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4年連続「世界首位」は確実だが…絶好調のトヨタ自動車に迫る「最大の危機」

4年連続「世界首位」は確実だが…絶好調のトヨタ自動車に迫る「最大の危機」

ジャパンモビリティショーで次世代電気自動車(EV)などを説明するトヨタ自動車の佐藤恒治社長=2023年10月25日午前、東京都江東区

2023年のグループ新車販売台数で、トヨタ自動車が独フォルクスワーゲンを上回り、4年連続で世界首位になることが確実になった。トヨタに死角はないのか。経営コンサルタントの鈴木貴博さんは「トヨタには今、最大の危機が迫っている」という――。

※本稿は、鈴木貴博『「AIクソ上司」の脅威』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

ヒット商品の開発が間に合っていない

トヨタは今、焦りまくっています。業績は良いのですが、このままいくと急拡大する新エネルギー車市場で売れる商品を2026年まで投入できなくなりそうなのです。

「いやトヨタだってbZ4Xという最新のEV車を発売しているじゃないか」と反論されるかもしれません。2023年にはこれに加えてレクサスのRZ、中国のBYDと共同開発したbZ3など、少しずつラインナップを増やしています。

まずはその点から話を始めましょう。トヨタがAI市場をどのように見誤ったのかという話からです。

2024年頭の時点で、最新のEV車に求められるものは何だと思いますか?

電池の性能と航続可能距離でしょうか? AIの運転支援機能による安全性能でしょうか? それともEV車特有のトルクがもたらす走りでしょうか?

もちろんそれらはすべて必要なことですが、「最重要」ではありません。SDVという開発コンセプトこそ最も必要なのです。

SDV(Software Defined Vehicle)とは、これまで業界がコネクテッドカーと呼んでいたものの概念が進化したものです。その特徴は3つあります。

「コネクテッドカー」の概念を日本はずっと取り違えていた

最もわかりやすい特徴は、ソフトウェアをダウンロードすることで性能が上がる点です。

コネクテッドカーという概念は、2010年代に聞かれるようになりました。メルセデスベンツがCASEというキーワードを提唱し、次世代の車はConnected=コネクティッド、Autonomous/Automated=自動化、Shared=シェアリング、Electric=電動化という方向に進化すると、業界のロードマップを整理したのです。

このコネクテッドカーの概念を日本車メーカーは取り違えてきたと思われます。多くの日本のメーカーが実現できたコネクテッドカーは、ドライブ中に好きな音楽や映像コンテンツをダウンロードでき、地図で検索をすれば目的地の方向にあるレストランやお店の情報が検索でき、万が一のトラブルが起きた際にはコンタクトセンターから「どうしましたか?」と助けが入るようなレベルでした。

これに対して、新市場における日本車の最大のライバル・テスラが到達したコネクテッドカーの概念は、それらとは大きく異なるものでした。それがまさしくSDVと呼ばれる概念です。

日本が出遅れたのは「すり合わせ技術」のせい

SDV車が持つ3つのコネクティビティとは、

① 新しいソフトウェアをダウンロードするたびに自動車の性能が向上する

② 走行中の車の運転データをビッグデータとして吸い上げることができる。そのデータを、たとえば自動運転のAIの機械学習に活用することでAIがますます賢くなる

③ 同じく吸い上げたビッグデータは、次世代の新型車開発に活用される。具体的には部品性能の見直し、走行性能のハードウェア的な向上、そしてコストダウンへと活かされるというものです。

日本車がSDV機能で出遅れた理由は、日本車の最大の強みである、「すり合わせ技術」にあります。

たとえば、トヨタ車はトヨタが単独で開発しているわけではありません。新車を開発する際は、ティア1と呼ばれる協力会社が集まって開発チームを編成します。昭和の時代は1次下請けと呼んでいたのですが、今は協力会社と呼ぶようになっていて、各分野で日本を代表する会社からそれぞれ優秀なエンジニアが集まって、新車開発のプロジェクトを立ち上げます。

新車はガソリン車の場合、実に2万5000点もの部品を組み上げてつくられています。コンパクトが売りの日本車の場合、それらを車体やエンジンルーム、インパネなどそれぞれの場所に正確に組み込めるよう、幕の内弁当を作り上げるよりもはるかに緻密な計算の元、設計されています。

エンジン車と同じやり方では非効率になってしまう

そんな繊細な車づくりをするためには、各社の技術と設計をすり合わせたうえで、それぞれが担当する領域を切り分け、主要部品を開発していく必要があります。重さやバランスの少しのズレも許されないような世界なので、「ここを数グラム軽い部品に変えよう」とか「ここを数センチだけズラして」といった形で、最後はミリ単位まですり合わせて設計されています。

ここが日本車の開発チームの強みなのですが、SDVの時代になってこれが「弱み」に変わってしまいます。なぜなら、各協力会社がそれぞれ担当している部品を設計しているがゆえに、それらをコントロールする半導体部品も同様に、独自にかつ大量に組み込まれてしまうからです。

