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1990年代の車に今も熱い気持ちになる人が多い訳 日本車にとって極めてエポックメイキングな時代

1990年代の車に今も熱い気持ちになる人が多い訳 日本車にとって極めてエポックメイキングな時代

今にも通じるワイドトレッド、幅広タイヤが生まれたのも1990年代だった(写真:Hiroko/PIXTA)

1990年代には20~30年以上経った今でも語り継がれるクルマが、続々と自動車メーカーから投入された。バブル崩壊後は厳しいコストカットも進んだ時期だったが、バブルの残り香を感じさせるような贅沢な造りのクルマや21世紀を控えた未来を見据えて、次の時代のベースとなるような新ジャンルのクルマも登場した。 今や当時の新車を超える価格で取引されている1990年代製の中古車もあり、それだけ日本も自動車業界が力を尽くした時代でもあった。その1990年代の熱気をつくったクルマたちがそれぞれ生まれた歴史や今に何を残したかの意味を「東洋経済オンライン自動車最前線」の書き手たちが連ねていく新連載第1回。

1990年代の日本車が世界で高騰している

1990年代。その時代を生きてきた人々にとってはつい昨日のことのように思えるかもしれないが、それはもうおおむね30年も前の昔話だ。そのころ日本で作られたクルマたちが、数年前から世界的に価格高騰して注目を集めている。

【写真】R32GT-R、FD3S型のRX-7など価格が急騰している1990年代の和製スポーツカーたち

日本で生産され、日本でしか販売されなかったモデルはマニアの間で「JDM」(Japan Domestic Model)と呼ばれる。一部のマニアックなスポーツカーに限った話だが、現在、車種によっては新車時の数倍の値段が中古車に付く。

こうした現象の引き金となったのは、アメリカ運輸省(NHTSA)が定めた通称「25年ルール」だといわれる。新車登録から25年を経た車両は、連邦自動車安全基準(FMVSS)を満たさずともアメリカ国内に輸入して登録できると定められ、つまりこの基準を正式にクリアしていない右ハンドル車でも取引が容易になるのだ。

こうした現象が起きるかもしれないことは、R32型ニッサン・スカイラインGT-R、レクサスLS400/トヨタ・セルシオ、ユーノス・ロードスター等が登場して「日本車のヴィンテージ・イヤー」といわれた1989年から25年を経た、2014年の前後から自動車メディア業界内で静かな話題になっていた。アメリカの好景気と円安、そしてコロナ禍が重なったここ数年でその流れが増幅された結果が、いまの中古車相場というわけだ。

第2次世界大戦後からバブル経済期にかけて、日本の自動車産業はオイルショックさえも味方につけて拡大の一途をたどった。そして1990年代初頭に頂点を迎えた末、バブル崩壊により足元をすくわれた。大ざっぱにいえばこんな展開だが、あらためて詳しくその背景を見ていくと、興味深い事実がいくつか浮き彫りになる。

すでに現代のクルマとかわらない姿かたち

1990年のクルマたちは、すでに現代のクルマたちと大きくは変わらない姿かたちを手に入れていた。1989年の税制改正で、車幅にかかわらずエンジン排気量に応じて自動車税を決める方式となったため、全幅1700mm以上の3ナンバー車が急増。高速化に備え風洞実験を利用して空力性能を磨いたボディーは、流線形のパネルに丸みを帯びた窓ガラスが組み合わせられ、塗装された樹脂成型の前後バンパーとともに優雅な一体感を醸し出した。

高級・高性能車の足元には16インチ以上の大径アルミホイールが備わり、幅広タイヤの能力をすべて引き出すため車幅を端から端まで使って配置するレイアウトが一般的になっていた。

けれどもその中身はというと、技術的にも、社会的にも、産業のあり方としても、およそ30年の間に大きく変貌を遂げた。

たとえば1990年には、まだインターネットが自動車界には存在しなかった。当時の全世界におけるインターネット普及率は0%、アメリカで1%未満。2000年にようやく世界で7%、アメリカで47%に伸びた程度であった。

