。
Anycaには普通のカーシェアやレンタカーサービスでは見かけないような、ややレアな車も多数ラインナップされているので、選ぶ楽しみが大きい。
まさに、自分では即購入するという決断までにはいたらないものの、人生でいちどは乗ってみたい車を見つけるのにうってつけのシステムなのだ。
そんなわけで今回、僕がAnycaを通して期間限定で手にいれ、師走の街を乗り回したいと思ったのは、バリバリのスポーツカーである。
当面のところ自分では買う予定も予算もないが、たまには乗ってみたい高級スポーツカー。
それもできるだけ通好みの、松田聖子いや松本隆流でいうところの“グッと渋いSPORTS CAR”を求め、Anycaのスマホアプリで検索を開始した。
すると国産車からヨーロッパ車、アメリカ車までたくさんのスポーツカーがヒット。
その中から自分の好みや、日程などの貸出条件から少しずつにふるいにかけていく。
そしてロータス・エキシージ、ルノー・アルピーヌの2択にまで絞り込み、最終的にはエキシージに決定した。
エキシージといえば、エリーゼと並びロータスが誇る、完全に本気モードのめちゃくちゃイケてるスポーツカーである。
※車の専門ライターではないので、ボキャブラリーに乏しくてすみません。この先もマニアさんからみると「それはどうか」と思うような表現が多々あると思いますが、どうかお目こぼしを。
スポーツカーに関してはど素人の僕が、「どれどれ、どの車に乗ってやるかな」などと、偉そうに上から目線で選べるのも、このカーシェアサービスの醍醐味かもしれない。
初めて体験する、マジなスポーツカーの圧倒的な走り
英国流ミニマリズムに基づく、ライトウェイトスポーツカーを主力とするロータス。
以前からとても気になっていた、憧れの車メーカーだ。
ただしロータスの車はどれも、ストイックな純・スポーツカーであることを知っていたので、自分とはなかなかご縁がないのだろうとも思っていた。
それが、こんなに気安く乗れるなんて。
アプリで見つけたロータス・エキシージの保有者は、西武池袋線小手指駅近くのカーディーラー、ロータス所沢だった。
まったくもって個人的な話で恐縮だが、お店の場所は僕の出身大学のキャンパスのすぐ近く。
土地勘があったし、訪れるのが楽しみでもあった。
お世話になったロータス所沢
思えばその大学は、車通学が許されていた。
だから僕はかれこれ30年以上前の学生時代、毎日毎日、自宅から40分ほどドライブして大学に通っていた。
車を運転するのが大好きになったのは、その頃からだったのだ。
ご対面したロータス・エキシージSは、非常に車高が低く、コンパクトながらグラマラスなボディを持つ車で、いかにも速そうなルックスだった。
リアに積まれた総排気量3456ccのV6エンジンは、最高出力350ps(馬力)とやる気満々。
僕が普段乗っている2016年式のスバルXVに搭載されている水平対向4気筒エンジンは、2000ccの150psだから、エキシージはそれにプラスすること馬200頭分のパワーを持っているのだ。
たてがみをなびかせながら草原を疾走する200頭の馬軍団を頭に思い浮かべ、少し背筋がゾッとしてしまった。
恐ろしくハイスペックなエキシージのエンジン
スポーツカーにはほとんど乗ったことがない旨を、正直に店の人へ伝えると、乗り方のコツなどを簡単にレクチャーしてくれた。
ただ今回のエキシージはオートマティック仕様なので、それほど心配することもないのだろう。
エキシージの後部。シェアカーなので「わ」No.ではないところが地味に嬉しい
店の人と一緒に外回りのチェックをした。
車はまったくの無傷で、ピカピカだったので緊張感はより高まったが、保険にバッチリ入っているので大丈夫だ。
アプリ上で各種項目にOKのチェックを入れたら、いよいよ運転席に乗り込む。
ドアを開けてもらったので、スマートに乗り込もうと思ったのだが、ここで一苦労。
とにかく走りを優先してあらゆるところを絞り込むように設計されているエキシージは、開口部が狭く、そうやすやすとは中に入れないのだ。
乗るのに一苦労だった運転席
カバン芸を披露するエスパー伊東になったような気分でようやくバケットシートに落ち着くと、キーを回してエンジンをかけた。
ブオン!と痺れるようなエンジン音が鳴り響く。
これですよこれ!
