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EVになったクラシックな「ミニ」は完璧な街乗りクルマ ただし買えるなら

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EVになったクラシックな「ミニ」は完璧な街乗りクルマ ただし買えるなら

電気自動車(EV)には個性がないという世評があるが、それは不当なものではない。効率に重点を置いてデザインすれば、空力の計算は結局似たようなものになりがちだ。クラシックカーを電気自動車に改造したクルマが非常に多くの関心(そして純粋なクルマ好きからは多くの嫌悪)を集める理由はそこにあり、昔風の自動車を運転する楽しみと、EVならではの利便性や効率性を併せ持つからだ。

英国の限定生産自動車メーカー、David Brown Automotive(デビッド・ブラウン・オートモーティブ)が販売する「Mini eMastered(ミニeマスタード)は、そんな旧時代の個性を備えた電動車の最新作だ。筆者はこのクルマの地元であるロンドンの市街地で試乗することができた。

新品のボディシェルを改良

クルマ好きならデビッド・ブラウン・オートモーティブという社名を聞いたことがあるかもしれない。同社は懐古調のリクリエーション車(作り直したクルマ)で有名だ。その製品には、近年のジャガーXKRの車体に擬古典的なデザインのボディを載せた「Speedback GT(スピードバックGT)」や、クラシック・ミニ(1959年から2000年まで生産された初代「ミニ」)を現代の技術で仕立て直した「Mini Remastered(ミニ・リマスタード)」がある。

ミニeマスタードはいうまでもなく後者のバリエーションの1つだが、同社初のEVでもある。「リマスタード」と同様「eマスタード」もクラシック・ミニに丹念なレストアを超える多くの作業が施されている。ドナーとなる(中古の)クラシック・ミニをベースにしているものの、スチール製のボディシェルは、ブリティッシュ・モーター・ヘリテージ(英国製クラシックカーの補修用パーツを今も製造・供給している)が製造するまったくの新品が用いられている。これはドアを閉めればすぐにわかる。高級ドイツ車も羨むような「ズシン」というしっかりした音がするからだ。

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ミニeマスタードはロンドン市街地の路上にすっかり溶け込んで見える(David Brown Automotive)

ミニeマスタードはロンドンの路上によく馴染んでいる(David Brown Automotive)

そのデザインは、1959年に登場したオリジナルのミニを思い起こさせるが、目立たないように改良されており、奇妙な現代的な工夫が施されている。オリジナルのミニはドアの前に溶接の継ぎ目があったが、eマスタードではここがなめらかに平らに処理されている。ただし、ルーフ周囲の溝(雨どい)はそのまま残されている。

ホイールアーチは、よりワイドなタイヤが収まるように拡げられている。ボディは防錆処理と電気泳動コーティングが施され、塗装の工程には4週間かかるという。顧客は好きな塗色を選べるが、筆者が乗ったクリーム色のボディとブロンズ色のルーフを組み合わせた2トーンのカラーリングは、格別に上品な一例だ。ルーフの色は高級感のある内装にも反映されており、ダッシュボードにはエクステリアを引き立てる微かなグラデーションが施されている。

エクステリアは1959年当時の見た目を保っているが、その中にはLEDを使用したヘッドランプとテールランプ、ウインカーなど、現代のテクノロジーが盛り込まれている。ホイールにはオリジナルの10インチより大きい12インチが選択されており(クラシック・ミニも1985年より12インチになっている)、タイヤの幅も145mmから165mmに拡大。バンパーはドアハンドルやサイドミラーと同じクローム仕上げだ。前後ランプの周囲、窓枠、そして充電ポートにもクロームメッキが施されている。全体の見た目はとてもクラシックだ。

現代的にアップデートできなかった「室内の狭さ」

このミニでも現代的にアップデートできなかった点がある。それは室内の狭さだ。前席の空間は大人が2人座っても問題ないが、後部座席に座る人は、子どもでさえ窮屈な思いをするだろう。ミニeマスタードでも4人の大人を運ぶことはできる。だが、後席に追いやられたら快適な乗り心地は望めないし、後席に乗り込むことも容易ではない。しかし、フロントシートは非常に快適で、贅沢な革張りで仕上げられている。

すべてのスイッチ類はしっかりした質感で、ローレット加工が施されたアルミ製。ブレーキペダルを踏みながらスタート/ストップボタンを押すとシステムが起動する。ギアシフトを模したレバーを後方に倒すとドライブ(前進)、丸いリングを引き上げながら前方に倒せばリバース(後退)を選択できるが、駐車する際に助けてくれるカメラやセンサーの類はない。ハンドブレーキは手動式。センターコンソールにはハザードライトやフォグランプ、リアガラスの熱線(曇り取り)のスイッチが並ぶ。時計や中央の特徴的なスピードメーターなど、ダッシュボードの丸いアナログ式の計器は往時の雰囲気を保っている。

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インテリアは高級に設えられているが、オリジナルのミニと同じく狭い(David Brown Automotive)

発売当初のオリジナル・ミニにはエアコンが装備されていなかったため、デビッド・ブラウン・オートモーティブは苦心してこれを小さなエンジンルームに押し込んだ。このエアコンはとてもよく効く。とはいえ、冷風は中央に備わる2つの通風口からしか出てこない。ダッシュボードの両端にあるほかの2つの通風口は、車体外側の外気取入口につながっているだけで、空調を通っていないのだ。