自動車の輸出入はすでに盛んに行われ、コンピューターの活用も進められていたが、オンラインでのデータ送信を含め遠隔的なコミュニケーションは不可能だから、技術やノウハウは人が動きやすい範囲の特定の地域に集中し、生産も設計もローカルもしくはドメスティックに行われていた。大量の部品を自社工場の周辺で効率よく調達するため、日本では「系列」という護送船団がメーカーとサプライヤーの間で構築された。

海外に出れば言葉は通じなくとも高品質のモノは飛ぶように売れる。小さな国土に詰め込まれた1億数千万人の単一言語・単一民族が閉じられた世界でモノづくりに熱中し、日本の国力は突出していった。

円安の時代にたっぷり稼いで貯め込んだマネーを注ぎ込み、日本のエンジニアたちは当時、日本人にしかアクセスしようのなかった世界最高水準の技術を独占的に利用することができたのだ。日産の電子制御4WDシステム、ホンダのVTECエンジン、トヨタのエアサスペンションやアイシン製多段AT、マツダのロータリー・エンジンなど、各メーカーが独自性のある技術を競い合った。そうした中から、世界の自動車の歴史に残るような名車たちが数々生まれていった。

バブルの好景気が優れた製品を生み出した

過熱するバブル景気自体が当時の自動車を面白くした側面もある。電子技術の進化でさまざまな機能装備が加わり、高回転化やターボ化などにより内燃機関の性能が向上、3ナンバー車の事実上の解禁に伴って内外装デザインが飛躍的に自由度を増し、内燃機関を持つ動く彫刻、もしくは走る応接間としての魅力が追求された。法人も個人も経済力に余裕が出たことで、消費者は高級・高性能化した自動車を現実に手にすることができたし、メーカー側も普及のためにコスト度外視で優れた製品を供給したのだ。

モータースポーツの世界も華やかだった。1980年代後半から1990年代前半にかけて、ホンダがウィリアムズやマクラーレンと組んでF1でチャンピオンを獲得。マツダはルマン24時間で優勝、トヨタ、三菱、スバルはWRC(世界ラリー選手権)を次々に制覇。競技を戦うために磨かれた世界水準の技術やブランド力は製品にも生かされていった。

しかし「いいものを作れば売れる・儲かる」時代をいつまでも楽しむことはできなかった。円高により輸出の収益は低下し、結果として内需も鈍化。グローバル化の進展に伴い、高機能・高付加価値ではない普及型の製品では海外メーカーに勝てなくなった。経済的だけでなく政策的な理由も絡んで、乗用車を国内生産から海外生産に移行する動きも進んだ。日本自動車工業会の統計によると、商用車を含む日本ブランドの生産台数は、1990年と2021年の対比で国内生産が25%減少した一方、海外生産は5倍超に伸びているという。

安全性能や環境対応の強化が求められたことで、速く快適で美しく、と快楽だけを純粋無垢に追求することも許されなくなった。ABS、トラクション・コントロール、スタビリティ・コントロール、SRSエアバッグといった装備は1990年代に浸透し、交通事故死者数の大幅減に貢献した反面、乗用車の車重は増加し装備増が車両価格にも反映されるようになった。

トヨタが世界初の量産ハイブリッド車を発売したのは1997年。軽自動車の排気量上限が660ccに改められたのが1990年、全幅・全長の上限が拡大されたのが1998年である。円安と燃料高と不景気が重なった日本市場では低燃費志向が高まり、現在の日本ではハイブリッドでも軽自動車でもないクルマを探すほうが難しいというほどメジャーな存在になっている。

ミニバン、SUV、クロスオーバーなどが勃興

パッケージングの多様化により新たなユーザーを掘り起こす機運もこの時期に高まった。商用車ベースではないミニバン、クロカン4WDではないSUV、コンパクトカーのトールボーイ版や3列シートのミニミニバン、はたまたそれらをミックスさせたクロスオーバーといったさまざまな車型が、異なる車種間におけるプラットフォームの共用を軸に提案された。時の流れとともにいくつかの試みは姿を消したものの、いくつかは現在も主力車種として生き残っている。

ひたすら上を向いて歩いてきた時代が遺した名作たちと、混迷の次世代に立ち向かおうという意欲作たちが一体になって構成していた1990年代の日本の自動車界。連載第2回以降は「前世紀の遺物たち」の世界を楽しんでほしい。

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