写真:AD高橋
今回は、スバルの新SUV「レヴォーグ レイバック」編の2回目。前回の試乗記編に続き、今回からは開発者インタビューをお届けします。東京・恵比寿のスバルビルに行って、たっぷり話を聞いてきました。(コラムニスト フェルディナント・ヤマグチ)
レイバック試乗時に起きた、ある「事件」
みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今週も明るく楽しく、ヨタ話からまいりましょう。
本編でお届けするレヴォーグ レイバック(以下、レイバック)の開発者インタビュー。前号の試乗編ではレイバックを宮崎に持っていき、向こうでサーフィンを楽しんだ話をお伝えしましたが、実はそのサーフィンが原因で、一発大きなミスをやらかしていたのです。
宮崎ー神戸間を往復する 宮崎カーフェリー 。大きい船なので揺れも少なくとても快適です Photo by Ferdinand Yamaguchi
波乗りに出るときに気をつかうのは「クルマの鍵をどうするか」問題です。差し込み式の小さな鍵なら海ショーツのポケットに入れておけばいいのですが、最近の鍵は大抵リモコン式になっているので水に浸けられない。レイバックの鍵も電子式なので海には持って入れない。どこかに隠しておかなければなりません。
自分のクルマなら(サスペンションの上の方の皿とか)適当な場所に置いておけば良いのですが、試乗車を盗まれたりしたら大事ですから、ロック式のキーボックスに入れてクルマに固定しておくことになる。で、ここで問題が発生しました。最新のインテリジェントキーは体積が大きく、キーボックスのフタがなかなか閉まらないのです。無理に閉めたら、今度はフタが開かなくなってしまいました。中のフックに鍵が干渉しているようで、暗証番号は合っているのにフタが開かないのです。いやはや往生しました。
これが問題のキーボックス Photo by F.Y.
朝の波乗りから、そのまま住宅の工事現場へ向かう波乗り仲間が大きなハンマーを持っていたので、それを借りて箱ごとブチ壊そうと考えたのですが、「いや、中の鍵が潰れちゃいますよ」と止められました。電ノコはあるがサンダー(電気丸ノコ)は持っていないとのこと。AD高橋氏と相談して、やむなく“箱ごと”返すことになったのでした。スバル様。ご迷惑をおかけいたしました。大変申し訳ございません。
ちなみに車両返却時にスバルの整備の方とお話しされた高橋氏、「これは壊し甲斐がありますねぇ」と言われたそうです。
「サーキットの狼」池沢早人師先生に会いました
他誌の取材で「サーキットの狼」で有名な漫画家の池沢早人師(いけざわさとし)先生に会ってきました。漫画家デビューは高校在学時、名著・サーキットの狼の連載開始は24歳の時だそうです。なんと早咲きな……。
漫画家の池沢早人師先生と Photo by F.Y.
三田の名店「ホルモン まさる」で極上の内臓料理を賞味してまいりました。2時間一本勝負の入れ替え制。安くておいしくて煙モクモクです。
いつもの仲間と。おいしゅうございました Photo by F.Y.
