超小型モビリティに寄せられる期待
読者の皆さんは「超小型モビリティ」を知っているだろうか。国土交通省によると、超小型モビリティとは、「自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足となるひとり~ふたり乗り程度の車両」と定義されている。
【画像】「超小型モビリティ」が必要なワケ(12枚)
また、パーソナルモビリティとも呼ばれる軽自動車よりも小型の電気自動車(EV)を指すことが多いようだ。しかし、街中で超小型モビリティを見かけることは少ない。今回はそんなの現状について説明する。
まず超小型モビリティは、その大きさや定格出力によって三つの区分に分けられている。まずは「ミニカー」のように最高速度60km/hで定格出力0.6kW以下の区分。さらに、車両の大きさは「長さ2500mm × 幅1300mm × 高さ2000mm以下」である必要がある。
次に、原動機付自転車以下の大きさの軽自動車で、最高時速60km以下の自動車。この区分では、「60km以下の車両であることを示すマーク」をステッカー等で車両後面の見やすい位置に表示する必要があり、高速自動車道等において運行しないものを指している。
最後の区分は「認定車」と呼ばれ、超小型モビリティの認定制度によって認定を受けたものが認められる。最高速度は個別の制限によるが、車両の大きさは「長さ3400mm × 幅1480mm × 高さ2000mm以下」という条件がある。さらに
・高速道路等に運行しないこと
・交通の安全と円滑を図るための措置を講じた場所での運行
という条件付きで公道走行が許可されている。
公道走行の認可は2020年。補助金を支給する意向もあってか、一気に普及するかもしれないと注目されていた。政府としては、「温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする」ことが目標のカーボンニュートラル実現のためにもさまざまな人が活用できるモビリティとして期待を寄せていたことが伺える。
さまざまな商品が開発されるも、目にする機会が少ない…
超小型モビリティとして有名なのが、おそらく2022年に登場したトヨタの超小型EV「C+Pod」だろう。
「長さ2490mm × 幅1290mm × 高さ1550mm」
という、規定以下のコンパクトな大きさで小回りが利き、最高速度は60km/h。航続距離は150kmと近距離の移動であれば問題ない仕様だ。加えてクーラーや温熱シートが採用されており、快適さにもこだわっている。
以前は2012(平成24)年に発売されたトヨタの「コムス」が最も認知されており、
「長さ2395mm × 幅1095mm × 高さ1500mm」
というひとり乗り仕様だった。
超小型EVとしては、ほかにも
・ホンダ「MC-β」
・アップルオートネットワークの「e-Apple」
・タジマモーターコーポレーション「タジマ・ジャイアン」
などさまざまなメーカーが開発をおこなっている。「次世代の乗り物」として注目を集めているはずだが、なぜ目にする機会が少ないのか。超小型モビリティが普及していない背景について考えてみよう。
普及が難しい理由
「e-Apple」(画像:アップルオートネットワーク)
まず普及の前に立ちはだかるのは、コスト面だろう。「C+Pod」に関してはリース専用となっているため、一般家庭用としての流通はない。金額面から見てみると、補助金が出るとはいえ本体価格も
「約80万~98万円」
と決して安価とは言い難い。これでは購入に二の足を踏むのも仕方ない。また、近距離移動に特化している分、利用目的が狭まるというのもデメリットのひとつと言える。
また他の理由を挙げるとすれば、免許が普及の妨げになっている。現在、超小型モビリティは「公道走行の認可」が下りており、いわば自動車の代替として活用することもできる。もちろん速度やサイズ、性能などに関しては自動車よりも劣るが、逆に言えば
「速度を出せないので重大事故は発生しにくい」
「コンパクトサイズで小回りが利くので運転がしやすい」
といった恩恵を受けられるのだ。
特に高齢ドライバーにとっては非常に理想的なモビリティと言っても過言ではないが、ここでネックになるのは
「普通免許の取得が必須」
という点だ。実際、ひとり乗りのコムスも、超小型モビリティの区分で言えば「ミニカー」の部類に当たる。道路交通法上は自動車扱いとなるため、運転するためには結局、普通免許が必須になるのだ。
「免許を返納した人たち」
も利用できない。さらに「結局免許が必要なら、車を使った方が利便性が高い」と考える人も少ならからずいることから、
「注目はされても普及はしない」
という状況が続いているのだろう。
とはいえ、超小型モビリティにはメリットもある。例えばコムスの場合、省スペースで車検や車庫証明が不要、税金に関しても重量税・取得税がかからない。しかしそういったメリットよりも、モビリティに求める「機能性・利便性」に伴うデメリットの方が影響を与えていると言える。
認知されたら普及するという話ではない
タジマ・ジャイアン(画像:タジマモーターコーポレーション)
家庭用自動車としてのニーズに合わなければ、普及しないのは当然だ。これらはビジネス用途として活用される事例が多い。近隣の顧客のみを回るような営業車だったり、訪問医療や訪問介護、デリバリーなどをおこなう配達用など、必ずしも需要がないわけでない。
さらに超小型モビリティの公道走行が認可されたことで、メーカーとしても開発の難易度は大幅に下がった。試験的な運転もしやすくなり、
「高齢者のニーズに特化した新しいモビリティ」
も注目されていくだろう。
単に歩行・二輪車・四輪車など従来のモビリティだけでは満たされなかったニーズに応えるために、新しいモビリティの可能性を秘めている。
環境への配慮だけでなく、安全面、普通免許の有無などさまざまな課題があるものの、それらをクリアした新しいモビリティの普及に期待するばかりだ。