千葉県内のキャンプ施設で開催された、三菱自動車工業主催の報道陣向け試乗会にて Photo by Kenji Momota
三菱自動車工業「デリカミニ」の販売が好調だ。コロナ禍以降、ファミリーのライフスタイルが変化する中、ファッションアイテムとして注目が集まっている。三菱の人気車であるデリカを名乗る軽の走りは、実際のところどうなのか。(ジャーナリスト 桃田健史)
先行受注は絶好調でも
「デリカを名乗って本当にいいの?」という声も
2023年1月の東京オートサロン(幕張メッセ内)で量産車が初公開され、メディアやユーザーから大きな注目を集めた、アウトドアな雰囲気満載の三菱「デリカミニ」。
その発表に合わせて予約注文を開始し、23年5月25日の発売開始までに約1万6000台を受注した。そのうち、約6割が4WD、販売目標台数は月2500台だという。
広報宣伝活動では、テレビCMでファミリーによる気軽なキャンプをイメージさせたり、デリカミニのフロントマスクをイメージした公式キャラクター「デリ丸。」推しのマーケティング手法を取り入れたりしたことが奏功し、広い世代のユーザーから関心が高まっている1台だ。
一方、「デリカと名乗るが、人気のデリカD:5とはデザインテイストはかなり違うのでは?」「既存の軽で外装にお化粧しただけではないか?」、そして「オプションなしの四駆が200万円超えという価格設定は軽ユーザーには高過ぎるのでは?」といった、デリカミニの存在に対する懐疑的な見方をする人もいるだろう。
そこで今回、三菱自動車工業(以下、三菱)が千葉県内で開催した報道陣向け試乗会に参加し、デリカミニの実態について深掘りしてみた。
デリカ スターワゴンをイメージした外観
自然の中で醸し出す、デリカらしい世界観
筆者は同試乗会の最終日午後に参加した。
すると、試乗前には前述のようなデリカミニに対する懐疑的な見方をする人が確かにいたという。その上で、「こうした自然の中で実車を見て、砂利道やオンロードで走りを体験いただくと、多くの方が我々三菱のデリカミニにかける思いを理解してくれた」と指摘する。
では、ここからは筆者のデリカミニ試乗(4WD)の感想を紹介する。
デリカミニには、各グレード(T・Tプレミアム・G・Gプレミアム)それぞれで2WD(前輪駆動車)と4WD(四輪駆動車)がある。
試乗した日は午後から雷雨との予報があったため、事前にキャンプ施設内で屋外展示された各種の外装色やオプション装備を持つデリカミニをじっくり見たり、開発者らとじっくり話をするため、試乗予定開始の時間よりかなり早く現地入りしていた。
そこでまず感じたのは、「デリカの世界観」だ。
改めて、三菱「デリカ」の歴史を振り返ると、1960年代末から70年代にかけて商用車として登場したのが始まりで、80年代には当時のRV(レクリエーショナル・ヴィークル)というカテゴリーで三菱「パジェロ」が人気車となる中で、本格的な四輪駆動のワンボックスカーといった商品イメージで「デリカ スターワゴン」が一世を風靡(ふうび)した。その後、「デリカ スペースギア」、そして「デリカD:5」へと進化し、このカテゴリーで唯一無二の存在であり続けることで、多くのデリカファンを獲得してきた。
そんなデリカの世界観を、デリカミニからもしっかり感じることができるのだ。
ただし、ハードウエアとしてのデリカミニを解析すれば、20年に登場し23年1月に生産中止が明らかになったeKクロススペースに改良を施した商品である。
具体的には、フロントフード(ボンネット)やフェンダーを継承しつつ、フロントマスクを変更するなど、外装に手を加えている。
デザイナーはデリカ スターワゴンのヘリテージ(歴史)を意識したという。デリカD:5の顔のイメージを採用することも検討したが、ボディの縦横比などの関係などで、そうしたデザインの方向性だと量産車として“しっくりこなかった”という。
実際、試乗会現地にデリカD:5も用意されていたが、並べて写真をとると「まったく別のクルマ」に感じる。
結果的に、デリカミニは、デリカが商用車から唯一無二な存在の人気車へと転換したデリカスターワゴンを感じさせることで、より「デリカらしさ」が強調されたといえるだろう。
外からデリカミニを見た上での「デリカらしさ」が、車内に入っても頭の中でのイメージとして継続する。そのため、インテリアとしてはeKクロススペースから大幅な変更はなくても、「いま、デリカに乗っている」という感覚が芽生えるから不思議だ。
キャンプ施設内で、デリカミニ車内から他のデリカミニを見た様子 Photo by K.M.