みずほ証券から銀行へと異色の異動をした澤田くんからは昨今の金融事情を、ゲーム開発の会社を経営する野津くんからは最新のNFT事情を伺いました。いや、勉強になりました。2時間なんてあっと言う間でした。
ということで、本編へとまいりましょう。スバル レヴォーグ レイバックの開発者インタビューです。
レイバックの開発責任者に話を聞いてきました
スバルが絶好調である。
レヴォーグの名が冠されることから分かるように、このクルマはスポーツワゴンのレヴォーグをSUVに仕立てた派生車種。だが、単純に車高を上げて加飾しただけの急ごしらえではない。キッチリと造り込まれた本格SUVであることは、前号の試乗編でお伝えした通りだ。
スバル「レイバック」とベース車「レヴォーク」の決定的な違い…1200kmのロングドライブで検証!~SUBARUレヴォーグ レイバック(試乗記編)
スバルが標榜(ひょうぼう)する「都会派」とは何か。今までのスバル車と何が違うのか。レヴォーグが開発された当初は企画されていなかったクルマが、急遽造られた背景には何があるのか。
開発責任者に直接話を聞きに行った。レイバックを企画した小林正明さん。実際に車両の開発を担当した藤井忠則さん。顔なじみの広報担当者2人もインタビューに立ち会っている。
スバル「レイバック」の開発者にインタビューしてきました 写真:AD高橋
最近、「都会的な匂いのするSUV」が売れている
SUBARU 商品企画本部 プロジェクトジェネラルマネージャー 小林正明さん(以下、小):まずはこちらの資料をご覧ください。レイバックが造られた経緯からお話しします。
レイバックの商品開発が始まる前にスバルが行った調査の結果 提供:スバル
小:(スクリーンを指さして)左のグラフにあるのがお客様から見たスバルのイメージです。我々はもうゴリゴリにアウトドア側。スバルのクルマに乗って、海や山に繰り出すイメージ。お客様はそのように思っている。そして我々もお客様の思いに精いっぱい応えようとクルマを造ってきた。海や山に似合うクルマがスバルらしくて一番いいんだ、こう思ってやってきました。
一方でSUVの販売を見るとこうです。円の大きさはそのクルマの販売台数を表している。都会派の側にこんなに大きな円があります。残念ですがスバルではなくタメイです。海や山に行くよりも、街で乗るイメージ、都会的なイメージのクルマです。
フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):あのスミマセン。「タメイ」というのは……?
小:他社さんではそう言わないですかね。スバル用語かもしれません。タメイは「他銘」。他社の「他」に銘柄の「銘」で他銘と言っています。他社ブランドのクルマを表す言葉です。
F:他銘と書いてタメイ。なるほど。いま売れている国産SUVで都会的、となるとハリアーですか?
小:ちょっと他社さんのことはアレなんですが……はい(苦笑)。あとはホンダさんのヴェゼルとか、マツダさんのCX-5とか。その辺りの、都会的な匂いのするSUVがよく売れています。お客様のニーズは明らかにこちら側に来ています。市場はこういう都会的なクルマを強く望んでいるということが分かります。
SUBARU 商品企画本部 プロジェクトジェネラルマネージャー 小林正明さん Photo by A.T.
ゴリゴリにアウトドア派のスバルに「都会的SUV」はなかった
小:スバルはゴリゴリのアウトドア派。市場のニーズは都会的。そして我々のラインアップには都会派と呼べるSUVが存在しない。もはや「スバルはゴリゴリ系の会社だから」とばかりも言っていられない状況になってきた、ということです。
一方でスバルは中期経営計画の中で「モノ造り革新」をしていこう、お客様に新しい価値を提供しよう、という大きな流れがあります。それが合わさって、今回のレイバックを企画した、というわけです。
F:私も今まで、ずっとそう思ってきました。スバルはタフでアウトドア派のイメージが強いですよね。あとは「安全」かな。スバルと言えばアイサイト。アイサイトの貢献は非常に大きい。「スバルのクルマは安全」というイメージづくりに大きく寄与した。やっぱり「ぶつからない」というイメージは大きいですよね。
AD高橋:アイサイトはもはや運転支援システムの代名詞になっていますからね。冗談抜きで、他社の販売店に行って「アイサイト付きのクルマをください」と言う人がいるくらいで。
F:モスバーガーに行って「マックシェイクください」と言うのと同じよね(笑)。
AD高橋:そうそう(笑)。でも、言われた方はかなりの屈辱です。
AD高橋:それはちょっと意味が違いますよ……。
アイサイトは「安全」だけでなく運転もしてくれる?