パイオニア製の7インチ・スクリーンを備えたちゃんとしたインフォテインメント・システムも装備されている。これは衛星ナビを搭載しているが、アップルのCarPlayやAndroid Autoにも対応しているので、おそらく自分のスマートフォンの地図アプリをナビゲーションに使うことになるだろう。グローブボックスには携帯電話接続用のUSB端子も備わる。パイオニア製のサウンドシステムは4個のスピーカーを駆動する。それがサンディ・ショーやルル(どちらも1960年代より活動している英国の歌手)、ビートルズの曲をとても効果的に聴かせることは確認できた。おそらくもっと最近の音楽でも、それは変わらないだろう(あまり素直に認めたくないが)。

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Apple CarPlayとAndroid Autoに対応する現代的なインフォテインメントシステムも搭載(David Brown Automotive)

全体的な印象は愛情を込めて作り直されたクラシック・ミニの再生産車だが、現代的な快適性も備わっている。運転するとオリジナルのミニと同様のゴーカートのようなハンドリングが感じられるが、スピードに対する潜在的な能力ははるかに高い。しかし、今回の試乗ではロンドンの街中を走り回っただけなので、残念ながらこのミニeマスタードが持つ性能を限界まで引き出すことはできなかった。

実際、ロンドン市街地のほとんどは制限速度が20マイル(約32km/h)に設定されており、30マイル(約48km/h)まで出せる区間はわずかだった。また、私は最近、金塊を盗んだ覚えもないので、映画『ミニミニ大作戦(原題:The Italian Job)』のようにパトカーから逃げるための運転をする必要もなかった。とはいえ、今回のようにゆったりとしたペースでも、ミニeマスタードは状況をわきまえた楽しさに溢れていた。

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動力性能はオリジナル・ミニのすべてのモデルを凌ぐ

英Zonic motors(ゾニック・モーターズ)製のモーターは最高出力72kW(98ps)と最大トルク175Nmを発生し、前輪を駆動する。比較のために挙げると、クラシック・ミニの直列4気筒エンジンは最終型でも最高出力62ps、最大トルク94Nmだった。デビッド・ブラウン・オートモーティブの「ミニ・リマスタード(今回紹介しているeマスタードのエンジン版)」では71hp(72ps)にチューンされている。

eマスタードはEVならではの瞬時に発生するトルクを活かし、これまで生産されたどのクラシック・ミニよりもはるかに力強く加速する。クラシック・ミニで最強と謳われた1275ccエンジン搭載の「クーパーS」でも0-60mph加速は11.2秒だが(850ccの最初期のモデルは延々と24.9秒もかかった)、eマスタードは8.5秒で62mph(約100km/h)に達する。現代のEVの基準から見たらものすごく速いというわけではない。しかし、交通の流れが遅い市街地では驚くほど活発に感じられる。信号待ちからのダッシュでは多くのクルマを楽々と置き去りにできるだろう。

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英ゾニック・モーターズ製モーターは1275ccエンジンを凌ぐ(David Brown Automotive)

運転席の右側にあるノブでは「ノーマル」モードと「スポーツ」モードを切り替えることができる。後者を選択するとアクセルペダルを強く踏み込んだときにわずかにトルクステアが発生する。この小さな車輪にもかかわらず、乗り心地も満足できるものだ。スピードバンプやロンドンの道路によくあるひどい窪みを乗り越えると明らかに跳ねるが、十分我慢できる程度に収まる。

ステアリングはスポーツカーのような正確さは感じられないものの、短いホイールベースと640kgという車重(オリジナルのミニと同等)のおかげで、コーナーに威勢よく飛び込むことができる。もっとも、ロンドンのほとんどの場所では20mphを超える速度は出せないが。しかしブレーキは、十分に制動力を発揮させるためにはかなり強く踏む必要がある。現代のEVでは即座にブレーキが効くのが普通だから、これは慣れるまで少し時間がかかるだろう。

ミニeマスタードで、風の強い英国郊外の道路を100km/h近い速度で走るのはとても楽しいだろうとは思うが、都市部からあまり遠く離れるのは考えものだ。搭載するバッテリーの容量は18.8kWhしかなく、一度の満充電で走れる距離は、国際基準のWLTPモードで177km。しかも、充電はACのみでDC急速充電には対応していない。長距離旅行に出かけるなら長時間の充電待ちが避けられない。自宅で充電して近所の短い距離を走るという使い方に留めたほうが無難だ。

バッテリーパックは、モーターが搭載されているフロントと、そしてリアの2カ所に分けて積まれているため、荷室は少し狭くなっている。だが、ハロッズで買物したり、スポーツジムに通うためのバッグをいくつか積む程度のスペースはあるし、内装はシートと同じ高級なレザーで仕上げられている。

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荷室もぜいたくな革張り

荷室も高級な革張り(David Brown Automotive)

誰からも好感を持たれるクルマ

これまで私が試乗した中で、eマスタードほど周囲の注目を浴びたクルマはほかにない。ハイドパークで停車していた時には、通り過ぎるほとんどすべての人、しかもオリジナルのミニをほとんどあるいはまったく知らないような若者たちからも、好意的な言葉をかけられた。中でも最高だったのは、反対方向に向かうロンドンタクシーとすれ違った時、黒人のタクシー運転手が微笑んでうなずいてくれたことだ。ほぼ100%の人たちから称賛を得られるクルマがほしいなら、これ以上の選択はあまりないだろう。

すべてが牧歌的ですばらしいクルマのように聞こえるだろうが、1つだけ問題がある。顧客の注文に応じて1台ずつ手作業で製作されるミニeマスタードは、けっして安くはない。実はかなり高価である。一切の税金を含まない基本価格は12万5000ポンド(約2400万円)。だから、近所の路上でミニeマスタードを目にすることはあまりないだろう。しかし、このクルマを見せたら誰もがほしいと言った。価格を聞くまでは。もし、そこまで予算に余裕があるのなら、ミニeマスタードは格別に裕福な人のための完璧な街乗り用クルマとなるだろう。

(forbes.com 原文)

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