「東京オートサロン」クルマ好きがワクワクする理由
今年も自動車業界の年明けは東京オートサロンから始まった。そもそもカスタムカーの祭典である同イベントは、国内トップカテゴリーのレーシングチームの参戦体制や新型車のお披露目など、クルマ好きの関心を集めるセレモニーであふれかえっている。
海外からの来場者も多く、米国やオーストラリア、アジアの日本車好きがこの時期に大挙して来日し、日本のクルマ文化を堪能するツアーを楽しむ姿が多く見られる。
彼らのお目当てはJDM(ジャパン・ドメスティック・メイドの略=日本車を日本製のパーツでカスタムした日本仕様のカスタムカー)と呼ばれる、ボディーから足回り、パワーユニットまで手が加えられた最新のカスタムカーだ。海外では模倣品も横行しているようだが、アルミホイールやチューニングパーツも日本のブランドでまとめてカスタムすることが、日本車好きのマニアにとってステータスにもなっているのだ。
日本のクルマ好きも海外のクルマ好きも、やはり新作エアロパーツやド派手なチューニングカーを求めて来場する人が圧倒的だ。最近の旧車ブームもオートサロンの人気を後押しし、オートサロンも旧車人気をけん引することにつながったのだろう。
●自動車メーカーの積極的な出展が目立つ
今回もトヨタは「GRヤリス」の改良版を持ち込み、ホンダは新型「アコード」や「シビック タイプR」の無限仕様を展示するなど、スポーツカー好きをターゲットにしたモデルを展示。ブースには人だかりができていた。
マツダはコンセプトモデルとしながらも、今後の販売を念頭にした限定モデルを展示していた。スーパー耐久選手権で戦ったレースマシンを並べるとともに、昨年のレース活動からのフィードバックを感じさせる限定モデルの内容が、来場者から熱い視線を集めていた。
その一方で、メルセデス・ベンツやヒョンデ、BYDといった輸入車メーカーもブースを展開していた。ヒョンデは「アイオニック5」の高性能モデルを持ち込んでいたが、オートサロンではややインパクト不足の感が否めなかった。BYDのブースもオートサロンでは埋没している印象を受けた。
メルセデス・ベンツのブースは広く、F1マシン(ホンダも展示していた。当然ながらモックアップだろうが)まで展示していたものの、高級車に興味を示す来場者は、このイベントでは少なめに感じた。それでも長期にわたって出展を続けることでブランドイメージの浸透を図り、独自の世界観を理解してもらいファンを獲得するという、先々を見据えた展開なのであろう。
整備士の専門学校の卒業制作であるカスタムカーの展示も毎度恒例のことだ。ペイントや板金の技術、デザインやアイデアなど、生徒それぞれの得意分野が込められたカスタムカーたちはどれも見ていて楽しいものだった。クルマの整備業界は、車両の電子制御の高度化により、コンピュータ診断にメカニックが従う時代になってしまっている。それもあって、存分にクルマいじりができる卒業制作はさぞかし楽しい思い出となることだろう。
●新しいモビリティの提案も受け入れる柔軟さ
オートバイメーカーのヤマハは、昨年秋のジャパンモビリティショー2023では見せなかった、電動モビリティのコンセプトモデルをズラリと展示。オートサロンは初出展となるが、これだけ力を入れたことに驚かされた。
これらのモデルで注目されるのは、電動パワートレインのプラットフォームを開発し、ホンダが用意した交換式バッテリーシステムを利用していることだ。ホンダのバッテリー交換システム「Honda Power Pack Exchanger e:」は、電動スクーターなど比較的小型のモビリティに共通して利用できるものとして、二輪業界を中心に共同利用を呼びかけているもので、今回ヤマハが名乗りを上げたのである。
「電動二輪車用交換式バッテリーコンソーシアム」は、そもそもバイクメーカー4社が設立した団体であるから、バイクメーカーが利用に乗り出すのは当然のことだ。だが、実際にモビリティを見ると、「ようやく日本もここまで来たか」という思いが込み上げてくる。
すでに交通インフラが充実しているから、新しいモノが育ちにくいとはいえ、中国や台湾ではとっくに普及しているバッテリー交換システムが日本では普及していなかったからだ。
日本を代表するチューニングパーツメーカーのHKSは、「ハイエース」をPHEV化するだけでなく、LPGや合成燃料、水素まで燃やせるマルチフューエル仕様にして持ち込んだ。スペースに余裕があることからできる限り多くの種類の燃料を利用できるようにするというのは、デモカーとはいえユニークな試みだ。
つまり、改造車マニアのためのイベントから、クルマ趣味やクルマすべてをカバーする唯一無二のイベントに成長しているのだ。
●オートサロンはどこまで成長していくか
今年のオートサロンは、3日間の来場者数が23万人を超えた。10日間開催したジャパンモビリティショーは111万人であったから及ばないが、来年以降、コロナ禍前の水準である30万人規模に復活するのは時間の問題だろう。
自動車メーカーもこれだけ力を入れているイベントであるし、1日あたり10万人規模の来場者であることを考えれば、その影響力を頼りにするのも当然のことだろう。そうなると関心は、「オートサロンは果たして自動車業界の要素をどこまで飲み込めるか」ということになる。
ジャパンモビリティショーを主催する日本自動車工業会の豊田章男前会長は、モビリティショーを隔年ではなく毎年開催にしたいと発言したこともあったが、ある意味東京オートサロンはモビリティショーを補完する存在になりつつある。
モーターショーがモビリティショーと名称を変えたように、クルマを取り巻く環境は急速に変化しつつある。その一方で、本来のクルマが持つ魅力、エンジンパワーによる強烈な加速やコーナリングなどダイナミックな走りのイメージこそ、東京オートサロンの求心力だと言える。
マレーシアでの開催や中国のカスタムカーイベントへの特別後援など、オートサロンブランドの海外展開も進みつつある。クルマ趣味をけん引する、日本の自動車産業界や雑誌業界を支える一大イベントとして、オートサロンはどこまで成長していくのか。楽しみに見ていきたい。
(高根英幸)