今回プーチン大統領が金正恩総書記へ贈ったアウルス・セナートリムジン。20数年ぶりのロシア製高級車だ。画像はG20大阪サミットの際に活躍した様子
2月18日、プーチン大統領が金正恩総書記へロシア製高級車の「アウルス」を友好の証としてプレゼントしたと北朝鮮の朝鮮中央通信が報じた。
このロシア製高級車はプーチン大統領の専用車として愛用しているモデルで、昨年9月に金正恩総書記がロシア訪問時にプーチン大統領自ら紹介した経緯のあるクルマだ。
防弾車のセダンタイプで価格は約8200万ルーブル(日本円で約1億6800万円)とされており、同ブランドはセダン・バン・SUV・リムジンタイプと複数のモデルが存在する。
3月15日に農業関係の視察を行った金正恩総書記。その際にアウルス・セナートリムジンの使用が初確認された。
実はこのアウルス、’19年に開催されたG20大阪サミットでプーチンの国内移動用として警護用のタイプなどとともに日本に持ち込み使用していたこともある。日本では一切発売していないメーカーだが、ロシアがウクライナなどあらゆる国との関係を修復しない限り再び日本でこの車を見ることはほぼ不可能だろう。
プーチン大統領も金正恩と同様に長らくメルセデス・ベンツを大統領専用車として愛用していたが、’18年5月の4期目の就任式より同車を使用している。
これは’12年頃よりプーチン大統領が自国製専用車を開発せよという号令の下、数々の国営企業がコンペに参加し、アウルスを製造する国営企業のNAMIがその座を獲得したのである。ロシア大統領専用車はエリツィン政権の初期まではソ連製の専用車を使用していた。
一方、金正恩総書記も国連制裁決議に違反していることなどを全く感じさせない高級車の数々を使用している。
昨年12月、メルセデス・ベンツSクラス(W222)最高級モデルであるマイバッハS650を新たに導入していることが朝鮮中央テレビの映像などから判明した。
また、同年11月の映像ではマイバッハのSUVモデルであるマイバッハGLS600を使用していることも判明。さらに昨年12月と今年2月、3月の映像ではマイバッハの最上級モデルであるS650プルマンというリムジンタイプを少なくとも2台使用しており、本来ならば北朝鮮に渡ることのないはずの現行モデルばかりが活躍している。
金正恩総書記はクルマを含め何でも常に最新のものを使うため、幹部がそれより新しいものを使うことはご法度なのである。
しかしながら今回プレゼントされた専用車をどの程度使用するのだろうか。
昨年はロシアのほか中国、シンガポール、ベトナムを外遊した金正恩総書記だが、普段から訪問国で用意された車を使用せず、北朝鮮より専用車を持ち込む用心深さである。
盗聴はおろか、自身の健康状態が漏えいする可能性からトイレはホテルなどに加えて、専用車内にも持ち込み用を足しているという。その排泄物は取り巻きが回収し北朝鮮へ持ち帰る徹底ぶりだ。
カーマニアともいわれる金正恩総書記。昨年末辺りから先述したメルセデス・マイバッハシリーズを導入したばかりなこともあり、今回のプレゼントは実のところはありがた迷惑なのかもしれない。
昨年12月の行事で使用が初確認されたメルセデス・マイバッハS650(W222)。もちろん防弾仕様だが、その架装具合からメーカー純正モデルの可能性もある(撮影:朝鮮中央テレビ)
先述のマイバッハのリムジンタイプであるマイバッハS650プルマン(W222)。娘のキム・ジュエと視察先に到着した際の様子だ(撮影:朝鮮中央テレビ)
3月15日に使用が初確認されたアウルス・セナートリムジン。プーチン大統領専用車と若干仕様が異なり、標準装備のナンバー両脇の点滅灯の他にグリル内にも点滅灯を追加装備している(撮影:朝鮮中央テレビ)
ボディサイド中央には北朝鮮の国章が備わっており、他の金正恩専用車と同様の紋章が備わる。トランク部分には通信用のアンテナが2本備わっている(撮影:朝鮮中央テレビ)
撮影・取材・文:有村拓真