どこでも“同じ感じ”で走れる
運転が楽で疲れない
次に、実車でキャンプ場内の砂利道をゆっくり走ってみた。
すると、乗り心地でゴツゴツ、ガタガタという感じはなく、かといってクルマ全体がゆっさりしているわけでもない。
ハンドル操作に対して、まるでオンロードで走っているような感じで、砂利道での走行に対する緊張感がない。誰でもがごく自然な感じで乗れる、といった表現が妥当だろう。
これを技術的な視点で解析すると、eKクロススペースよりも大径なサイズのタイヤ「165/60R15」にし、最低地上高を10mmアップ。また、ショックアブソーバーの構造を変更した上で、ショックアブソーバーの縮み側を柔らかめに、伸び側を引き締めるチューニングを施した。それ以外のサスペンション関連部品である、スプリング、スタビライザー、ブッシュなどは変更していないという。
こうした足回りの微調整が、デリカミニが目指す商品性との相性が良く、それによって「デリカらしい」走りの世界観を実現しているのだ。
いうなれば、コストパフォーマンスが高い新型車の商品企画である。
すると、路面の状況が砂利道から舗装路になり、また走行する速度域が変わってもデリカらしい世界観、ハンドリング、そして乗り心地を、砂利道で走った場合と同じように感じる。
ゆっさりとか、どっしりといった感じでもなく、ドライバーとして自然体で乗れるから、運転が楽で疲れない。速度域が上がるとパワーステアリングはしっかり感が増し、また運転支援システム「マイパイロット」の作動時のクルマの動きも実に自然だ。
パワートレインはeKクロススペースを継承しており、走行中の音や振動で気になるところはない。オフローダーだと、タイヤと路面との音が気になるようなイメージも抱く人がいるかもしれないが、デリカミニのタイヤはそうした選定をしておらず、オンロードとある程度までのオフロードを併用することを目的としている。
自動車産業大変革に本格突入
他メーカーも気にする三菱のキーファクター
最後に、三菱の事業全体の中でのデリカミニの存在について私見を述べたい。
試乗後、旧知の三菱関係者と、デリカミニ開発の意見交換をしながら、昨今の自動車産業界の大変動について話が広がった。
筆者はこの試乗会の1週間ほど前、トヨタ自動車の東富士研究所で実施された「トヨタテクニカルワークショップ2023」に参加した。そこでは、今後5年以内に多様な次世代電池や次世代プラットフォームを搭載するBEV(電気自動車)の技術の詳細説明や、水素燃料車や燃料電池車などさまざまな次世代車に試乗してきた。
ここまで大規模かつ詳細な量産を前提とした次世代技術をトヨタがメディア向けに公開したことは過去になかったと思う。そのため、ワークショップの現場では、次世代に向けた危機感ともいえるトヨタの本気を感じた。
背景にあるのは、いわゆる「100年に一度の自動車産業界大変革」である。
一方で、トヨタ以外の自動車メーカー幹部らと意見交換していても「これから先2~3年以内の経営のかじ取りで、自社ブランドとして存続できるかどうか決まる」という見解示す人が少なくない。
そうした業界全体の大きな流れの中にあって、三菱はルノー・日産・三菱アライアンスにおいて今後、どのようなブランドを目指し、そして事業を継続的に成長させていくのか?
その観点で、デリカミニは三菱とっての良き指標(または基準)なのではないだろうか。
ユーザーが三菱に対して求めていることをしっかり理解した上で、三菱が「三菱らしさ」を、自信を持って具現化させたモデル。それが、デリカミニなのだと思う。