小:いまフェルさんが言われた「安全」というのもそうです。グラフが表す通り、スバルは「安全」のイメージが他銘よりも強い。ご指摘の通り、これはアイサイト効果です。
F:ぶつからないのもすごいですが、自動運転の機能もすごいですよね。今回試乗で東京~神戸を高速道路で往復したのですが、本当に楽チンでした。あれは本当にすごい。
小:気を付けていただきたいのですが、アイサイトは自動運転ではありません。あくまでもレベル2の運転支援、アダプティブ・クルーズ・コントロールです。自動運転じゃないんです。
F:実際はほとんど自動運転じゃないですか。ハンドルから手を離すとピーピー警告音が鳴ってうるさいから、一応手をかけておくけれども、前のクルマが加速したら合わせて加速する。減速すれば良い具合に減速する。もちろんカーブもRに合わせてちゃんと曲がっていく。割り込んでくるクルマにも対応する。最初は半信半疑でしたが、町田を過ぎた辺りですっかり信用しちゃって、本当にクルマに任せきりで神戸まで行きました。
小:アイサイトの開発担当者に伝えておきます。とても喜ぶと思います。ほめていただくのはとてもありがたいのですが、スバルとして、あくまでもあれは「運転をアシストする機能である」と言っています。「自動運転」と謳ってしまうと、本当に広い意味で取られてしまうので。やっぱり誤解をされて、むちゃな運転をされてしまうこともあって……。
F:運転しながらスマホを触っちゃうとか。
小:本当にそうなんです。機能を過信して、それをやってしまうお客様が必ずいるんです。ですから我々はあくまでも「運転支援」と言っています。だからハンドルから手を離せば警告音を鳴らしますし、前方から視線を外して運転を続ければ、やはり警告音を鳴らします。
今のアイサイトは「運転支援」で、「自動運転」ではありません
F:本当はできるんですよね。完全手放しで走り続けられるし、スマホを触りながら走ることもできる。本当はできるのに、やらないだけですよね。
小:そこはやはりレベル2ですので。法律の問題もありますし。
自動運転は「レベル1」から「レベル5」まで段階がある。レベル1~2はあくまでも運転支援で、クルマが完全に自動で運転するのはレベル5となる 出典:国土交通省
F:例えば名神高速から新名神に入る草津ジャンクション。あそこは自動車専用道路なのに、ジャンクションの手前で急にレーンキープを放棄しちゃう。すぐにハンドルを持てる状態で、どこまで行けるのかギリギリまで試してみたのですがダメでした。曲がらないで真っすぐ行こうとしちゃう。ジャンクションではアシストをやめてしまう。あれはあえてそういう設定にしているんですか? 本当はそのまま曲がって行けるのに、あえてやめてしまってるんですか?
小:行けます。本当は、機能的にジャンクションでも曲がれる能力を持っています。でもご指摘の通り、そこはあえてやめています。言い方が難しいのですが、お客様にあまり油断……油断というか、安心しすぎないで、クルマに任せすぎないでほしいんです。
F:要するに、客を甘やかさない、ということですか?
小:甘やかさないとまでは言いませんが、過信しないでいただきたいです。あくまでもレベル2ですので。アシストであって自動運転ではありませんから。
F:なるほど分かりました。あとは居眠り警告。あれが少し行きすぎです。普通に起きて運転しているのに、居眠り警告がポーンと鳴る。何度も鳴ったので、よほど自分が眠たい顔をした人間なのかと自己嫌悪に陥りました(笑)。あの検知感度は調整できないんですか?
小:調整はできません。難しいところなのですが、本当に居眠りの時に鳴らないよりは、白黒付けがたい状態でも鳴らしたほうが良いだろうという判断です。私も運転中にちょっと頭をかいたりこすったりすると、ポーンと鳴っちゃいます(笑)。
サングラスを掛けていたら、居眠り検知機能はどうなる?
SUBARU 技術本部 車両開発統括部 主査 藤井忠則さん(以下、藤):サングラスですね。サングラスをすると、その検知機能はオフになります。ドライバーモニタリングシステムは、車内のカメラで人間の顔を認知して目の方向などを見ながら予測しているのですが、 サングラスをすると目の動きが認知できないんですよ。それでいったんキャンセルするように設定されています。
SUBARU 技術本部 車両開発統括部 主査 藤井忠則さん Photo by A.T.
