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【Q&A】「EV専用プラットフォーム」ってなに、実用化されるとなにがどう変わるのか?

「EV専用プラットフォーム」ということばをよく耳にするようになってきた。果たして従来のガソリン車用プラットフォームとはどこが違うのだろうか。そして、それは我々のカーライフにはどんな影響があるのだろうか。そのアウトラインを解説する。(タイトル写真はステランティスのEVプラトフォームイメージ図)

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生産工程がシンプルになり価格も下がる

端的に言ってしまえば、それぞれの物理的な特徴はもちろんだが、そもそもの考え方がまったく異なる。内燃機関時代のプラットフォームは、車台あるいはシャーシとも呼ばれて、乱暴に言えば、エンジンやサスペンションの搭載スペースとフロア部分を連結した「自動車のなかで一番大きいパーツ」だ。これがクルマの基本性能を決めてきた。

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トヨタのヤリス系に採用される従来型プラットフォームの「TNGA-B」。開発には膨大な工数と労力、そしてコストが費やされている。

サイズはもちろんだが、運動性能や乗り心地などはプラットフォームの出来如何にかかっている。多様な商品カテゴリー(派生車種など)に対応させる必要もあり、その開発には各自動車メーカー独自のノウハウと膨大な時間、コストが費やされてきた。

対してEV専用プラットフォームというのは、読んで字のごとく既存のエンジン車用プラットフォームを転用するのではなくEVに特化したもの。床下(フロア)に大量のバッテリーを敷き詰めた構造に象徴される文字どおり「車台」である。最近では、バッテリーそのものをプラットフォームの構造部材として用いる手法も実用段階にある。

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去る7月5日発表されたステランティスの最新EV専用プラットフォーム「STLA-Medium」。

これを生産工程の視点から見ると、ボディサイズや車両タイプによっていくつかのEV専用プラットフォームを用意しておけば、あとは独自デザインのアッパーボディとパッケージングを組み合わせ、車両ごとに求められるスペックに合わせたバッテリーやモーターを搭載すればよい。

たとえば個性豊かなブランド(フィアット、アルファロメオ、プジョー、シトロエン、クライスラー、ジープほか)を数多く展開するステランティスは、今後4つのEV専用プラットフォームに集約することを発表済みだ。開発に要する時間は大幅に圧縮され、生産工程も大幅に短縮できる。現在は高価なEVも、近い将来はガソリン車と変わらない価格に下がることが期待できる。

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ステランティスは2021年に開催されたEV DAYで2030年までに全ブランドで4種類のEV専用プラットフォームに集約することを発表している。

ハードウェアとソフトウェアの重層構造に

とは言え、それだけではメーカーやブランド・車種ごとの差別化は容易ではない。自動運転時代の本格到来をも見すえて、車両を統合制御するいわゆる車載OSとソフトウェア、さらにその上にさまざまなアプリケーションが重なった重層構造を採用するいわゆる「E/Eアーキテクチャー(Electrical/Electronic Architecture」の実装にこそEV専用プラットフォームの真価がある。

アンダーボディ部は文字どおり土台であり、ハードウェアの一部だ。一方で車載OSとアプリケーションによって、乗り味や運動性能は理論的にはいかようにでもカスタマイズできる。ここに長年に渡って車両開発のノウハウを蓄積してきた自動車メーカーの強みやブランドの個性が発揮できる。

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ホンダが2026年に市場投入する新型EVに実装する「Honda e:Architecture」の概念図。EVに最適化した車台の上に、車載OSやアプリケーションが重層的に重なった「E/Eアーキテクチャー」だ。

潮目が変わり始めるのは2〜3年後

現在、EV専用プラットフォームの開発で先行しているのは米テスラと中国勢だ。とくに中国勢はEV開発に特化する目標を掲げ、早期からEVプラットフォームとしてハードウェアとともにソフトウェアの開発に邁進してきた。結果、圧倒的な低価格の実現とともにADAS(先進運転支援システム)機能においても世界の最先端をいくレベルに達している。

EVの潮目が大きく変わるのは2025年あるいは2026年というのが、自動車業界の定説になっている。中国勢の先行を許した欧州勢や米国勢も、このタイミングで次世代EV専用プラットフォームを採用した新型EVを大量投入してくるからだ。

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EV専用プラットフォームで先行するのは米国テスラと中国勢(写真はBYDのATTO3に採用されるe-Platform3.0)。

日本ではトヨタは次世代EVプラットフォームを搭載した新型EVを2026年に発売する計画だが、その前年には車載OSである「Arene」を完成させることを宣言している。ホンダも2026年には次世代EV用プラットフォーム「Honda e:アーキテクチャー」を採用する新型EVを投入予定である。

カーライフも大きく変貌する

よく引き合いに出されるスマホのように、EVにおいてアンダーフロアはスマホの筐体に相当し、そこにAndroidやiOSのようなOSを組み込み、ADASや自動運転領域を含むさまざまなアプリケーションでユーザーエクスペリエンスを提供するというのが近い将来のEVの姿だ。

ソフトウェア部分に各自動車メーカーのノウハウを注ぎ込むことで、内外装のデザインやパッケージングとともに独自性が発揮される時代がやってくる。

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トヨタは2026年に「Arene OS」を実装した新型EV専用車の発売を予定。注目すべき新型車だ。

またソフトウェアはいわゆるOTA(Over The Air)で随時更新されるので、クルマの価値は目減りせず、いつも最新の状態にアップデートされる。

その結果、自動車のビジネスモデルも大きく変わるだろう。アプリを介した、さまざまなサブスクリプションサービスも盛んになるのは間違いない。つまり、EV専用プラットフォームは、単なるハードウェアの革新ではなく、我々のカーライフを大きく変える起爆剤となるかもしれないということなのだ。

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