パソコンやスマホのCPU(中央演算装置)に相当する自動車の半導体として、ECU(Electronic Control Unit=エンジンの働きを総合的に制御するマイクロコントローラー)があります。日本車の場合、各協力会社が各部品をバラバラにつくり、最終的に1つにまとめるという方法をとっているので、このECUも各部品に独自に組み込まれています。

そのため、協力会社が数十社もある場合、ECUが1台に20~30個も搭載されてしまうことになるのです。つまり、バラバラのECUがそれぞれ違う主要部品を制御している状態です。

日本車が世界に置いて行かれた3つの理由

すると、それまでは安全に走行できる設計になっていたとしても、車を制御するソフトウェアを新しくダウンロードすると、アップデートに対応しきれない箇所が出てきて、車が突然走らなくなってしまったりするリスクが生じるのです。昔のパソコンでは、OSをアップデートすると古いソフトが動かなくなる現象がありました。あれと同じ現象が起きかねないのです。

テスラはそれを見越して、ECUをわずか3個に絞り込んだ設計をしています。だから車を運転するソフトウェアを頻繁に更新し続けられるのです。

さて、日本車メーカーが自動車のSDV化、言い換えるとAI化の波に乗り遅れたそもそもの原因はAI化とワンセットとなりうるはずのEV化に消極的だったからでした。

日本がEV化に消極的だった理由は3つあります。

① 日本車がよく売れていた市場は日本、北米、東南アジアだったのに対し、EV化が進んでいたのは欧州、中国だったこと。地理的に日本車が弱い市場でEVが拡大したため、危機感の共有が遅れた

② EV車は性能が低いのに価格が高いうえに、充電に時間がかかるなど欠点が多いことから、日本では官民ともに、EV車は売れないと思っていた

③ トヨタはHV技術において世界より先行していたので、EVが立ち上がった後でも短期間で追随可能だと思っていた

以上、3つの理由から2024年時点で日本車メーカーはやや絶望的に見えるほどEV車市場での存在感を失ってしまったのでした。

競争優位が「技術」以外に移った途端に追いつけない

ここでは、3番目の理由であるなぜ「技術で後追いできる」と油断していたのかについての話を進めていきたいと思います。

私のもともとの本業は大企業の戦略コンサルタントです。なので、競争戦略の観点からこの現象を説明すると、技術が競争優位の最大要因となっている間は追随できるが、業界の競争優位が技術以外のものに移ってしまうと、追随は難しくなってしまうのです。

実際、すでにEV車市場はSDV車市場へと進化を遂げつつあり、結果として競争優位のシフトが始まっています。具体的には電池などの資源獲得競争、生産設備や設計要素によるコストの優位性競争、AI性能が左右する自動運転技術の優位性競争、スーパーチャージャーやSDVのようなネットワークの外部性の優位性競争など、2020年代のEV車を取り巻く競争は、EV車そのものの技術から大きくシフトしています。

2010年代初期は、ことEV技術に関して言えばトヨタが抜きん出ていて、日本が世界をリードする立場にありました。EV技術という視点で言えば、当時の市場はハイブリッドカーがメインでした。そのため、最も重要な電池の分野でも日本勢が世界シェアのほぼ3分の2を占めていました。

トヨタの全固体電池は世界を獲れるのか

具体的にはパナソニック、AESC(オートモーティブ・エナジー・サプライ)、GSユアサの3社で、世界の電池市場の64%のシェアを持っていたのです。ところが直近で見ると中国のCATLが39%のシェア、韓国のLGが18%のシェアと、海外メーカーが電池市場を席捲するようになり、日本勢ではパナソニックが12%のシェアに踏みとどまるも、全体的には中国勢と韓国勢に市場を占められてしまう事態になりました。

ちなみに以前、日本勢2位だったAESCは日産から中国企業に売却され、現在は中国メーカーとして再建中です。

このシェア逆転の理由はEV化にあります。当たり前の話ですが、EV車はハイブリッド車の10倍の電池量を搭載しているので、EV車に注力する国の方が電池のシェアを伸ばすことができるのです。

「トヨタが全固体電池の開発で一歩先んじたので、それで競争地図はまた描き変わるんじゃないのか?」

という希望もあるかもしれません。トヨタが発表した全固体電池は、従来のリチウムイオン電池と異なり、10分で急速充電できるので、業界の競争地図を再度塗り替える可能性があります。

業界の未来を変える大きな技術だが…

それをトヨタは「2027年には市場投入したい」と言っていますが、専門家の多くは2030年までに全固体電池が普及するイメージはないと断言しています。というのも、全固体電池にはトヨタが発表した技術以外にも、乗り越えなければならない技術的な課題がまだまだたくさんあるからです。

全固体電池の難点は3つあって、固体電解質素材のイオンが動きにくかったこと、充電・放電をしているうちに電極が膨張収縮するせいで、電極と固体電解質との間に亀裂が入って使えなくなる欠点があったこと、硫化水素の発生リスクがあったことです。

業界の未来を変える大きな技術であることには違いないのですが、時間軸で捉えると、3年後の逆転の武器として期待するのは早計だと考えます。

———- 鈴木 貴博(すずき・たかひろ) 経営コンサルタント 1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』『「AIクソ上司」の脅威』など。 ———-

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