長野県立科町の女神湖で電動車両を中心に最新の日産車の走りを確かめた(筆者撮影)
氷上で、電動4駆「e-4ORCE」を搭載する「アリア」「エクストレイル」、そして「サクラ」に乗れる――。
女神湖の氷上で最新の日産車10モデルを試乗した
毎年、恒例となった長野県立科町(たてしなまち)の女神湖で開催される「日産氷上走行体験」のラインナップを見て、開催前から試乗をとても楽しみにしていた。
軽自動車BEVの世界に新たなる道筋を描いたサクラは、降雪地帯の生活車として実際にどれだけ“使えるクルマ”なのか。
また、電動4輪駆動システムe-4ORCE(イーフォース)は、これまでBEVのアリアとシリーズハイブリッド「e-POWER」搭載のエクストレイルを舗装路面で体験しているものの、4輪駆動車の真価が問われる氷上でどのようなパフォーマンスを見せてくれるのか。
そんな興味を持って、氷上試乗会に参加した。
ノートからフェアレディZまで全10モデル
1月後半に行われた当日は、朝8時の時点で気温マイナス3度。午後からは日本海側を中心に大雪の予報だが、女神湖にまだ雪は降っていなかった。
試乗コースは例年通り、直線路で細かく操舵する「パイロンスラローム」、1つのパイロンを中心にクルクル回る「定常円旋回」と「8の字旋回」、そして1周1km強の外周路からなる。
筆者が試乗したタイミングでは好天に恵まれた(筆者撮影)
今回、筆者が注目していた3台のほかに、e-POWERでは「ノート4WD」「ノートオーラ4WD」「ノートオーラNISMO(FF)」「ノートAUTECH CROSSOVER 4WD」「キックス 4WD」、さらにスポーツカーの「フェアレディZ(FR)」と「GT-R(4WD)」の合計10台を乗り比べた。タイヤは、全車がブリヂストンのスタッドレスタイヤ「BRIZZAK VRX3」を装着している。
BRIZZAK VRX3については、2022年12月に北海道・旭川での公道試乗会を体験し、同社エンジニアとも技術面で意見交換をした。
氷上という“ものすごく滑る”路面では、どうしてもスタッドレスタイヤの性能を“探りにいく”ような走りになってしまい、クルマそのものの評価に辿り着くまで時間がかかってしまいがちだ。だが、今回は事前にBRIZZAK VRX3の性能を身体と頭で十分に理解したうえでの試乗であったため、クルマそのものの評価がしやすい環境だったと言える。
まずは、サクラ。BEVは加速時に力強さを演出しがちだが、発進時にアクセルを床まで“ベタ踏み”しても、慎重にジワジワと加速していたのが印象的だ。
駆動方式はFF(前輪駆動車)だが、制御次第ではもっとスゥーッと走り出すことも可能なはずである。だが、日産はあえてそうせず、誰がどのような走り方をしても“絶対に無理がないように”といった、安心安全の方針を強く押し出した制御をしたのだろう。
ところがコーナリングになると、安心安全の感じ方が大きく変わる。ハンドル操作に対して、サクラはとても良く曲がってくれるのだ。
BEVの特徴でもある低重心が生きるサクラ(写真:日産自動車)
この前後重量バランスの良さは、サクラおよび兄弟車である三菱「eKクロスEV」の開発担当者が2022年に舗装路面で行ったメディア向け試乗会でも強調していたことだが、氷上走行ではそれをはっきりと感じ取ることができる。
また、コーナリング中のモーター制御がきめ細かであるため、クルマ全体の姿勢の安定感も高い。サクラは、アイスバーンを含めて降雪地帯での「生活車」として扱いやすい軽BEVであることを実感した。
アリアの走りを司る“先読み”制御
次に、今回の試乗の真打ちとも言える、「アリア」のe-4ORCE搭載モデルだ。とにかく、発進時の加速が見事で驚いた。まるで、普通の舗装路で自然に加速しているような感覚だったのだ。
しかも、ドライバーの意思に反してクルマが積極的に制御するような“ドライバーに対する嫌味”がまったくない。
フィードフォワード制御が走りの“自然さ”を実現しているアリア(写真:日産自動車)
日産によると、e-4ORCEの制御システムは、操作や車両状態を認識する各種信号をまず「Chassis Control ECU」に集約し、そこから駆動トルクと前後のトルク配分というモーター制御の司令を出す仕組みとなっている。
状況変化が“起こったあと”に制御するのではなく、“起こるであろう”状況を先読みするフィードフォワード制御によって、ドライバーの操作に対してクルマ全体の動きが実に自然に感じられるのだ。
コーナリングでは、ハンドル操作に対するクルマの動きが極めて自然だ。アリアの車重は2210kgとサクラの約2倍もあるが、決して“重ったるい”という感じがしないから不思議だ。
Chassis Control ECUから、モーター制御系とブレーキ制御系の双方にフィードフォワード制御として目標車両制御を決定したうえで、的確な指令を出す。
また、サクラとeKクロスEVのほか、エクストレイルと車体を共有する「アウトランダーPHEV」で開発をともに行っている三菱自動車工業に対して、「電動車の制御について優れた開発能力があり、日産としてかなり参考になっている」とも指摘する。
こうしたe-4ORCEの優れた「先読み制御」は、エクストレイルでも明確に感じ取れた。
e-POWERを採用するエクストレイルの走りも自然だった(写真:日産自動車)
再確認した「技術の日産」
エクストレイルはアリアと比較すると300kg近く軽いのだが、車高が高く、搭載するバッテリー量が少ないため、アリアほどの低重心は感じない。また、モーター出力にも差があることから、クルマ全体の動きとしてはアリアよりゆったりしていて、そこに“e-4ORCEが的確にサポートを入れる”といった雰囲気だ。
先代エクストレイルで採用された「Intelligent 4×4」と、雪上や氷上での安定性を比較した図表を見ると、トルク/車速/Gなどの変化における数値の振れ幅が、e-4ORCEによって大きく縮小していることが分かる。
氷上でエクストレイルを走らせた実感としても、コーナーでは一定量のロール(傾き)をする乗り心地の良さがあったし、さらにハンドルを多めに切ったり少しオーバースピードでコーナーに入ったとしても、クルマの軌道が外側にズレる“アンダーステア”をあまり気にせず、自然体で安心して走ることができた。
e-POWER 4WDのノートとe-4ORCEのオーラに乗ってみると、端的にコンパクトカーはボディが小さく軽いため、氷上での操縦安定性は基本的に優位であることが改めてわかった。特にe-POWER 4WDはシステム構成が最適化され、コストバランスと走りのバランスが上手く保たれていると感じる。
FRのフェアレディZは氷上でコントロール性の良さが強調された(筆者撮影)
今回、唯一のFRだったフェアレディZはとてもバランスが良く、非常にコントロールしやすいことに驚いた。2022年夏に北海道のテストコースで乗って感じた“クルマとしてのバランスの良さ”が、氷上でもしっかりとわかったと言える。
今回の女神湖氷上試乗会で計10モデルをじっくり乗り比べて感じたのは、日産の技術力の高さだ。「技術の日産」というキャッチコピーを久々に思い出した。