日産が3月21日に六本木ヒルズで開催したフォーミュラE世界選手権「TOKYO E-Prix」関連イベント(撮影:桃田健史)
フォーミュラE世界選手権「TOKYO E-Prix(イープリ)」が3月30日に東京・お台場で開催される。
日本初開催で、本格的な公道レースとしても国内では前例のない取り組みとなる。
世界的にEV市場が踊り場に差し掛かる中、EVレースの人気がF1を凌駕する日は来るのだろうか。(JBpress)
(桃田健史:自動車ジャーナリスト)
「電気自動車(EV)のF1」とも言われるフォーミュラE世界選手権「TOKYO E-Prix(イープリ)」(決勝3月30日:東京お台場周辺)の開催が近づいてきた。本格的な公道レースが行われるのは日本初となる。
TOKYO E-Prixの翌週には鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)でフォーミュラ1 世界選手権「JAPANESE GRAND PRIX(グランプリ)」が行われる。モータースポーツファンにとって、目が離せないレースが2週続けて週末に開催される。
だが、フォーミュラEは2014年からの実施で歴史が浅く、レース規則が一般的なモータースポーツと違いがあることなどから、モータースポーツファンや自動車関連メディアの間でも認知度があまり高くない。
そうしたなか、日系メーカーで唯一、フォーミュラEに参戦しているのが日産自動車だ。日産は3月21日、六本木ヒルズで「日産フォーミュラE 六本木サーキット」と名付けたイベントを開催し、フォーミュラEの日本初開催を盛り上げた。
六本木ヒルズの屋外スペースに仮設のオーバルコースを設置し、昨年仕様のフォーミュラE GEN2 (第2世代)を低速で走行させ、臨場感のある演出をしてみせた。
仮設のオーバルコースを第2世代のフォーミュラEが低速で走行した(写真:桃田健史)
「ゼロエミッション東京」アピール
東京都は環境基本計画の中で、「2050年に二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロ」という政府目標に貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を掲げている。2030年までに温室効果ガス排出量を2000年比で50%にする「カーボンハーフ」を表明。これに伴い、2030年に都内で販売する新車の乗用車の50%をゼロエミッショビークル(ZEV)とする目標を掲げている。
3月16日、ブラジルのサン・パウロで開催されたフォーミュラEの第4戦、写真は日産チーム(写真:Paulo Lopes/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
ここでいうZEVには、EV、燃料電池車(FCEV)、そしてプラグインハイブリッド車(PHEV)が含まれる。
こうしたゼロエミッション東京の実現に向けて、東京都はZEV普及に向けた新車購入や充電インフラ設置に対する補助金を設けたり、二輪車を含めたZEV普及関連イベントなどを開催したりしてきた。フォーミュラEの東京誘致も、ゼロエミッション東京に向けた盛り上げ企画のひとつである。
小池都知事は「東京臨海エリアで、世界最高峰のレースの迫力を間近で感じてほしい。楽しいワクワクするような未来に向けて脱炭素化のスピードを一気に上げていきたい」と挨拶を締めくくった。
なお、東京都はTOKYO E-Prix開催に合わせて、東京ビッグサイトでZEVと環境にやさしい東京の未来が体験できるイベント「E-Tokyo Festival2024」(3月30〜31日)を実施する。
モータースポーツのEV化は加速するか?
では、ZEVの重要性が今後、東京を含むグローバルでさらに高まると、モータースポーツの世界もEV化が加速し、近い将来、F1がフォーミュラEと融合するといった展開が考えられるのだろうか?
そうした未来を予測するため、少しだけ時計の針を戻してみたい。
EVに代表されるZEVに関しては、2010年代に入ってから欧米日韓の自動車メーカー各社が独自技術を磨いてきた。そうした中で当初、メルセデス・ベンツ(当時のダイムラー)やBMW、日産は高性能なレーシングマシンのプロトタイプをEVとして開発し、報道陣向けに試乗会を行うなどした。その時点では、EVの本格普及は2030年代以降に徐々に進むという予測をするメーカーが多かった。
ブラジルのサン・パウロで開催されたフォーミュラEの第4戦=3月16日(写真:Paulo Lopes/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
こうした状況から一気にEV化の流れが加速した背景にあるのは、「ESG投資」の台頭だ。投資家をはじめとするステークホルダーの環境意識の高まりに押され、株式市場では企業の財務情報だけではなく、環境・社会・企業統治という、いわゆるESGを重視する投資に注目が集まるようになった。
踊り場のEV市場、モータースポーツのEV化は?
そのひとつが、フォーミュラEである。起業家グループを主体としてフォーミュラE構想が立ち上がるも、当初、自動車産業界では「企画倒れになるのではないか?」という声が少なくなかった。ところが、ESG投資の拡大がフォーミュラEの実現を後押しした。
ただし、シーズンが進むにつれて、カーボンニュートラルにおけるEVフォーミュラカーの意義やコストパフォーマンスなどについて、参加するメーカー各社の受け止め方には差がみられるようになった。そのため、フォーミュラEの参戦メーカーは何度か入れ替わってきた。
EVの普及には政治的な動きが大きく影響している。欧州連合(EU)による欧州グリーンディール政策、アメリカのインフレ抑制法(IRA)、中国の新エネルギー(NEV)政策など、欧米中はEVを含むエネルギー政策で主導権争いを繰り広げてきた。
だが、最近では、グローバルで「EV市場が踊り場にある」という指摘もあり、ここにきてEV関連でのESG投資はひと息ついた印象がある。
今年11月にはアメリカ大統領選挙も実施される。トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、バイデン政権が進めてきたEV普及政策がスローダウンするのではないか、という見方もある。
自動車メーカー各社はこれまで、世界的な電動化の流れを受けてF1や世界ラリー選手権(WRC)、世界耐久選手権(WEC)などの世界各地を転戦する大規模モータースポーツにおいて、電動化や合成燃料の活用などを進めてきた。
だが、足元でEV市場に失速感が漂う中、F1などのモータースポーツがフォーミュラEのように完全にEV化へシフトするタイミングは現時点ではまだ見えず、これまで以上に不透明になってきた感がある。
カギはeスポーツ人気、バーチャルとリアルの融合も
そもそも、F1などのモータースポーツの大きな醍醐味の一つは、エンジンが奏でる爆音である。だが、EVレースでは、そうした走行音を楽しむことができず、違和感を抱くレース主催者やモータースポーツファンは少なくない。
ただし、長期的に見れば、そうしたモータースポーツに対する固定概念が覆る大きな時代変化が起こらないとは言い切れないだろう。
例えば、eスポーツなどのバーチャルスポーツが近年、グローバルで急激な発展を遂げている。フォーミュラEを舞台に、バーチャルとリアルを融合させた新しい技術や楽しみ方が実現していく可能性もあるだろう。
そうなれば、EVレースが新たなエンタテインメントとして受け入れられ、既存のモータースポーツも続々とEV化していくことも十分にあり得るはずだ。
そんなモータースポーツの大きな転換期はいつ訪れるのか。その可能性を探るため、Tokyo E-Prixの現場をじっくり取材してみたいと思う。
桃田 健史(ももた・けんじ)
◎Wikipedia
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