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欧州で止まらない「ハイブリッド」シフト。EV政策「普及」から「競争」転換で見える現実

欧州で止まらない「ハイブリッド」シフト。ev政策「普及」から「競争」転換で見える現実

ヨーロッパで、ハイブリッド車(HV)販売の勢いが増している。

欧州自動車工業会(ACEA)は4月18日に3月の乗用車における新車販売台数の統計を発表。今年初めて前年割れとなる5.2%減の100万台となった一方で、販売割合を見るとHVが29%(前年同期は24.4%)にまで伸びていた。第1四半期(1〜3月)合計でも、HVの販売台数は前年比で約20%増の80万1315台と成長。EUの新車販売台数約280万台のうち28.9%がHV(同25.2%)と、ガソリン車の35.4%に迫っている状況だ。

一方、気候変動対策として欧州各国が普及を急ぐ電気自動車(BEV)の1〜3月の販売台数は、前年比3.8%増の33万2999台という着地に。販売台数こそ微増となったが、1〜3月の市場シェアは12%と前年からほぼ横ばいとなっている。

ドイツのEV普及シナリオは転換点に

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3月の新車販売比率。HVの販売比率は、3月単月だと29%に達した。

2023年、EUではHVの販売の伸びが市場をけん引した。その傾向は、2024年に入っても続いている状況だ。日本貿易振興機構(JETRO)でヨーロッパの自動車業界にくわしい安田啓氏は、

「全体傾向としては、ディーゼル車やガソリン車の販売が減って、BEV、HVが増えています。ただその中でも、ハイブリッドが好調という傾向です。この傾向は昨年から大きく変わっていないと思います」

と、EUの市場傾向を指摘する。

ACEAによると、3月のBEV販売台数はベルギーで23.8%増、フランスで10.9%増と国によっては引き続き増加傾向にある一方で、ドイツでは28.9%減と大きく減少。ドイツのBEVの低迷は、2023年12月に補助金制度が終了した影響だ大きい。

ドイツでは、BEVの累計販売台数を2030年までに1500万台にする目標を掲げているが、1〜3月のBEVの販売実績は8万1337台。JETROの資料によると、2024年1月1日の段階でドイツ国内で車両登録済みのBEVは全体の2.9%の140万8681台と道半ばだ。

安田氏は

「2030年までにBEVを累積で1500万台販売するには、年間で190万台程度販売する必要があります。ドイツ政府が掲げた野心的な目標に比べると、BEV普及のシナリオはうまく進んでいないという見方が大勢を占める。市場動向によっては、別の販売奨励策が検討される可能性もありますが、2023年後半に予算の面でかなり制限的な予算を組むことになったこともあり、積極的な財政政策も打ち出しにくい状況です」

と難しい舵取りが要求されている状況だと指摘する。

EV政策は「普及」から「競争」重視へ

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EUでは、EVシフトの加速を目的に、2035年にHVも含めた二酸化炭素を排出する乗用車と小型商用車の販売が禁止される。ただ、現状ではBEVよりもHVの販売数の方が伸びている状況だ。安田氏はその背景として「価格的な側面は小さくない(HVの方が安い)」とした上で「消費者の感覚としてまだ時間的な猶予がある」ことも要因の1つになっているのではないかと話す。

また、安田氏によると、この規制に伴い、EU内では中古車市場に消費者が流れて新車販売の競争力が低下してしまうのではないかとの懸念も出てきているといい、この先の制度設計の動向が注目される。

ポイントになるのは、2024年6月に控える欧州議会選挙だ。ここで、これまでEUが進めてきたグリーン政策に対する市民からの評価が下されることになる。安田氏によると、直近の欧州理事会では「グリーン政策を推し進めていくとはいえ、EUの産業の競争力の逆風になってはならない」という考え方も強まっているという。

EUのグリーン政策がこれまで通りに進むのか、「競争力」をキーワードに軌道修正が図られるのか、選挙の結果次第で今後の方針が自ずと変わってくるはずだ。

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