ウッヒョー、かっこいいと目を輝かせるおっさんを、ロータス所沢の方は温かい目で見守ってくれていた。
ああ、なんだかちょっと恥ずかしい。
ロータス所沢を出ると、10分ほど走った先にある我が母校のキャンパス方面へ向かった。
まずどこかの駐車場に停めて一旦落ち着き、車の機能を確認したり、写真を撮ったりしたかったのだ。
でもその10分ほどの走行ですでに、この車のヤバさは十分に伝わってきた。
走りに特化してシンプルを極めるインパネ
加速感がすごい! エンジン音でか! ハンドル重! サスがカチカチ!
そうかー、これが本物のスポーツカーなのね、と味わいながら走っていたら、気分が次第に高揚していくのだった。
我が母校の駐車場に停め、改めてご対面
所沢周辺で確かめたエキシージの実力
卒業した学校に、バカうるさいエンジン音を響かせて派手な車を乗り付ける行為って、なんだっけ? 確か、専門用語があったよな。
そうそう「お礼参り」だ。
などと最近の若者には通じないようなことを考えながら、キャンパスの駐車場で写真を撮り、ついでに学食に侵入してきつねうどんを食べたりして気を落ち着けた僕は、多摩湖・狭山湖沿岸のワインディングロードで本格的にエキシージの走りを味わってみた。
怖いから大してスピードは出さなかったが、非常にスポーティな走りをするエキシージにワクワクが止まらなくなってしまった。
特にDPM(ダイナミック・パフォーマンス・マネジメント)のスイッチを「+」に回して“スポーツモード”をオンにすると、アクセルもブレーキも反応がピンピンになり、レーシングカーを操っている感覚に陥った。
DPMスイッチを「+」に捻ると、「SPORT」モードがオンになる
でもこのへんは走り屋さんも多い土地柄で、目をつけられたら怖いから(ひたすらビビっている)早々に切り上げ、下道で世田谷区の自宅を目指すことにする。
余談だが僕が学生の頃、このへんを当時の愛車のフォード・フェスティバで走っていたら、真っ赤なフェラーリ・テスタロッサの後ろにつけたことがあった。
近くには西武球場があって、そこに来る野球選手を見かけることも多かったが、テスタロッサを見てすぐに気がついた。
まだまだ西武ライオンズの若手選手だったその頃の清原が、テスタロッサに乗っていることは有名だった。
助手席に乗っている友達とともに「よし! 清原を追え!」と盛り上がったが、テスタロッサと僕のフェスティバではもちろん勝負になるわけもなく、あっという間に振り切られたっけ。
以上、余談終わり(まあ、このコラムはすべて余談ですけど)。
クリスマスイルミネーションがきらめく街に似合うスポーツカー
夕方、エキシージに乗って家に着いた僕は、まず中2の娘を助手席に乗せて、近所を軽くドライブした。
娘はその加速感を「あんまり怖くないジェットコースターより怖い」という独特の表現で評しながら、初めて乗ったスポーツカーの感覚を楽しんでいたようだ。
加速感にビビる
そして娘が塾に行ったあとは、クリスマスイルミネーションがキラキラときらめく宵の口の街を、妻とドライブした。
きらめく街のイルミネーションとエキシージ
この車のシェアリミットは24時間なので、本当は夜中の首都高や東名をいっぱい走ってスピードを楽しもうかとも考えていたのだが、どうも僕にはオーバースペックすぎて、そこまでやる勇気は出なかった。
スポーツカーだからといって、無闇に早く走る必要はないのだ。
こうして非日常的な車に乗って、ゆっくりと街を走るだけで、目に入る風景もいつもとは違って見え、なんだかとても楽しい。
絵になる車
翌日の午前中、返却のため世田谷から所沢を目指す。
せめて少しは高速走行をしようと思い、関越自動車道の練馬から所沢まで走ったが、やっぱりすごすぎて、緊張で身体中が凝ってしまった。
約束の時間、無事にロータス所沢さんに着き、車を返却した時には、名残惜しいという気持ちとホッと安堵する気持ちが半々だった。
少しは運転に慣れてきた
ロータス・エキシージ。
やはり僕のような者には少々ハードルが高そうな車だが、マジで欲しくなってしまった。それに、実際に買うことは難しくても、こうして時間を区切って少しだけ所有するというのも実に楽しかったし、家族にも喜んでもらえた。
これだからカーシェアはやめられない。
次は、どんな車に乗ろうかな?
写真・文/佐藤誠二朗
ああ、楽しかった