トヨエースSK10(画像:守山進)
戦後に普及したのは安価なオート三輪
わがニッポンにおける「自家用貨物自動車」の歴史は、太平洋戦争前の時代においては昭和10年代からの、ともに積載量1トン以下の「オート三輪」と「小型トラック」がそれなりに普及した。
【画像】「え…!」 これが歴代「トヨエース」です(7枚)
トラックはもっと積載量が大きな車両もそれなりに普及していたが、自家用にはやや負担が大きかったことは否めない。
戦前のオート三輪といえばマツダを筆頭にイワサキやダイハツが、小型トラックはダットサンやオオタが主要な生産メーカーであり、ともに比較的裕福な個人経営商店や農家などのもとでそれなりの活躍をしたはずである。
もちろん昭和20年代から30年代にかけての日本では、自家用車などまだまだぜいたく品ではあったものの、商売さえ順調にいっていれば、こうした「仕事の足」を導入することは決して無理なことではなくなっていた。
さらにオート三輪が好まれた背景には、オート三輪には荷台長の規制がなく、長尺物の運搬に適していたこと。舗装率が低かった当時の日本の道路での安定性が高かったこと。三輪ゆえに小回りが効いたこと。「自動三輪」免許は16才から取得できたことなどが挙げられた。
しかしオート三輪には欠点も少なくなかった。
ローコストが武器の小型トラック登場
価格が安いということは、イコール装備が貧弱ということでもあり、特に耐候性はほぼ期待できなかった。
昭和20年代から30年代初めの個体などは、キャンバス布の幌屋根があればいい方で、ドアやサイドウインドウなどは無くて当たり前。ヘッドライトもオートバイ並の1灯で「提灯」と陰口を叩かれた。
さらに当時のオート三輪は空冷エンジンがほとんどであり、ヒーターの装備などは望めなかった。また当時のモデルはセンターシートのバーハンドルがほとんどであり、パッセンジャーは運転席の端っこにしがみつくように乗らざるを得なかった。
密閉キャビンでヒーターなども備えた四輪のトラックは存在していたが、どれも大きく高価であり、専門の運送業者以外にはとても手が出せるモノではなかった。
こうした状況の中、1954(昭和29)年に、それまでの小型トラックとは明確に異なるローコストさを武器に登場したのがトヨペット・ライトトラック(トヨペットSKB)だった。
きちんとした密閉キャビンや巻き上げ式のサイドウインドウを備えた1トンクラスのトラック。エンジンは1000ccのサイドバルブだったものの、水冷とあってオプションのヒーターを装着すれば真冬も快適なキャビンが実現できた。
昭和31年、ニックネームを一般公募
トヨペットSKBは、プレス加工を最小限に抑えたシンプルなデザインのボディや、可能な限り簡素なものとした標準装備品などによって、価格をオート三輪並みに抑えることに成功。
価格が同レベルであれば、より快適な運転環境を多くの人が求めるのは当然の市場原理であり、瞬く間に人気モデルの座を駆け上がっていくこととなる。
このローコストでタフ、そして使い勝手の良い小型四輪トラックの登場は、それまでオート三輪を使っていた人々の心を四輪に向ける上で、大きく作用したことは想像に難くない。
くどいようではあるが、水冷エンジンゆえヒーターが良く効いたこともあって寒い地域では特に重宝がられたといっていい。
発売開始から2年目の1956(昭和31)年、トヨペットSKBライトトラックは、そのニックネームを一般公募した。そうして決まった名前が「トヨエース」だった。
ここからのモデルは、型式をSKBからSK10へと変更し、トヨエースにニックネームとともにその後も市場でのヒットモデルの座に君臨する。
低価格を維持して性能は格段にアップ
そして1961(昭和36)年にモデルチェンジし、PK10となる。
おそらく多くの人にとって、ここからのモデルこそが「トヨエース」という名前と、そのカタチの記憶が一致することだろう。
ここからのモデルはエンジンの排気量を1200ccにアップした新型となり、さらに1963年のマイナーチェンジではPK40となるとともに、1500ccエンジンを搭載する。
2代目のトヨエースは相変わらず標準の装備は最小限であり、内装も鉄板むき出しではあったものの、標準仕様の1.5トン積で49万円と、同じ積載量のオート三輪を下回る価格を維持。価格が安いという、デビューからの最大のメリットをしっかりと維持しつつ、クルマとしてのクオリティーは初代とは比べるまでもないほどに向上していた。
トヨエースの存在は、オート三輪を市場から駆逐するとともに、いすゞ・エルフという宿命のライバルというべき小型トラックが登場する大きな動機にもなった。
トヨエース、昭和30年代という高度経済成長期のニッポンにおいて、まさに末端の物流を地道に担っていた働きモノだった。
これまでトヨタが造ってきたクルマは数多いが、その中でベストテンを選ぶなら、絶対に外すことができない名車である。