中世ヨーロッパの鎧を想起させる個性的なマスク
日本国内で発表・発売された乗用車の中から、その年の最も優れた1台を選出する「日本カー・オブ・ザ・イヤー(以下、COTY)」。2022-2023シーズン、その部門賞のひとつである「デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー」に輝いたのは、BMWの「iX」だった。この賞は「秀でた内外装デザインを持つクルマ」に与えられる。
“革新”や“リスクを恐れない変化”など、デザインにおけるチャレンジングな姿勢が評価されたBMW「iX」
デザインとは主観的なものであり、トレンドやセオリー、そしてテクニックといった要素はあるものの、その良し悪しを語るのに絶対的な評価というものはない。あくまで時代や評価する人それぞれの感性によって評価される。
BMWのiXがデザイン・カー・オブ・ザ・イヤーを獲得したことに賛否両論あるのは、デザインが主観的なものであることの証左ともいえる。ではなぜ、iXのデザインは賛否がはっきり分かれるのか? それはクルマの意匠としてはかつてないほど攻めたデザインだからだろう。
なかでも、強烈なインパクトを残すのが顔つきだ。BMW車の象徴である“キドニーグリル“は特大サイズで、対照的にヘッドライトは細くコンパクト。また、左右のエッジを効かせたフロントバンパーも印象的だ。
COTY選考委員たちも、iXのエクステリアは必ずしも万人受けするデザインではないと見ているようで、「面構成などはシンプル&クリーンだが、フロントマスクはブランドを主張するというギャップがユニーク」、「圧倒的な存在感と、ちょっと未来へ来てしまったような感覚にさせられる造形に一発でノックアウトされた」などとコメントしている。
一方で、「BMWのデザイン言語を踏まえつつディテール表現に縛られることなく革新を続けている取り組みを評価」、「リスクを恐れず変化なくして新たな時代をつくることはできないという考え方は、イノベーションを牽引する企業として未来に向けた目に見えない部分でのメッセージ」など、“革新”や“リスクを恐れない変化”というチャレンジングな姿勢を高く評価する声も多かった。
iXが今期のデザイン・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した理由は、BMWのデザインに対する姿勢が評価されたためといってもいいだろう。
インテリアを高く評価する声が多いのもiXの個性
iXのインテリアは、まるでリビングルームのようにくつろげる雰囲気をねらったもので、これまでの“ドライビングを最重視した”BMW車では考えられなかった仕立て。こうした変化を“新しい”と好意的に受け取る選考委員も多かった。
BMWといえば、2020年に現行の「4シリーズ」がデビューした際、その大胆なフロントデザインが大きな論争を巻き起こしたのは記憶に新しい。BMW自身、本国で「変えるべきではない理由って何よ?」といった挑戦的なメッセージをSNSで展開するなど、そうした論争を楽しんでいる節さえあった。もちろんそれも、巧みに組まれたプロモーションのひとつである。
そしてその後のiX、そして新型「7シリーズ」と、BMW車のフロントマスクはさらに大胆になるが、こうした挑戦的な個性がなければ高級車マーケットで存在感を主張できなくなっているのもまた事実だろう。
かつてあれだけ論争を巻き起こした4シリーズのフロントマスクも、今では素直に受け入れられるという人が多いはず。この点だけを見ても、BMWのデザインが巧みなのがうかがえる。数年後、iXのデザインも多くの人々に受け入れられる時が来るのではないか、そんな気がしてならない。