F:それは裏技ですね(笑)。居眠りをしたければサングラス、って悪ふざけすぎるか。
藤:裏技と思われると困るのですが、サングラスをして運転すると、「DMS機能キャンセル」という表示が出てきます。もう自分でちゃんとやってください、という感じで。
小:スマホのロック解除のほうが、緩やかなのかもしれません。クルマの場合は人命がかかっているので……。
F:いやいやスマホだって同じですよ。人命はかかっていませんが、人生がかかっている。見られるとヤバいLINEとか、小林さんにだってあるでしょう。
小:え? いや……僕はありませんよ。私は大丈夫です。
F:見られたら人生が破綻する人はたくさんいると思いますよ。ヘタしたら嫁さんに刺されるかもしれない。ある意味スマホも人命がかかっている(笑)。
編集アヤノ:……ちょっとフェルさん。クルマの話をしてくださいっ。いつもこんな感じでインタビューしてたんですか? 日経さん、よく我慢してたなぁ。
AD高橋:いつもこんな感じですよ。覚悟しておいてください(笑)。
F:そうそう。人間、覚悟が大事ですよ。
編集アヤノ:いやぁぁぁぁぁぁぁぁ……(泣)
この話は次号に続きます。
「ノーマル車の車高を上げてSUV」は、古くて新しい手法
こんにちは、AD高橋です。
スバルのスポーツワゴンであるレヴォーグの最低地上高を55mm高めて、ワゴンベースのクロスオーバーSUVに仕立てられたレヴォーグ レイバック。この手法はスバルが得意とするものです。
BG型レガシィ グランドワゴン(広報写真)
80年代後半からクロカンRVブームが到来。スバルはレガシィ ツーリングワゴンを大ヒットさせます。しかし当時のスバルにはクロカンSUVのラインナップがなかったため、2代目のBG型レガシィ ツーリングワゴンをベースに車高を高くしてSUVテイストを盛り込んだレガシィ グランドワゴン(海外名:レガシィ アウトバック)を開発。1995年8月に発売しました。
当時、この手法は急場しのぎだったとも言われます。しかしBG型のグランドワゴンはアメリカでヒットし、日本でも支持されました。その後、1997年8月にはレガシィ グランドワゴンからレガシィ ランカスターに名称変更。3代目となるBH型にもランカスターが設定されました。そして4代目のBP型から北米と同じレガシィアウトバックに名称変更。アウトバックは現在でも生産される人気モデルとして確固たる地位を確立しています。
BH型レガシィ ランカスター(広報写真)
アウトバックの成功は、世界の自動車メーカーに影響を与えた
アウトバックのヒットは、世界の自動車メーカーに大きな影響を与えました。先週の本編でフェルさんが紹介したように、ボルボは1996年にV70XCを発売。後にV40クロスカントリー、V60クロスカントリー、V90クロスカントリーも登場しました。
アウディは2006年にA6アバントをベースにしたA6オールロードクワトロを発売。2010年にはA4アバントベースのA4オールロードクワトロを発売しました。メルセデス・ベンツもCクラスとEクラスのワゴンをSUVにしたオールテレインを発売しています。
この手法はスバル以外の日本車メーカーも取り入れます。日産がLサイズワゴンの2代目ステージアをベースに最低地上高を40mm高めたAR-X FOURを設定。2代目ステージアは大人のイメージを強調したプレステージワゴン。それがSUVテイストになったAR-X FOURも高級感にあふれたモデルで、当時はかなり憧れたものです。
ノーマル車の全高を上げてSUVに仕立てたモデルといえば、古くはこんなものもありました。
フォルクスワーゲン ゴルフカントリー
フォルクスワーゲン ゴルフ(ゴルフ2)の4WDモデルであるゴルフシンクロをベースに最低地上高を高めたゴルフカントリーです。フロントにはプロテクターや大型のフォグランプ、アンダーガードが付けられ、リアにはスペアタイアを背負っているクロカンさながらといった仕様。最低地上高もアウトバックなどとは比較にならないほど上げられています。
日本に導入されたのはわずか1年で、台数は100台程度と言われています。現在でもゴルフ専門店ではたまに入庫するようですが、左ハンドルのMTのみの設定でエアコンも付いていないので、乗るにはかなり気合が必要です。
スバル「レイバック」とベース車「レヴォーク」の決定的な違い…1200kmのロングドライブで検証!~SUBARUレヴォーグ レイバック(試乗記編)