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ウクライナに追加供与の「レオパルト1」現場は大歓迎? 60年前の戦車がとっても“使える”ワケ

60年前に生産始まったオールドタイマー

 ドイツ政府は、先に表明したウクライナへの「レオパルト2」の供与に加えて2023年2月7日、同車の1世代前の主力戦車(MBT)だった「レオパルト1」の供与も決定。ウクライナに対して178両送ることを明言しました。

 ただ、レオパルト1はいまから60年ほど前の1964年に生産が開始された古い戦車です。ウクライナ紛争ではロシアが予備保管していたT-62戦車を前線に投入し、話題となりましたが、世代的にはそれに匹敵すると言えるでしょう。そんな古い戦車が、現在のロシア戦車にはたして対抗できるのでしょうか。

【射撃シーンも】防御力改善のために装甲マシマシ! カナダのレオパルト1戦車

ウクライナに追加供与の「レオパルト1」現場は大歓迎? 60年前の戦車がとっても“使える”ワケ

ドイツが開発・生産したレオパルト1戦車(柘植優介撮影)。

 そもそもレオパルト1は、旧西ドイツが生み出した初の国産戦車で、その開発が始まったのは1956年です。当初は単に「レオパルト」と呼ばれていましたが、1970年代初頭に「レオパルト2」の開発が始まったことで、本車にも「1」という数字が追記されるようになり、改修型として生まれたレオパルト1A1以降のモデルは、レオパルト1A3やレオパルト1A5などといった形で表記されるようになっています。

 レオパルト1シリーズは、2003年にドイツ陸軍から全車退役した一方、ギリシャやブラジルなど一部の国ではまだ現役です。とはいえ、前述したように後継として開発されたレオパルト2と比べれば、とうぜんながらレオパルト1は、さまざまな点で劣っています。

 まず主砲は、レオパルト2が120mm砲を搭載しているのに対して、レオパルト1はワンランク低い105mm砲を搭載。装甲についても、レオパルト2が鉄以外にセラミックやカーボンなどを用いた複合装甲がメインなのに対して、レオパルト1は鉄のみで、一部に中空装甲を備えている程度です。ゆえにカナダなど一部の導入国では、外装式の増加装甲を取り付け、防御力不足を補っていました。

 また機動力も、たとえばエンジン出力を比べると、レオパルト2は出力1500馬力のターボ・ディーゼルを搭載しているのに対し、レオパルト1はノンターボの830馬力で、最高速度も前者は70km/h以上を発揮するのに対して後者は60km/h強にとどまります。

ひと昔前のスタンダード戦車 運用国の多さが強みに?

 とはいえ、ドイツ軍が最後に配備したレオパルト1A5などは、レオパルト2の技術をフィードバックする形で近代化改修が施され、120mm砲の搭載も可能なまでに射撃管制装置などが高性能化されていました。さすがに主砲の換装はコストがかかるため、未実施で終わりましたが、そのような優れた射撃管制装置で制御された105mm砲は高い命中精度を誇ります。

 加えて105mm砲も、120mm砲と比べたら威力が低いだけで、その徹甲弾はロシアの現用MBTを十分撃破できるだけの威力があり、ロシア戦車において数的主力を占めるT-72シリーズよりも、総合性能の面では明らかに優秀だといえるでしょう。

ウクライナに追加供与の「レオパルト1」現場は大歓迎? 60年前の戦車がとっても“使える”ワケ

ドイツが開発したレオパルト2A4戦車。写真の車体は元オランダ陸軍のもので、退役後イギリスのボービントン戦車博物館(ザ・タンクミュージアム)で動態保存されている車体(柘植優介撮影)。

 おまけに、実用性が検証済みのいわゆる「枯れた技術」が多用されており、電子制御もレオパルト2ほど多くないので、先んじて供与が決まったイギリス製「チャレンジャー2」やアメリカ製M1「エイブラムス」などと比べて、運用上も整備上もウクライナ軍にとっては使いやすいMBTになるのではないでしょうか。

 実際、すでにウクライナで実戦投入されている「ゲパルト」対空戦車の車体はレオパルト1と共通なので、足周りや駆動系については、すでにウクライナ軍も保守整備のノウハウを得ていることになります。

 しかも、世界的に見た場合、かつて運用していた国と現在運用中の国を合わせると、その数は約15か国にものぼります。レオパルト1を運用していなくとも、派生型の「ゲパルト」対空戦車や「ベルゲパンツァー2」戦車回収車、「ヒッポ」および「ブルドッグ」の両特殊回収車、「ビーバー」戦車橋、「ダックス」戦闘工兵車などを使っている国もいくつかあるため、予備部品や改修キット、整備ノウハウなどは各国とも豊富に持っており、戦場での消耗や整備への対応も容易でしょう。

 こうして見てみると、ウクライナ軍にとってのレオパルト1は、比較的新しいレオパルト2やチャレンジャー2、M1エイブラムスといった西側製MBTを運用する前段階の習熟教材としての役割も果たすと筆者(白石 光:戦史研究家)は考えます。

使い勝手は最新戦車よりも上!?

 また、レオパルト1がロシア戦車と対等以上に戦える性能を有しているというのは、実はすでに実証済みと思われます。ロシア軍がウクライナ領内に放棄した各種MBTは、米英を始めとしたNATO(北大西洋条約機構)の専門技術者たちの手で徹底的に調べられているのは間違いありません。だからこそ、そこからレオパルト1でも対抗可能だとの判断が下されて供与が決まったとも考えられます。

ウクライナに追加供与の「レオパルト1」現場は大歓迎? 60年前の戦車がとっても“使える”ワケ

イギリスのボービントン戦車博物館(ザ・タンクミュージアム)に屋内展示されているT-62戦車(柘植優介撮影)。

 もし同車で対抗できないとなれば、敵にやられっぱなしになることがわかっているMBTをわざわざ供与などしないでしょうし、仮に「使えない兵器」だったなら、それを運用することで貴重な「訓練済み戦車兵」をみすみす失うことにつながるため、ウクライナ側も受け取らないでしょう。

 そう考えると、今回決まったレオパルト1の供与は、車両自体の数が揃っているうえ予備部品なども比較的豊富に在庫があるという点と、ウクライナ軍での使い勝手という観点から、これまでロシア型の兵器体系に馴染んできた同軍兵士らにとって、レオパルト2などよりも「とっつきやすい」兵器であると筆者は捉えています。

 場合によっては、ウクライナ軍がNATOの兵器体系へと移行するに際しての好適なステップにもなるのではないでしょうか。

 こうして見てみると、ロシアが投入したT-62と世代的には似通った旧式戦車ながら、レオパルト1は勝算や使い勝手を考えての実戦投入といえそうです。ひょっとしたら、同車に勇敢なウクライナ軍戦車兵が乗り込むことで、「老兵」レオパルト1は予想以上の奮戦を見せてくれるかもしれません。

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